真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#044 『お骨』

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 20世紀の最後の年と、21世紀の最初の年を跨いだ出来事ということもあり、時期的なところまで よく覚えている、と酒井さんは語る。

 発端は、西暦2000年、秋のお彼岸シーズンのこと。
 秋分の日の休日に家族と一緒にお墓参りに来た高校生の彼は、「お水汲んできて」と頼まれ、墓所の隅にある共同水道に向かっていた。
 何度も使っているので、勝手はわかっている。水道の近くにはコンクリ地の台のようなものがあって、その上に 墓参者が自由に使っていいバケツが乗っている。このバケツに水を汲んで、持って来ればいいのだ。

(墓参りシーズンど真ん中だからな。バケツは、たぶん他の誰かが使ってるだろうな)

 念の為に持ってきたビッグサイズの焼酎ペットボトルを片手に、水道の場所へ到着する酒井さん。
 その時、「あれっ?」と目を見張った。バケツはあるにはあったものの、水道の蛇口の上に逆さまの形にして被せられていたのだ。
 何で台の上に置かれてないの? そう思いながら、例の台の方へ視線をやると、

(うわ・・・ 嘘でしょ・・・)

 思わず顔をしかめた。

 コンクリート製の台の上には、何やら四つ足と思しき生き物の白骨死体が、厳かに横たわっていたのである。
 こいつのせいで バケツが置けなかったのか。前に水道を使った人のことが、何となく不憫に感じられたそうだ。
 骨は、どうも犬か猫のもののようであった。哺乳動物らしいということは学生の酒井さんにも おぼろげに想像出来たが、しかし細かい種類までは当然、特定不可能である。

 それにしても、爪の先まで綺麗に揃って白骨化してるなぁ。
 自然に死んだ生き物なら、カラスとかに死体を突かれて、もっとバラバラな形で骨になってるもんじゃないだろうかなぁ。
 ・・・いや、そもそも自然に死んだ生き物だったら、この台の上に きれいに乗ってること自体が不自然だよなぁ??

 しばらく 真っ白な骨を見つめながらそんなことを考えていたが、直ぐに「あ、早く水を汲んで行かなきゃ怒られる」と現実に帰ってきた。
 バケツはあることにはあったが、せっかく持参したペットボトルが勿体なく感じたので、それに水をいっぱいに入れ、お墓の方へ持って行った。

 あるいは、あの骨の横にあったバケツを使いたくなかっただけなのかも知れませんね―― 当時を振り返って、酒井さんは苦笑される。

「・・・まぁ、ただ気持ち悪いだけで済めば良かったんですけどね・・・」


  ※   ※   ※   ※

 20世紀最後の年は、そのまま何事もなく駆け抜けていった。

 そして年が明け、21世紀。2001年、1月のこと。
 正月の七日も過ぎ去り、新学期もはじまって 「何が21世紀だ。旧世紀とぜんぜん変わらねぇじゃねぇか」と近未来フレーズに文句を垂れはじめていた酒井さん。
 そんな彼が ある日 学校から帰ると、お母さんから「あんた宛てに手紙が来てたわよ」と告げられた。

「見るからにヘンな手紙だったけど・・・ いちおう、お部屋に置いといたから」

 俺に手紙?ヘンな内容?はて?? 酒井さんは首を傾げながら、自室のドアを開けた。
 机の上を見ると、なるほど。くだんの『ヘンな手紙』が乗っている。
 何がどう〝ヘン〟なのだ。上になっていたおもて面を見てみると、

「あ、1998年?!」

 手紙は、年賀はがきだった。
 しかも、である。
 どんな所で保存していたのか。茶色いシミがところどころに滲んでおり、全体的に色が褪せているようにも見える。 
 こちらの宛先も送り先の住所も、プリンタで出力してあると見え、力強い明朝フォントで記されていた。送り先は、縁もゆかりもない中部地方の某県の、聞き慣れぬ町である。
 送り主の名前は、無い。

 こんなところに 知り合いも友達もいない筈だがなぁ。
 そう思いながら手に取り、裏返してみた。
 ギクリ、とおかしな感覚が走った。

 犬の写真がプリントされている。

 ウェルシュコーギーだろう。犬好きな酒井さんには、人懐こそうに舌を出して何処かの室内で写ったそのワンちゃんの犬種が、だいたい特定できた。
 大人になりたてくらいの年頃か。
 愛嬌のある犬だな。そう思うと同時に、


 何故か前年の お彼岸の記憶が、サーッとフィードバックしてきたという。


 お墓参り。水道。その台の上の、白骨死体。

(あ。あの骨、この犬のものだったんだ)

 瞬時に、そう思った。
 何故かは、いまだに説明不能である。
 〝完全に理屈ではない、確信的な閃き〟だったという。
 
 写真の下には、何やら文字がしたためられていた。
 字を覚えたての子供が書いたような。稚拙なバランスの、ひらがなの文章。


〝おにいさん らっきー の おこつを みてくれた ありがとう〟


 確かに、そう読めた。
 その下に書いてある文章は あまりに崩れていて判読し難かったが、


〝きっと いつか おれいに いきます よしお〟


 ――と、読めないこともなかった。

 総毛立った。
 その場で、手紙は破り捨てたという。


  ※   ※   ※   ※

「お骨を〝見つけてくれた〟から ありがとう じゃなくて、〝見てくれた〟から ありがとう になっていたのが―― 妙に厭ですね。今でも」

 忘れた頃にが〝お礼〟にやって来そうな気がして、不安的な恐怖は現在進行形だという。
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