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10話 

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 「クゥ~、いーい仕事した~!」
 「沢山採れて良かったですね。」
 タケノコクエストが終わりギルドへの納品も済ませて外へ出ると、まだ日は明るいようだ。
 お金も入ったことだし、使い方をヒヨリと相談しておいた方がよさそうだな。
 「ヒヨリ、今回のお金をどう使うか相談しようか。」
 「そうですね。遅くなってしまいましたが、昼食をとりながら相談しましょうか。」
 
 そうして俺たちは適当に食べ物を買い、巨大な木の下に来ていた。
 巨大な木の下は今のところ俺たちの仮拠点のような感覚になっている。
 「まず、住むところを確保したいと思う。出来るだけ安く住める場所だ。その次に武器を整えるのも今の状況で優先すべきことだと思ってる。」
 「私もアキトに同感です。早速これ食べたら住めそうなところを探しに行きましょう。」
 「おう。それとお金なんだが、今俺が全部持ってる状態なんだがどうする?二人で半分ずつ持っておくか?」
 「私は、その…ずっとアキトの隣にいるから……お金はいらない、です…」
 ヒヨリが恥ずかしそうに言うせいで、なんだかこっちまでドキドキするぞ。

 そのあとヒヨリといろいろ話し合い、盗難や紛失した場合のことも考えて、俺が全額の3分の2、ヒヨリが3分の1をこれから所持することになった。
 「それじゃあ今から宿探しといきますか。」
 「はい。せっかくなので商店街に近い場所がいいですね!」
 俺とヒヨリは興奮しつつ、商店街へと向かった。

 「宿屋ってどんな見た目なんだろう?」
 「看板を頼りに探すしかないですね。」
 しばらく歩いていると、宿屋らしきところはちらほら見つかるんだが、見るからに高そうなんだよね~。
 「そういえば、確かこの街の案内地図がギルドの中に貼ってあったと思いますよ。」
 「そういえば、なんなものもあったような。」

 試しに俺たちはギルドへ行ってみた。
 「おぉ。これか!」
 「えーっと………はい。見た感じ、この街の宿屋も詳しく載ってます!」
 どれどれ。やっぱり商店街付近に沢山ある感じだな。
 うん?ここはいったい?
 一つだけ街の北西に孤立したような宿屋があった。
 孤立したっておいおい。親近感わいちゃうじゃないですか~。
 「ここなんてどうだヒヨリ?商店街の近くって条件からは外れちまうけど、値段は安いんじゃないか?」
 「そ、そこは……風の噂で聞いたんですけど、街の北西には昔有名な冒険者が住む宿があったそうなんですが、その冒険者は魔物との戦いに敗れて亡くなったそうです。そしてそれ以来すっかり廃れてしまったその宿では、亡くなった冒険者が夜な夜な亡霊となって現れるとか…」
 さすが異世界。ファンタジーの王道をいくような話だな。
 「宿屋として今でも使えるのかな?」
 「ア、アキト…まさかそこに行くつもりですか?」
 「まあな、行って見てみないことにはなんにも分からないからな~。」
 「アキトならそう言うと思いましたよ…とりあえず行ってみることにしましょうか。」
 「ああ、えっとこの道を左に曲がって…ふむふむここを右にっと。よし道は覚えたぞ早速向かおう!」
 「もう道覚えたんですか?凄いですね!」
 「まあな。昔から方向感覚だけには自信あるんだよ。」

 
 ここかぁ。
 外観はすごく大きな豪邸だが、木々が生い茂っていて壁にはツタがびっしり生えている。
 花壇のようなものもみえるが、雑草が生えまくって花が植えてあったような面影もない… 
 見るからに幽霊屋敷だな~。
 そう思いながら見ていると、ヒヨリも似たようなことを思ってるのか絶句している。
 「アキト…幽霊とかって信じる派ですか?」 
 「信じるも信じないもここは魔物もいる異世界だからな~。いても驚かないよ。」
 「じゃ…じゃあ、さっきあの窓からこっちを見ていた少女は幽霊なんですかね?」
 「少女?そんなの見えなかったけど、もしかしたら幽霊かもな。」
 ぶっちゃけ俺はみんなが想像してるような幽霊なんてものを信じていない。
 なんで、どいつもこいつも怖い容姿の幽霊を想像するんだよ!可愛い幽霊とか綺麗なお姉さん幽霊とかがいたっていいだろ!
 心の中で幽霊を怖いものだと認識している人たちにもの申していると、ヒヨリがマナーモードばりにぶるぶる震えている。
 「そんなに怖いのか?」
 「アキト、そろそろ帰らない?」
 「帰る場所がないからここに来たんだろ~。」
 「それはそうだけど私思うの、野宿って素晴らしいって!」
 ヒヨリが震えて明後日の方向を見ながら帰ろうとしてる。
 「少し落ち着け。ほら!」
 そして俺は右手をヒヨリに差し出した。
 「へ?」
 「怖いんだろ?一緒にいるから安心しろよな。」
 「は、はい。」
 ヒヨリは真っ青な顔が少し和らぎ、俺服の袖をちょこんと握った。 
 「立ち入り禁止の看板もないし、入るか!」
 ヒヨリがゴクっと喉を鳴らし、覚悟を決めたように返事をする。
 「はい…」
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