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第五章〈王太子の宮廷生活〉編
5.3 王太子を取り巻く人たち(3)姉王女たち
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私の両親、狂人王シャルル六世と母妃イザボー・ド・バヴィエールの間には王子と王女が5人ずつ、全部で10人の子が生まれた。
王子たちは末弟の私を残して夭折したが、王女たちは長姉をのぞいて4人とも健在だった。
私が王太子になって宮廷入りしたとき、四姉妹はパリにいなかった。
それぞれに事情があり、フランス各地に散っていた。
だから、じかに会う機会はめったになかったが、このたび私の王太子就任を祝うため、姉弟が王宮の片隅に集まった。
いい機会だから、紹介しておこう。
姉王女たちはそれほど歴史の表舞台に出て来ないが、私の物語を伝える上で欠かせない人物なのだ。
====================
長姉、イザベル王女。故人。
7歳のときに、休戦協定の証しとしてイングランド国王リチャード二世と結婚したが、クーデターでリチャードが殺されると11歳で未亡人となり帰国した。
母妃とその愛人・王弟オルレアン公の意向で、17歳のときにオルレアン公の長男シャルル・ドルレアンと再婚するが、その三年後、生んだばかりの娘を残して亡くなる。享年20歳。
余談になるが、シャルル・ドルレアンは、この前年に父を殺され、同年に母と妻を亡くしたことになる。
15歳の彼の手元には、生まれて間もない一人娘が残された。
翌年、アルマニャック伯の令嬢ボンヌと再婚し、ブルゴーニュ公に弾劾状を送っている。
弾劾状とは、既得権益に守られている罪人を告発する書簡だ。
アジャンクール敗北後に捕らえられてロンドン塔に幽閉中だが、宰相アルマニャック伯の補佐を受けながら、オルレアンでは後妻のボンヌが、宮廷では異母弟のジャンが動いている。
姉、イザベル王女。
従兄、シャルル・ドルレアン。
王子王女が政略の駒になるのは世の常。
とはいえ、王家に振り回されている彼らの胸中は計り知れない。
====================
2番目の姉、ジャンヌ王女。26歳。
8歳のときに、ブルターニュ公ジャンと結婚。
ブルターニュ公ジャンは、あのアルテュール・ド・リッシュモンの兄だ。
婚約ではなく、結婚である。
夫になったブルターニュ公は10歳足らずで、妻になったジャンヌ王女は8歳。
弟のアルテュールは6歳だった。
ブルターニュ兄弟を襲った悲劇は、またページをあらためて説明しよう。
当時、私はまだ生まれてもいないが、イングランド王位を奪ったヘンリー四世の陰謀劇とブルターニュ兄弟の悲劇は無関係ではないのだ。
====================
3番目の姉、マリー王女。24歳。
セーヌ川沿いにあるポワシー女子修道院で院長を務めている。
父王の快癒と母妃の悪徳を贖罪するために神に捧げられ、4歳から修道生活を送っていた。
12歳のときに、母妃が訪れて「還俗して結婚するように」と縁談を持ちかけた。
しかし、修道院に滞在中、母妃と愛人が人目も憚らずに淫らな行為にふけっている光景を見かけて、「父上がわたくしの縁談をお望みなら従います。ですが、母上のご命令には従えません」と告げ、丁重に断ったと伝わっている。
幸か不幸か、王家との関わりは薄い。
しかし、状況次第では、王侯貴族と宗教界を結ぶ橋渡し役を担う場合もある。
====================
4番目の姉、ミシェル王女。22歳。
母妃と愛人ブルゴーニュ公の意向で、14歳のときにブルゴーニュ公の嫡男フィリップと結婚。
繰り返すが、王子王女が政略の駒になるのは世の常。
だが、中でもミシェル王女は複雑な立場に置かれていた。
フィリップとミシェル王女の結婚は、先に述べたように、王弟オルレアン公の妃とイザベル王女が相次いで亡くなった年だ。
オルレアン公の権力が急速に失われ、ブルゴーニュ公の権力が増大した。
宮廷の権力が移ろいゆく、その影には、つねに母妃こと淫乱王妃イザボーの意向が働いていた。
====================
5番目の姉、カトリーヌ王女。16歳。
姉マリー王女とともに、ポワシー女子修道院で生活している。
私も修道院育ちだが、ポワシーは女子専用だったため、ロワール川沿いにある別の修道院へ送られたのだろう。
姉たちが言うには、「カトリーヌ王女は、長姉イザベルに生き写し」らしい。
末妹カトリーヌと末弟の私が生まれる前にイザベル王女は没したため、長姉のことは人づての話しか知らない。
生きていれば28歳だから、私とは14歳も年の差がある。
姉の容姿が、私と姉カトリーヌの人生とフランス王国の運命に大きな影響を及ぼすことになるとは、このときの私たちは思いもしなかった。
(※)第三章〈アジャンクールの戦い〉編・1話「争いの始まり、それぞれの野心」で、シャルル・ドルレアンが異母弟ジャンに「君はまだ子供だ」と言ったのは、彼自身が壮絶な過去を背負っているためです。
(※)姉王女たちはメインキャラクターではありませんが、「あるエピソード」を読んだ後、このページを再読する日が来ると予言しておきます(ちょっと大袈裟かも)
王子たちは末弟の私を残して夭折したが、王女たちは長姉をのぞいて4人とも健在だった。
私が王太子になって宮廷入りしたとき、四姉妹はパリにいなかった。
それぞれに事情があり、フランス各地に散っていた。
だから、じかに会う機会はめったになかったが、このたび私の王太子就任を祝うため、姉弟が王宮の片隅に集まった。
いい機会だから、紹介しておこう。
姉王女たちはそれほど歴史の表舞台に出て来ないが、私の物語を伝える上で欠かせない人物なのだ。
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長姉、イザベル王女。故人。
7歳のときに、休戦協定の証しとしてイングランド国王リチャード二世と結婚したが、クーデターでリチャードが殺されると11歳で未亡人となり帰国した。
母妃とその愛人・王弟オルレアン公の意向で、17歳のときにオルレアン公の長男シャルル・ドルレアンと再婚するが、その三年後、生んだばかりの娘を残して亡くなる。享年20歳。
余談になるが、シャルル・ドルレアンは、この前年に父を殺され、同年に母と妻を亡くしたことになる。
15歳の彼の手元には、生まれて間もない一人娘が残された。
翌年、アルマニャック伯の令嬢ボンヌと再婚し、ブルゴーニュ公に弾劾状を送っている。
弾劾状とは、既得権益に守られている罪人を告発する書簡だ。
アジャンクール敗北後に捕らえられてロンドン塔に幽閉中だが、宰相アルマニャック伯の補佐を受けながら、オルレアンでは後妻のボンヌが、宮廷では異母弟のジャンが動いている。
姉、イザベル王女。
従兄、シャルル・ドルレアン。
王子王女が政略の駒になるのは世の常。
とはいえ、王家に振り回されている彼らの胸中は計り知れない。
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2番目の姉、ジャンヌ王女。26歳。
8歳のときに、ブルターニュ公ジャンと結婚。
ブルターニュ公ジャンは、あのアルテュール・ド・リッシュモンの兄だ。
婚約ではなく、結婚である。
夫になったブルターニュ公は10歳足らずで、妻になったジャンヌ王女は8歳。
弟のアルテュールは6歳だった。
ブルターニュ兄弟を襲った悲劇は、またページをあらためて説明しよう。
当時、私はまだ生まれてもいないが、イングランド王位を奪ったヘンリー四世の陰謀劇とブルターニュ兄弟の悲劇は無関係ではないのだ。
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3番目の姉、マリー王女。24歳。
セーヌ川沿いにあるポワシー女子修道院で院長を務めている。
父王の快癒と母妃の悪徳を贖罪するために神に捧げられ、4歳から修道生活を送っていた。
12歳のときに、母妃が訪れて「還俗して結婚するように」と縁談を持ちかけた。
しかし、修道院に滞在中、母妃と愛人が人目も憚らずに淫らな行為にふけっている光景を見かけて、「父上がわたくしの縁談をお望みなら従います。ですが、母上のご命令には従えません」と告げ、丁重に断ったと伝わっている。
幸か不幸か、王家との関わりは薄い。
しかし、状況次第では、王侯貴族と宗教界を結ぶ橋渡し役を担う場合もある。
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4番目の姉、ミシェル王女。22歳。
母妃と愛人ブルゴーニュ公の意向で、14歳のときにブルゴーニュ公の嫡男フィリップと結婚。
繰り返すが、王子王女が政略の駒になるのは世の常。
だが、中でもミシェル王女は複雑な立場に置かれていた。
フィリップとミシェル王女の結婚は、先に述べたように、王弟オルレアン公の妃とイザベル王女が相次いで亡くなった年だ。
オルレアン公の権力が急速に失われ、ブルゴーニュ公の権力が増大した。
宮廷の権力が移ろいゆく、その影には、つねに母妃こと淫乱王妃イザボーの意向が働いていた。
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5番目の姉、カトリーヌ王女。16歳。
姉マリー王女とともに、ポワシー女子修道院で生活している。
私も修道院育ちだが、ポワシーは女子専用だったため、ロワール川沿いにある別の修道院へ送られたのだろう。
姉たちが言うには、「カトリーヌ王女は、長姉イザベルに生き写し」らしい。
末妹カトリーヌと末弟の私が生まれる前にイザベル王女は没したため、長姉のことは人づての話しか知らない。
生きていれば28歳だから、私とは14歳も年の差がある。
姉の容姿が、私と姉カトリーヌの人生とフランス王国の運命に大きな影響を及ぼすことになるとは、このときの私たちは思いもしなかった。
(※)第三章〈アジャンクールの戦い〉編・1話「争いの始まり、それぞれの野心」で、シャルル・ドルレアンが異母弟ジャンに「君はまだ子供だ」と言ったのは、彼自身が壮絶な過去を背負っているためです。
(※)姉王女たちはメインキャラクターではありませんが、「あるエピソード」を読んだ後、このページを再読する日が来ると予言しておきます(ちょっと大袈裟かも)
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