ベタボレプリンス

うさき

文字の大きさ
上 下
35 / 251

31

しおりを挟む

「おい真島。ちょっといいか」
「はっ…はい!」

 声を掛けたら、ピンと背筋を伸ばして真島は固まる。
 どれだけ俺に身構えてんだこいつは。

 だが真島の気持ちも態度も、全部誰が原因か分かりに分かりきっているため、さすがの俺も言いづらさに視線を逸らす。

「た…高瀬くん?」

 首筋に手をあて少し言い淀んでいたら、真島が心配そうな顔で俺の元へ来た。
 何が言いづらいって『探しに行け』はいいが、二人でパレード見させるにはそのまま『帰ってくるな』と言わないといけない。
 これにはさすがにこの鈍い真島だって、俺の意図に気付くだろう。
 
「ど、どうしたの?」

 何も言わないでいたら、不意に額に手をあてられた。
 それから頬に手を当てられ、何か熱があるんじゃないか、みたいな素振りをされる。

 俺が少し黙ってただけでなんですぐ具合悪いみたいな発想になるんだよ。
 だが真島の顔は本気で心配そうで、俺はコイツの純粋さに無性に居たたまれなくなった。

 ぐしゃっと髪を掻くと、真島の顔を見据える。

「お前、今から亜美ちゃんと一緒にパレード見てこい。別のところで待ってるらしいから」
「…えっ?」

 ド直球で言ってやった。
 こんなの包み隠してもしょうがねえ。
 そもそも真島相手にヘタな小細工するのは、俺が気持ち悪い。

「…えっと、それは――」

 俺の言葉に唖然としたように真島が口を開くが、唐突にその言葉が途切れた。
 恐らく俺の言った言葉の意味を理解したらしい。

「…っ」

 真島は絶句していた。
 遊園地で周りはガヤガヤと賑やかなはずなのに、俺達のところだけ音が止んだみたいに静かだった。

 不意に真島がヒクリと喉を震わせる。
 その瞳が大きく揺れて、俺はバクリと嫌な感じに心臓が鳴った。

 ――ああ、やばい。泣かせる。

 真島の目に溜まった涙が、零れ落ちそうなほど潤んだ瞳から、目が逸らせなかった。
 だが真島は唇をぎゅっと噛みしめると、一度下を向く。
 それからゆっくりと顔をあげると、俺を安心させるようにニコリと笑顔を作った。

「…わかった。高瀬くんが言うなら」

 そう言い残して、真島は背を向ける。
 泣かれるかと思ったが、真島は泣かなかった。
 
 俺は真島のあまりにも下手くそな笑顔に呆然としていた。
 女の子たちとの企みは成功したはずなのに、気分が晴れなかった。
 いや、晴れるどころか後味が悪すぎる。

 なんなんだよ、今の顔は。
 
 真島は俺が言うなら、と言った。
 やりたくないなら、行きたくないならやらなければいいだろ。
 俺の頼みだから仕方なく、なんて言い方はずるすぎる。

 だが真島が俺の言葉を否定しないことを、俺は分かっていたはずだ。
 あんな顔をさせる事も全部分かっていた。
 
 正直あんな状態の真島を亜美ちゃんのところに行かせたところで、どうなるっていうんだ。
 こんなことには何の意味もないことを最初から知っていて、俺は真島のへこんだ顔でも見て楽しみたかったのか。

 辛気臭い顔で笑った真島の顔だけが、やけに頭をぐるぐると回っていた。
 なんで俺がこんな気持ちにならないといけねーんだ。

 それもこれも全部、真島が俺を好きなせいだ。

 
「――あーあ、もうめんどくせえ。やめた」

 俺はグダグダと考えていた思考を放棄する。
 さっさと足を踏み出すと、背を向けて歩いていた真島の手を後ろから掴んだ。
 
「――えっ?」

 俺の予想外の行動に真島はかなり驚いたようで、その瞳が大きく見開かれる。

「真島。今のは俺が悪かった。お前が行きたくねーなら、もう言うこと聞かなくていいから」
「えっ…でも…」
「いいよ。亜美ちゃんのところには、コイツ行かせるから」

 そう言って、ベンチでグロッキーになってた貞男の襟首を引っ掴む。

「ちょっ…いきなり何。なんで俺が――」
「アホ、真島が女の所に行くよりマシだろ」

 こそっと事情を耳打ちしたら、貞男は渋々納得した。
 さすが持つべきものは真島の親友だ。

「な、だから真島。それより俺と見ようぜ」
「ちょっ…俺に押し付けておいて――」
「――見たい!俺、高瀬くんと見たいっ」

 分かってるよ。二回も言うな。
 さっきまでの落ち込みきっていた表情が、みるみるうちに興奮したように変化する。
 ホント分かりやすい奴だな。
 
 だが俺は真島がようやく見せた綺麗な笑顔に、なぜか今は安堵感で満たされていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

視線

BL / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:887

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:383

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,883pt お気に入り:4,029

アイテムボックスを極めた廃ゲーマー、異世界に転生して無双する。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:2,378

悪魔皇子達のイケニエ

BL / 連載中 24h.ポイント:2,216pt お気に入り:1,914

アイツが寝てる間に

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:27

デリヘルからはじまる恋

BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:657

図書館のかみさま

青春 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:0

処理中です...