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元の世界には戻れないようです。
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『ゼンショー殿? いかがなされましたか?』
レオナルドが寄ってきた。
「なんでもない。問題ない」
そう。何も問題などない。
俺が召喚されたことで、結果的に助かる人が大勢いるのなら、良いではないか。
そうだ。俺は、人助けをしたのだ。
人助けに、対価など求めてはいけない。
立派な行いだ。
善行である。御仏様もさぞ喜ばれることだろう。
『顔色真っ青だぞ。魔力注ごうか?』
「必要ない」
肩を抱こうとするテオの手を叩き落す。
『いかがでしたか? ゼンショー様が解読できる言語でしたか?』
国王が笑顔で問いかけてきたので。
俺は首を横に振った。
「……いいえ、さっぱり」
よし。
何も見なかったことにしよう。
◆◇◆
『……視線の動きからして、あれを文字として読んでいたのは判っている。何故、誤魔化した?』
他の連中はどうにか誤魔化せたが。ワルターの目は誤魔化せなかったようだ。
視線の動きで気付いたか。
さすが、慧眼だ。
他に誰もいないところで話しかけてくれた気遣いもありがたい。
ここは、正直に話そう。
「……あれは、俺の友人が、突然消えた俺をモデルにして、今から15年先、未来の世界で書かれた、空想の物語だった。全部、想像で書かれた、嘘の話だ」
『なっ……!?』
「どうしてそんなものが、過去のこの国に流れ着いたかは知らないが。あれがここでの希望になっているなら、本当のことは知らない方が良いと思ったから、あの場では黙っていた」
『15年、先と……?』
ワルターも、気付いたようだ。
「そう。未来の俺は、元の世界に帰っていない。……何かがあって、帰って来れなかったのか、帰りたくなくなったのかは……わからない」
死んだのかもしれない。
俺か。それとも次元移動ができるテオか。2人とも、か。
わかっていることは一つ。
俺は、最低15年間は、元の世界に帰れないということ。
家族を。友人を。
皆を、心配させたままで。
◆◇◆
『……善正』
ワルターは俺をゼンショー様、ではなく、善正と呼んで。
震える身体を抱き締めて、震えを止めてくれた。
『きっとここが気に入って、帰りたくなくなったんだろう。子供を授かったとかでな。ははは、皆可愛がるぞ』
おい。誰と誰の子供だ。
「冗談でもそんなのはお断りだ。……もう、大丈夫だから、放し、」
背を抱く腕に。
ぎゅっと、力が込められる。
『16,7の子供が、強がりを言うな。……いや、すまない。随分と調子の良いことを言っているな。そんな子供に期待を寄せ、頼り切っている大人のくせに』
いつもは鋭い緑色の目が、優しい色をおびていた。
「……悪霊以外からは、守ってくれるんだろう? その辺は、甘えさせてもらう。……今も、少しだけ、」
胸を貸して欲しい、と。
ワルターの背に、手を回して。
しばらく、泣いた。
そうだな。
今くらいは、いいだろう。
おそらくは、もう二度と。
逢えないだろう母を。父を。兄を。
友たちを思って、涙を流しても。
◆◇◆
ワルターは、何か拭くものを探して。
困ったような顔で自分のマントを勧めてきたが。
それを断って。
自分の頭陀袋からハンカチを取り出し、涙を拭いた。
我ながら、用意が良すぎて嫌になる。
こういうところが、兄とかにかわいげないと言われるのだろう。
「……このこと、特に、テオには黙っていて欲しい」
俺をこの世界に連れて来たのはテオだ。
気に病むかもしれない。
『ああ、ティボルトには、言わない。この剣にかけて誓おう』
ワルターは、剣を捧げて言った。
『あっ、ここにいらっしゃったのですね!』
レオナルドが駆けてきた。
『ゼンショー殿、こちらでしたか。探しましたよ。フレッドが、ご一緒に晩餐はいかがと、』
国王の使い走りとは。騎士も大変だな。
「そういえば、お腹が空いていた。ありがたくご馳走になると伝えて欲しい」
『はい。……ところでテオは?』
レオナルドはきょろきょろと辺りを見回した。
『こちらには来ていないが』
『……また勝手にいなくなって……』
報告連絡相談、ホウレンソウが大事なのに! などと言っている。
その言葉、こちらの世界にもあるのか……。
というか、口の動きからして、彼らが話しているのは日本語ではないはずなのだが。
どうして言葉が通じるのだろう。
テオがいたら、訊いてみよう。
◆◇◆
国王の晩餐会は、大広間で。
まるでパーティーのような盛大さだった。
しかし、テオの姿は見当たらなかった。
晩餐会で初めて口にするような、豪華で美味い料理に舌鼓を打っていたら。
『伝令! 敵襲です!』
兵が飛び込んできた。
……またか!
思わず立ち上がったが。
『タイタン、サイクロプス、オーガの群れが西の森まで迫ってきています! 総数、約5百!』
タイタン? 巨人か。
ということは。悪霊ではないのか。
それでは、まだ実戦で剣を握ったこともない俺では、何もできないな。
足を引っ張るだけだ。
『ゼンショー様は、ここで待機だ』
ワルターに言われて。
素直に席に座りなおす。
ここで下手に出て行って怪我でもしたら、ゴーストが現れた時に困るのだ。
手を貸したいが。適材適所というやつだ。
レオナルドが寄ってきた。
「なんでもない。問題ない」
そう。何も問題などない。
俺が召喚されたことで、結果的に助かる人が大勢いるのなら、良いではないか。
そうだ。俺は、人助けをしたのだ。
人助けに、対価など求めてはいけない。
立派な行いだ。
善行である。御仏様もさぞ喜ばれることだろう。
『顔色真っ青だぞ。魔力注ごうか?』
「必要ない」
肩を抱こうとするテオの手を叩き落す。
『いかがでしたか? ゼンショー様が解読できる言語でしたか?』
国王が笑顔で問いかけてきたので。
俺は首を横に振った。
「……いいえ、さっぱり」
よし。
何も見なかったことにしよう。
◆◇◆
『……視線の動きからして、あれを文字として読んでいたのは判っている。何故、誤魔化した?』
他の連中はどうにか誤魔化せたが。ワルターの目は誤魔化せなかったようだ。
視線の動きで気付いたか。
さすが、慧眼だ。
他に誰もいないところで話しかけてくれた気遣いもありがたい。
ここは、正直に話そう。
「……あれは、俺の友人が、突然消えた俺をモデルにして、今から15年先、未来の世界で書かれた、空想の物語だった。全部、想像で書かれた、嘘の話だ」
『なっ……!?』
「どうしてそんなものが、過去のこの国に流れ着いたかは知らないが。あれがここでの希望になっているなら、本当のことは知らない方が良いと思ったから、あの場では黙っていた」
『15年、先と……?』
ワルターも、気付いたようだ。
「そう。未来の俺は、元の世界に帰っていない。……何かがあって、帰って来れなかったのか、帰りたくなくなったのかは……わからない」
死んだのかもしれない。
俺か。それとも次元移動ができるテオか。2人とも、か。
わかっていることは一つ。
俺は、最低15年間は、元の世界に帰れないということ。
家族を。友人を。
皆を、心配させたままで。
◆◇◆
『……善正』
ワルターは俺をゼンショー様、ではなく、善正と呼んで。
震える身体を抱き締めて、震えを止めてくれた。
『きっとここが気に入って、帰りたくなくなったんだろう。子供を授かったとかでな。ははは、皆可愛がるぞ』
おい。誰と誰の子供だ。
「冗談でもそんなのはお断りだ。……もう、大丈夫だから、放し、」
背を抱く腕に。
ぎゅっと、力が込められる。
『16,7の子供が、強がりを言うな。……いや、すまない。随分と調子の良いことを言っているな。そんな子供に期待を寄せ、頼り切っている大人のくせに』
いつもは鋭い緑色の目が、優しい色をおびていた。
「……悪霊以外からは、守ってくれるんだろう? その辺は、甘えさせてもらう。……今も、少しだけ、」
胸を貸して欲しい、と。
ワルターの背に、手を回して。
しばらく、泣いた。
そうだな。
今くらいは、いいだろう。
おそらくは、もう二度と。
逢えないだろう母を。父を。兄を。
友たちを思って、涙を流しても。
◆◇◆
ワルターは、何か拭くものを探して。
困ったような顔で自分のマントを勧めてきたが。
それを断って。
自分の頭陀袋からハンカチを取り出し、涙を拭いた。
我ながら、用意が良すぎて嫌になる。
こういうところが、兄とかにかわいげないと言われるのだろう。
「……このこと、特に、テオには黙っていて欲しい」
俺をこの世界に連れて来たのはテオだ。
気に病むかもしれない。
『ああ、ティボルトには、言わない。この剣にかけて誓おう』
ワルターは、剣を捧げて言った。
『あっ、ここにいらっしゃったのですね!』
レオナルドが駆けてきた。
『ゼンショー殿、こちらでしたか。探しましたよ。フレッドが、ご一緒に晩餐はいかがと、』
国王の使い走りとは。騎士も大変だな。
「そういえば、お腹が空いていた。ありがたくご馳走になると伝えて欲しい」
『はい。……ところでテオは?』
レオナルドはきょろきょろと辺りを見回した。
『こちらには来ていないが』
『……また勝手にいなくなって……』
報告連絡相談、ホウレンソウが大事なのに! などと言っている。
その言葉、こちらの世界にもあるのか……。
というか、口の動きからして、彼らが話しているのは日本語ではないはずなのだが。
どうして言葉が通じるのだろう。
テオがいたら、訊いてみよう。
◆◇◆
国王の晩餐会は、大広間で。
まるでパーティーのような盛大さだった。
しかし、テオの姿は見当たらなかった。
晩餐会で初めて口にするような、豪華で美味い料理に舌鼓を打っていたら。
『伝令! 敵襲です!』
兵が飛び込んできた。
……またか!
思わず立ち上がったが。
『タイタン、サイクロプス、オーガの群れが西の森まで迫ってきています! 総数、約5百!』
タイタン? 巨人か。
ということは。悪霊ではないのか。
それでは、まだ実戦で剣を握ったこともない俺では、何もできないな。
足を引っ張るだけだ。
『ゼンショー様は、ここで待機だ』
ワルターに言われて。
素直に席に座りなおす。
ここで下手に出て行って怪我でもしたら、ゴーストが現れた時に困るのだ。
手を貸したいが。適材適所というやつだ。
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