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第2話 リサーリアの境遇①
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「朝はさっぱりと目覚めたいから、冷たい水が良いと奥様が仰っていたのです。お風呂は熱いお湯は気持ち悪くなるからぬるめがいいと仰っていたので、その通りにしただけです。氷のように冷たいなどと大げさすぎます。緩い纏め方だとすぐに髪型が崩れるので強めにして欲しいと仰ったのも奥様ですし、大きい足は労働階級者だけ。小さい足が貴族女子のステータスなのよと小さい靴を希望されたのも奥様です。食事は奥様が極端に辛い味付けや甘い味付けを好まれているので希望に沿うよう料理長と相談してご用意しております。一度、奥様のお体に良くないと苦言を呈しましたところ、侍女のくせに口答えをするなとたいそうご立腹になられたもので…。それからは言いつけを守っていただけでございます。それなのにそのように大奥様に仰られるなんて…」
と涙ながらに義母に訴えたのだった。
つらつらと淀みなく、時には涙を流しながら話し続けるタラの独壇場に唖然としながら聞いていた私。
そして、タラの言い訳劇場が終幕すると義母の口から出たのは私への叱責だった。
「何て人なの! タラはあなたのわがままを忠実に聞いていただけなのに、さもタラが悪者のように言うなんて…!」
「…え?」
私はタラのいかにも嘘だらけの言い訳が通じるはずがないと思っていたのに、義母にはすんなり通ってしまった。
この家の人は嫁いできたばかりの嫁よりも、代々仕えている侍女の言葉を信じたのだ。
タラが私を嫌がらせをする理由は分かっている…モートン様だ。
彼女はモートン様の事が好きなのだ。
タラは当時侍女としてこの家で働いていた母親と一緒に、時々この屋敷に来ていたらしい。
そこでモートン様と話す事もあったみたい。
それにモートン様に対する態度が露骨すぎて、分からないはずがない。
やたら彼の身の周りの世話をしたがるし、これ見よがしに胸元が開いた洋服を着て見せたり。
けどモートン様はその都度、
「いちいちお前が来なくても、私の事は他の者に頼むからいい」
「その服、サイズが合っていないんじゃないのか?」
そう言って相手にしていない。ふふふ。
だからモートン様の妻となった私の存在が、よけいに面白くないのでしょうね。
それにしても、お義母様に相談しても意味なかったわね。
まぁ、人に言っても仕方がないというのは身をもって知っていたけど…
そして人からの嫌がらせは、これが初めてという訳ではないし。
貴族の世界と言っても、平民と言われる人たちよりよっぽど品性下劣な人間のたまり場よね。
◇◇◇◇
私の父であるウォルトマン伯爵は、母と婚姻する前から愛人と息子がいた。
だから、父に可愛がってもらった記憶は全くない。
もともと体の弱かった母は私を産んでからますます弱くなってしまった。
そして、そんな母と私を疎んじていた父は屋敷の離れに住まわせて、関わらないようにした。
最初は毎日3度の食事が届けられ、その時運びに来た使用人に必要なものがあれば頼み、次回持ってきてもらう…そのような生活を送っていた。
しかし、その回数も日を追うごとに減っていった。
毎日が3日に一度、一週間に一度…しまいには一か月に一度来ればましな状態になった。
たまに届けられたと思ったら、腐った食べ物や残飯ばかり。
結果、母と私はいつも空腹に苦しんでいた。
何度か訴えたけれど、私の話を聞いてくれる人はあの屋敷には誰もいなかった。
母はいつも私に謝っていた。
「ごめんなさいね、リサーリア。私が弱いばかりに…」
そう言われるたびに私は首を横に振って言った。
「謝らないで。お母様は全然悪くないわ」
悪いのは私たちを蔑ろにした夫であり父であるウォルトマン伯爵。
…しかし、あの人を恨んでも空腹が満たされる事はない。
今考えるべき事は、どうすれば食べ物を手に入れられるか。
本邸に行って盗んでくる? それを毎日するの?
「…んー…」
私は自分に何ができる考えた。
食べ物を手に入れるにはお金が必要だ。
お金を作るには…そこで自分の得意な事を一つ思い出した。
刺繍だ。
もともと貴族女性の嗜みのひとつでもあるけどね。
これをハンカチや小さな袋に可愛い模様を刺繍すれば売り物にならないかしら?
そしてその対価で買い物ができれば…
しかし、問題は品物が出来たとしても、どうやって町に売りに行くか…だった。
いつも門番が立っている屋敷の門から堂々と出て行くわけにはいかない。
お金を稼ぎに街に行く事が知られたらあの父親に全て奪われた挙句、もっとひどい目に遭うかもしれない。
考えながら離れの周りをウロウロしていると、蔦で隠れたドアに気が付いた。
と涙ながらに義母に訴えたのだった。
つらつらと淀みなく、時には涙を流しながら話し続けるタラの独壇場に唖然としながら聞いていた私。
そして、タラの言い訳劇場が終幕すると義母の口から出たのは私への叱責だった。
「何て人なの! タラはあなたのわがままを忠実に聞いていただけなのに、さもタラが悪者のように言うなんて…!」
「…え?」
私はタラのいかにも嘘だらけの言い訳が通じるはずがないと思っていたのに、義母にはすんなり通ってしまった。
この家の人は嫁いできたばかりの嫁よりも、代々仕えている侍女の言葉を信じたのだ。
タラが私を嫌がらせをする理由は分かっている…モートン様だ。
彼女はモートン様の事が好きなのだ。
タラは当時侍女としてこの家で働いていた母親と一緒に、時々この屋敷に来ていたらしい。
そこでモートン様と話す事もあったみたい。
それにモートン様に対する態度が露骨すぎて、分からないはずがない。
やたら彼の身の周りの世話をしたがるし、これ見よがしに胸元が開いた洋服を着て見せたり。
けどモートン様はその都度、
「いちいちお前が来なくても、私の事は他の者に頼むからいい」
「その服、サイズが合っていないんじゃないのか?」
そう言って相手にしていない。ふふふ。
だからモートン様の妻となった私の存在が、よけいに面白くないのでしょうね。
それにしても、お義母様に相談しても意味なかったわね。
まぁ、人に言っても仕方がないというのは身をもって知っていたけど…
そして人からの嫌がらせは、これが初めてという訳ではないし。
貴族の世界と言っても、平民と言われる人たちよりよっぽど品性下劣な人間のたまり場よね。
◇◇◇◇
私の父であるウォルトマン伯爵は、母と婚姻する前から愛人と息子がいた。
だから、父に可愛がってもらった記憶は全くない。
もともと体の弱かった母は私を産んでからますます弱くなってしまった。
そして、そんな母と私を疎んじていた父は屋敷の離れに住まわせて、関わらないようにした。
最初は毎日3度の食事が届けられ、その時運びに来た使用人に必要なものがあれば頼み、次回持ってきてもらう…そのような生活を送っていた。
しかし、その回数も日を追うごとに減っていった。
毎日が3日に一度、一週間に一度…しまいには一か月に一度来ればましな状態になった。
たまに届けられたと思ったら、腐った食べ物や残飯ばかり。
結果、母と私はいつも空腹に苦しんでいた。
何度か訴えたけれど、私の話を聞いてくれる人はあの屋敷には誰もいなかった。
母はいつも私に謝っていた。
「ごめんなさいね、リサーリア。私が弱いばかりに…」
そう言われるたびに私は首を横に振って言った。
「謝らないで。お母様は全然悪くないわ」
悪いのは私たちを蔑ろにした夫であり父であるウォルトマン伯爵。
…しかし、あの人を恨んでも空腹が満たされる事はない。
今考えるべき事は、どうすれば食べ物を手に入れられるか。
本邸に行って盗んでくる? それを毎日するの?
「…んー…」
私は自分に何ができる考えた。
食べ物を手に入れるにはお金が必要だ。
お金を作るには…そこで自分の得意な事を一つ思い出した。
刺繍だ。
もともと貴族女性の嗜みのひとつでもあるけどね。
これをハンカチや小さな袋に可愛い模様を刺繍すれば売り物にならないかしら?
そしてその対価で買い物ができれば…
しかし、問題は品物が出来たとしても、どうやって町に売りに行くか…だった。
いつも門番が立っている屋敷の門から堂々と出て行くわけにはいかない。
お金を稼ぎに街に行く事が知られたらあの父親に全て奪われた挙句、もっとひどい目に遭うかもしれない。
考えながら離れの周りをウロウロしていると、蔦で隠れたドアに気が付いた。
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