うたた寝と海に呪われたの怪物の話

継津 互

文字の大きさ
6 / 7
本編

しおりを挟む

 結局のところ、彼は窓を突き破ってから四日と少し、このアパートの一室にとどまっていた。

 起きて普通にご飯を食べられるようになって、それを見届け、夕暮れ時に、彼は言った。

「三日のはずでしたのに、長く居座ってしまい申し訳ありませんでした。面倒を見ていただきありがとうございます。それでは」

 礼をして、玄関に向かっていく。

「あの……」

 思わず、呼び止めてしまった。
 しかしその続きが出てこない。

 もう少しだけ、いてほしい、あわよくば……なんて。


 それを察してか、ふふ、と笑うと、彼はおもむろにシャツを脱ぎはじめた。
 後ろを向くと、その背中があらわになる。

「私は人型をとれるとはいえ、所詮怪物でして。人ではないのです」

 びっしりとはえる黒色の鱗、それは首筋までつづき、髪で隠れて見えていなかったこめかみの辺りまで、覆っている。
 ひときわ目立つのは肩甲骨の辺りの、大きな二つの傷痕だ。
 半ばアザのようになっているそれは、痛々しい赤紫に変色している。


 目を見開いたまま止まっている私を傍目に、彼はシャツのボタンをとめてジャケットを羽織る。

「私は貴女様の影、対、鏡。他の魑魅魍魎どもから貴女様をお守りする盾であり、剣」

 安らかな笑みを浮かべ、その怪物は言う。

「よき見つけてください」

 その背は遠ざかっていく。
 玄関の扉が開けられ、黄昏の橙と黄のまじった光が部屋のなかに差し込む。

 その光に彼が溶けていく、というとき。


「……周囲の人にも見える形で人型をとって顕現すると、他の人間となんら変わらない」

 彼女はぱし、と服の裾をとらえていた。

「困りましたね」

 彼がふっと優しく微笑む。

「さすが我が主。頭のよくまわるお方だ」


 秋も深まるその日。揺れる水面に木の葉が一枚、ふわりとおちた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

処理中です...