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お誘い受けたけど…

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目を開け、ステンドグラスを見上げる。そこに描かれている双子神は先程見た姿とそっくりで、昔はあそこから降りてきていたのかと思う。

「シス!」

大声で呼ばれて驚きながらそちらを向こうとすると、抱きしめられた。ミリアンだ。
初めて会った時から穏やかな笑みを浮かべて、驚く事が少なそうな雰囲気だったのに今はとても焦っている。どうしたのだろうか。

「ミリアン、どうしたの」

聞いてみるが、何も答えない。困って神官を見るが、目を見開いている。

「そん、な…っまさか?

…騎士様ご相談があります」

「だめだ」

ミリアンが神官の言葉に重ねるようにすぐ返事をする。

「しかし!」

「それはだめ。この子は幸せになるべきなんだ」

「…教会にいると、幸せになれないと仰るんですか」

理由は分からないが、神官は私を教会に所属させたいらしい。

ミリアンの声がとても冷たい。

「いいえ~そういう訳では無いですけど、貴方達が求めるそれは自由ではない。そうでしょう?今までも普通を知らなかったこの子を、そこに行かせたくない。

この子は、守られる事を知らないんです~。だから、だからこそそこはだめです」

「…教会の守りは万全です」

「違います~。物理的なものじゃなくって、精神的なもの。どうせこの子は幼子ではなく与えられる称号として扱われるでしょう」

「騎士様には分からないと思いますが、とても誉高い事です」

ミリアンが鼻で笑う。苦しそうだ。

「そうでしょう。でも、個人として扱われないじゃないですか~。

僕に分からないとか言いますけど、それって貴方の方じゃないんですか~?貴方は、自分の家族を家族として接する事が出来なくなる思いなんて、してないでしょ?」

神官はハッとした様な顔をした。その目線の先にはミリアンの顔、いや、耳があるように見える。

「分かりました。でも、この状態は誤魔化せません。報告はさせて頂きます」

「…本当は嫌だけど、貴方に非はないですし、しょうがないですね~。

帰らせて頂きま~す。さよ~なら」

ミリアンは私を抱えて教会を出て行った。

ミリアンの過去は気になるけど、まだ聞ける段階ではない、と思い、抱きつく力を強めた。









「…あの子が祈りを捧げたら、こんなにもこの場が神力に溢れた。それにあの子の瞳と髪の色は…。

あの方は、聖女、なのでしょう。しかし、一緒に来ていたのが寄りにもよって兎人族とは。

しかし、否定はできません。きっと、自由ではない。私は、子ども達の幸せを願いながら1人の少女の幸せを壊そうとしている。
それが誉高いとしても、なんて自己矛盾なんでしょう」

その場に残された神官は、自嘲した。









「シス~。団長と連絡を取りたいからここで待っててくれる?僕も見える場所にはいるから」

ミリアンはそう言って人通りの多いベンチに私を座らせた。
まだ子どもに聞かせる話では無いと思ったのだろう。困らせる理由もないし頷いておいた。
気にならないと言ったら嘘になるが、きっと彼らは必要になった時、1人前になった時に教えてくれるだろう。

ミリアンは少し離れた建物の壁によって石を取り出した。電話のようなものだろうか。

せっかくだからと私は周りを見回した。賑やかなここには、大人も子どもも、若い人も歳をとった人も、色んな種族の人で溢れていた。
顔立ちは皆海外の人のように彫りが深い。私は前世の影響か、そこまで彫りが深い訳では無いので少し目立っているように思う。

髪色もカラフルで、茶色が多いけどそれも種類がたくさんある。

「ご本読んで」

「ん?」

服を引かれる方を見ると、小さな子が手に本を持って私を見つめていた。

「こら、やめないかい!ごめんね。この子、色んな人にずっとそう声をかけてるんだ。文字を読めるのなんて少ないのに、この子にはまだ分からないからね」

恐らく母親であろう女性が近くにかけてきた。

「ねーね。ご本読んで」

その子はまたそう声をかけてくる。手に持っている本を見ると、『どらごんとゆうしゃ』と書かれていた。

あの子の顔が浮かぶ。

私は頭を振って、その子に優しく微笑んだ。

「いいよ。読んであげる。ここに座って。

…ドラゴンと勇者。…どのくらい昔の話だったか忘れたが、とても昔の事…」

記憶をなぞるように、言葉を紡いだ。





「…勇者は王様に認められ、お姫様と幸せに暮らしました」

「おおー!」

その子はぱちぱちと小さなその手を叩き合わせた。

「…あんた、すごいねぇ。そんな小さいのに本が読めるのかい?でも、あんまり人通りの多いところでしない方がいいよ。ガラの悪いヤツらに売り飛ばされちまうよ。
1人みたいだけど、親はどうしたんだい」

「その子の保護者は僕だよ~」

近づいてきていたミリアンはシスの後ろから顔を出しながらそう言った。
ミリアンはちょいっとシスを持ち上げると、小さい子とその母親に声をかけた。

「僕達もこの後用事があるからこれで失礼するよ~。ばいばーい」

それからミリアンに連れられて買い物をした。
でも、私があまり服などを選ばないせいか、ミリアンが気に入ったものを次々と入れられた。止めようとしたが、

「僕のお金を僕がどう使おうと僕の勝手だから、気にしないで~。受け取ってくれなくても大丈夫大丈夫~」

そう言われてしまった。しかし、私のために、ということを考えると受け取らないという選択肢はなく、結局好きなようにされてしまった。

でも、私のことを考えて、という行動は嫌ではなかった。私のことを考えてくれたのは…。

「ありがとう」

ミリアンにそう伝えた。ミリアンは驚いたように私に顔を向けた。そして顔を優しく緩ませた。

「どういたしまして~」




帰ると、一緒に出かけたと言うだけでも羨ましいのに、自分の金でシスの日用品を揃え、服をプレゼントしたミリアンに嫉妬の視線が集まった。
ミリアンはそんな彼らに珍しくドヤ顔をして煽っていた。

しかし、それはシスの知らないことである。
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