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夏の王
白の印
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イチは語った。
我が”夏の国”から、過去の”春の国”に跳ばされ。
春の王、赤のラグナルに愛され、印を授かり。共に発明品を開発した。
だが、突然”冬の国”に跳ばされ。
冬の王ザラームと出会い、ラグナルとの子を授かっていたことを知り。
ザラームに”春の国”へ連れて行かれ、子供と孫、曾孫と再会し。
共にラグナルの遺言を聞いたという。
その話は、シグルズの著書と一致する。
◆◇◆
そして、”冬の国”で黒の印を授かり。
ザラームと共に氷菓子作りや寒い国ならではの商業を教え。
また”秋の国”へ跳ばされた。
そこでは、エセル王に見初められ、印を授かったが。
ルークという白の”印持ち”が目覚め、エセル王に取って代わった。
白の印は、神に匹敵する、凄まじい力だったという。
しかし、ルーク王は、イチを解放するために、子を授かろうと言った。
子を授かれば、その時点で他の国に移動すると確信したのだそうだ。
そしてイチは。
再び、この”夏の国”へ飛ばされたのだと。
「まさか、そんなことが……」
「しかし、確かにこれは春の国、冬の国、秋の国の后妃の”印”に間違いありません。凄いですね……実物は、初めて見ました」
神官はイチの印を確認した。
「神はいったい、何を考えておられるのだ……」
頭痛がする。
一人や二人ならともかく。
わたしの他に、四人もの男の印を授かった、だと?
そうせねば、ここへ戻って来れなかったとはいえ。
互いに愛し合えば。
その時点でイチは愛する者を失うのだ。何と惨い真似をさせるのか。
神の目的は、人口の増加か、人々の繁栄だろう。
イチの気持ちは、無視されるというのか。
我々の、イチを想う気持ちも。
子を成すほど愛した相手を失わせてまでも、繁栄を願うか。
神よ。
なんと惨い真似をされるのだ。
◆◇◆
アブヤドは、イチに自分はラクの怪我を治せるのか、と聞いていた。
イチによく似た、優しい子である。
「うん、黒の王も、骨折を治してるの見たし。練習すれば、アブヤドにも出来ると思うよ」
黒の王。
イチを、一番長く占領していたという王か。
「良かったあ」
アブヤドはほっとしている。
やってみたことはないが、わたしにもできるのではないだろうか。
ならば。
腫れるまでしても、治せばいいのでは?
「ああ……カワイイが並んでる……やだ……超萌える……」
ハルは洞窟の壁に張り付いて、二人を眺めていた。
身悶えるな。
「そっかー。冬の国の氷菓子のゲスい売り方、イっちゃんの入れ知恵だったんだねー」
何を言うかハル。
イチは商売の才覚があるのだな。
数百年、飽きられずに人気であるとは、並大抵のことではない。
それを守り続けた冬のも、なかなかの根性だ。褒めてつかわそう。
「でも、もう同じモノ作れるんじゃないのか?」
イチは首を傾げた。
「あれから、同じレシピで作ってみたんだけど、どうしても同じ味にはならなくてさ。みんなで、何でだろうねって言ってたんだ」
自動人形にやらせたのが駄目だったのかと、交代で手作りしてみたが。
何度試そうと、イチの作ったあの味にはならなかったのだ。
レシピをちらつかせて、冬のと取引するのには役立ったのだが。
「また、作ってくれる?」
「母上、わたしも食べてみたいです! 栗きんとんとやらも、是非!」
ハルとアブヤドは、遠慮なくイチにおねだりをしていた。
15年の空白時間も、イチには関係なさそうである。
否、変わってなどいない。
何があっても、イチはイチであった。
わたしの愛した、イチだ。
「うん、みんなで食べような」
イチは変わらぬ笑顔で頷いてみせた。
そうだな。
皆で、また。
あの時の記憶が、鮮やかに甦る。
イチとの幸せな暮らしを。疑いもしなかった、あの時を。
◆◇◆
洞窟から出ると。暗雲が立ち込めていた。
この雲は。
「”魔女”が来る……」
先日来たばかりだというのに。
早いな。
しかも、嫌な予感がする。
雷光。
どこかに落ちたようだ。
かなり激しい雷雨がやって来ている。
魔女は、何を荒ぶっているのか。
「とりあえず、洞窟に戻ったほうがいいんじゃない?」
イチは洞窟を指差した。
「ああ、そのほうがよさそうだ」
アブヤドをローブに隠し。
イチの手を引き、洞窟内に向かおうとしたその時。
イチが一瞬、立ち止まったように思えた、が。
自分の意思で立ち止まったのではない。
イチは、腕を掴まれていたのだ。
黒きもの。魔女に。
「見つけた」
それは、イチを見て、言った。
ぞっとするような、暗い瞳をしていた。
「300年、探したぞ。イチ」
次の瞬間。
イチの姿は消えていた。
◆◇◆
「イチ!?」
すぐに、気配を探ってみる。
……いた。まだ、この世界に。
神により、跳ばされた訳ではないようだ。
さらわれたのだ。魔女に。
「イチは、”冬の国”にいる」
「マジで!?」
アブヤドも、印に集中して。
「あ、本当ですね。母上、”冬の国”にいます。怖がってはいないようです。見知った相手のようで。……黒の王みたいです」
そこまでわかるのか、白の印の力は。
神に匹敵する力というが。
「黒の王!?」
「冬の王は、青のはずでは?」
「いや、冬の王であるとは限らない」
「……あ、戻ってくるみたいです。黒の王、母上に叱られて。しょげてます」
それは、何よりだが。
「黒の王が……」
「黒い魔女が……」
「叱られて、しょげてる……?」
皆、別の意味で衝撃を受けているようであった。
我が”夏の国”から、過去の”春の国”に跳ばされ。
春の王、赤のラグナルに愛され、印を授かり。共に発明品を開発した。
だが、突然”冬の国”に跳ばされ。
冬の王ザラームと出会い、ラグナルとの子を授かっていたことを知り。
ザラームに”春の国”へ連れて行かれ、子供と孫、曾孫と再会し。
共にラグナルの遺言を聞いたという。
その話は、シグルズの著書と一致する。
◆◇◆
そして、”冬の国”で黒の印を授かり。
ザラームと共に氷菓子作りや寒い国ならではの商業を教え。
また”秋の国”へ跳ばされた。
そこでは、エセル王に見初められ、印を授かったが。
ルークという白の”印持ち”が目覚め、エセル王に取って代わった。
白の印は、神に匹敵する、凄まじい力だったという。
しかし、ルーク王は、イチを解放するために、子を授かろうと言った。
子を授かれば、その時点で他の国に移動すると確信したのだそうだ。
そしてイチは。
再び、この”夏の国”へ飛ばされたのだと。
「まさか、そんなことが……」
「しかし、確かにこれは春の国、冬の国、秋の国の后妃の”印”に間違いありません。凄いですね……実物は、初めて見ました」
神官はイチの印を確認した。
「神はいったい、何を考えておられるのだ……」
頭痛がする。
一人や二人ならともかく。
わたしの他に、四人もの男の印を授かった、だと?
そうせねば、ここへ戻って来れなかったとはいえ。
互いに愛し合えば。
その時点でイチは愛する者を失うのだ。何と惨い真似をさせるのか。
神の目的は、人口の増加か、人々の繁栄だろう。
イチの気持ちは、無視されるというのか。
我々の、イチを想う気持ちも。
子を成すほど愛した相手を失わせてまでも、繁栄を願うか。
神よ。
なんと惨い真似をされるのだ。
◆◇◆
アブヤドは、イチに自分はラクの怪我を治せるのか、と聞いていた。
イチによく似た、優しい子である。
「うん、黒の王も、骨折を治してるの見たし。練習すれば、アブヤドにも出来ると思うよ」
黒の王。
イチを、一番長く占領していたという王か。
「良かったあ」
アブヤドはほっとしている。
やってみたことはないが、わたしにもできるのではないだろうか。
ならば。
腫れるまでしても、治せばいいのでは?
「ああ……カワイイが並んでる……やだ……超萌える……」
ハルは洞窟の壁に張り付いて、二人を眺めていた。
身悶えるな。
「そっかー。冬の国の氷菓子のゲスい売り方、イっちゃんの入れ知恵だったんだねー」
何を言うかハル。
イチは商売の才覚があるのだな。
数百年、飽きられずに人気であるとは、並大抵のことではない。
それを守り続けた冬のも、なかなかの根性だ。褒めてつかわそう。
「でも、もう同じモノ作れるんじゃないのか?」
イチは首を傾げた。
「あれから、同じレシピで作ってみたんだけど、どうしても同じ味にはならなくてさ。みんなで、何でだろうねって言ってたんだ」
自動人形にやらせたのが駄目だったのかと、交代で手作りしてみたが。
何度試そうと、イチの作ったあの味にはならなかったのだ。
レシピをちらつかせて、冬のと取引するのには役立ったのだが。
「また、作ってくれる?」
「母上、わたしも食べてみたいです! 栗きんとんとやらも、是非!」
ハルとアブヤドは、遠慮なくイチにおねだりをしていた。
15年の空白時間も、イチには関係なさそうである。
否、変わってなどいない。
何があっても、イチはイチであった。
わたしの愛した、イチだ。
「うん、みんなで食べような」
イチは変わらぬ笑顔で頷いてみせた。
そうだな。
皆で、また。
あの時の記憶が、鮮やかに甦る。
イチとの幸せな暮らしを。疑いもしなかった、あの時を。
◆◇◆
洞窟から出ると。暗雲が立ち込めていた。
この雲は。
「”魔女”が来る……」
先日来たばかりだというのに。
早いな。
しかも、嫌な予感がする。
雷光。
どこかに落ちたようだ。
かなり激しい雷雨がやって来ている。
魔女は、何を荒ぶっているのか。
「とりあえず、洞窟に戻ったほうがいいんじゃない?」
イチは洞窟を指差した。
「ああ、そのほうがよさそうだ」
アブヤドをローブに隠し。
イチの手を引き、洞窟内に向かおうとしたその時。
イチが一瞬、立ち止まったように思えた、が。
自分の意思で立ち止まったのではない。
イチは、腕を掴まれていたのだ。
黒きもの。魔女に。
「見つけた」
それは、イチを見て、言った。
ぞっとするような、暗い瞳をしていた。
「300年、探したぞ。イチ」
次の瞬間。
イチの姿は消えていた。
◆◇◆
「イチ!?」
すぐに、気配を探ってみる。
……いた。まだ、この世界に。
神により、跳ばされた訳ではないようだ。
さらわれたのだ。魔女に。
「イチは、”冬の国”にいる」
「マジで!?」
アブヤドも、印に集中して。
「あ、本当ですね。母上、”冬の国”にいます。怖がってはいないようです。見知った相手のようで。……黒の王みたいです」
そこまでわかるのか、白の印の力は。
神に匹敵する力というが。
「黒の王!?」
「冬の王は、青のはずでは?」
「いや、冬の王であるとは限らない」
「……あ、戻ってくるみたいです。黒の王、母上に叱られて。しょげてます」
それは、何よりだが。
「黒の王が……」
「黒い魔女が……」
「叱られて、しょげてる……?」
皆、別の意味で衝撃を受けているようであった。
応援ありがとうございます!
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