霊と恋する四十九日

色部耀

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 ホームルームが始まってすぐ、担任の先生が那由を指名して文化祭の打ち合わせが始まった。周りにも緊張が伝わる程の無表情で教壇に立つ那由。隣には黒板に向かってチョークを持つ勝也の姿。クラスは思いのほか静かで、窓から入って来る風が那由の用意したノートをめくる音だけが教室に響いた。

「えーと。今日は文化祭で何をするかを決めたいと思います。休み前に何か案を考えてきてくれるように伝えていましたが、何かある人は挙手をお願いします」

 那由の呼びかけにあまり反応は無く、変わらずクラスメイトは静かだった。周りの人が何か言わないかと様子を伺っているものや、無関心を決め込む人などそれぞれである。担任の男性教諭は自ら干渉をすることを拒むかのように腕を組んだまま教室の角で黙って立っているだけ。勝也は出た案を黒板に書き出せるようにチョークを持って待機していた。

「誰か……意見はありませんか?」

 少し時間を置いてから再度問いかける那由に対して、またしても沈黙。それに対して業を煮やしたのか、勝也が少しだけ声を荒らげた。

「他のクラスはお化け屋敷とか金魚すくいとかで決まってるとこもあるみたいやけど。他にも体育館使って演奏とか歌とか劇とか。被るのはしょうがないけん、何かこれならやっても良いとかない?」

 勝也の言葉を聞いてからようやくクラスメイト達がざわざわと話を始めた。しかし、その内容はどれも面倒なものはやりたくないだとか楽なものが良いとかネガティブな意見だった。

「えーと。みなさん忙しくてあんまり考えてこられないかと思って一つ案を考えてきました」

 ざわめきが建設的でないと判断したのか、那由は少し声を大にして話し始めた。

「写真展と写真の販売なんてどうでしょう? 各自いろんなところで写真を撮って教室に飾ったりなんかして。これならあんまり時間もかからないと思うので」

 那由の話を聞いて、クラスメイト達からは楽そうだし良いといった意見が飛び交っていた。しかしそこで一人の女子生徒が手を上げた。

「はい、上岡さん」

 那由に上岡と呼ばれた彼女は肩まで伸びるサイドテールを手で払うと跳ねるように立ち上がる。目つきが鋭く、外見から明らかに素行が悪そうな彼女は上げていない方の手を机についたまま威圧的な言い方で話し始めた。

「写真って何使って撮んの? あと現像とか誰がやるん? 展示するんやったらパネルとかの準備もいるんやないん?」

 上岡に質問された内容に、那由は用意していたとばかりにすぐさま答えた。

「写真は携帯で撮って私に送ってください。まとめて現像に出そうかと思います。で、えっと……パネルは学校で購入してもらえると思うので、文化祭前日にでもみんなで組み立てて写真を貼ってもらえたら完成すると思います」

 後半少し言い淀みながら那由は説明した。怪訝そうな顔をしたクラスメイトが何人かいたが、丁度チャイムが鳴って担任の先生が口を開いた。

「文化祭は写真展で良いかな? 他の意見がある人は挙手! ……いないな。じゃ、先生と木田はこれから委員会打ち合わせがあって三十分くらい戻ってこないから。一時間目は基本自習だけど文化祭の件で何かあったら……高橋! よろしくな」

 担任は勝也の肩を叩くと那由を連れて教室を後にする。残された勝也は痛そうに肩をさすって苦そうな顔をしていた。
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