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本編

よん

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 目を覚ます。

 どれくらいたったのかわからないが、視界にうつるのが自分の住む部屋の天井だということはわかった。

 ぽん、とその視界を塞ぐように、ひんやりとした手がのせられる。

わたくしは貴女様の影であり、対であり、鏡です。貴女様のことをきっと、貴女以上に知っている」

 子供にかたりきかせるような、優しい声。

「無理をしすぎです、我が主よ。表を繕い、自らに嘘をついていては、心は疲労し、本当と嘘が剥離していく」

 よくわからないものが胸のうちに広がり、じわ、と生暖かいものが目から溢れだす。

「もう少し眠っていてください。本当はまた姿を消そうと思っていた頃なのですが、貴女様がよくなるまで、恐縮ですがお世話させていただきます」

 またすうっと意識が遠のいていく。
 しかし今度は深い眠りへ、と。

 眠る直前、よかった、本当に、よかった、という呟きが、きこえた気がした。


 鼓動が耳元できこえていた。


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