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とんでもないのがやって来ました。
ワルターは、顔を洗うために眼帯を外したら、失った右目が見えるようになってることに気付いたらしい。
『ヒール、とかいったか? あれ、とんでもない術だぞ。霊障どころか、古傷まで綺麗にしちまった』
あちこちにあった刀傷も、綺麗さっぱり消えたらしい。
『それだけ消耗が激しいようだ。使用は控えたほうがいいと思う』
テオも頷いている。
毎度、迷惑をかけて申し訳ない。
『同感だ。……こんなのが知れたら、世の中ひっくり返っちまうぞ』
二人とも、真顔だった。
しかし。
……いいからこれ、いい加減抜け。
◆◇◆
しつこく抱きついてこようとするテオをどかして。
風呂で身体を清め、心を落ち着かせて。
さて、緊急会議だ。
あの、黒い騎士。
相当位の高い魔族だったのではないか、という話になった。
今までは、言葉を話す魔族など現れたことがなかったという。
知能の高い魔族が存在することすら、驚愕の事実で。
『実体があると思い込んでいた。それほどの力の前に、策を失った』
ワルターでさえも、死を覚悟したという。
黒い騎士の凄まじい覇気に圧倒されて、思うように動けなかったらしい。
『それを、刀を弾き返した上に一刀両断だもんな。惚れ直したよ。さすがは俺のハニー』
誰がハニーだ。抱きつこうとするな。
「……あのレベルの悪霊、何体いるんだろうか」
あれが、一体だけとは考えられない。
あれは斥侯的な存在で。もっと強い魔族が来たりしないのだろうか。
全部をいちいち斬って祓うのも、効率が悪そうだ。
「そもそも、魔族はどうやって増え、どれだけの数いるものなんだ?」
『考えたこともなかった。というか、意思疎通できないし』
テオは首を傾げた。
知能のないような魔物の集団に突然襲い掛かられて。
それからずっと戦っていたんだったな。その理由もわからずに。
相手が何を考えているかわからないような状況で戦うのは、不安ではなかったのだろうか。
『そういえば、巨人族は道具を使ったり、知能はあったようだ。それで、思ったより苦戦してたんだ』
どうやら送られてくる魔族が、レベルアップしているようだ。
『魔界の連中も、いよいよ本腰を上げたと見て間違いないだろうな……』
ワルターも憂い顔だ。
◆◇◆
「話ができる知能がある相手なら、問答無用で成仏させないで、話を聞いておくべきだっただろうか」
何で襲ってくるんだ、理由は何だとか。
『でもさ、あっちが先にワルターに斬りかかってきたんだし、あれで正解じゃないか?』
テオは肩を竦めた。
「そうだな。理由があろうが、先に襲ってきたのは向こうだ。許してはおけないな……」
すでに多くの犠牲者が出ているのだ。
『でも、こっちもかなりの犠牲者を出してることだし、手打ちってことにしない?』
……こっち? どっちだ。
って。今の声は。
「誰だ?」
見れば。
いつの間にか、一人増えていた。
敵意は感じられないが。知らない人が紛れ込んでいたのだ。
いつの間にか増えていた闖入者は。
ゆるいウエーブの黒髪、金色の目はくりくりとして愛嬌があり。顔色は真っ白だが、人形のように美しく整っていた。
黒い、貴族のような礼服。黒いマントで、頭には、黒い角が生えていた。
黒い……角?
『はじめまして、伝説の僧侶ゼンショー。お目にかかれて光栄だ。私は魔王アーリック。どうぞ、お見知りおきを』
世にも美しい貌の男は、恭しく礼をしてみせた。
ま。
「魔王だと!?」
ここは、結界内のはずなのに!? どうやって、いつの間に!?
『ウルって呼んでくれて構わないよ?』
「ではウル、何をしに来た?」
『あ、すごい好き。キュンときた。……と、それは置いといて。人間界への襲撃は、私のためと、部下が勝手にやったことなんだ。もうさせないって約束するから、許してくれないかな?』
「理由による。そちらの事情を話してくれ」
のっぴきならない理由があるのなら、話し合いに応じてもいいだろう。
◆◇◆
魔王は言った。
自分は不治の病に罹り、先はもう長くないだろう、と。
そして、それ故に退位を望んだ。
魔王は病なので仕方ないと諦めていたが。
部下たちが、人間の生命力を集めて注げば王の病は癒えるだろうと考え、人間界を襲撃したらしい。
しかし人間の抵抗は思ったより強く。
これならばとゴーストを差し向けたが、全て消滅させられて。
あの黒い騎士は、その理由を探りに人間界に降りたようだ。
『伝説の僧侶見つけたって、キッちゃん……騎士から伝言飛ばされたから、来てみたんだけど。知らない? 黒い騎士だよ』
キっちゃんって。
そんな可愛らしい名前だったのか、あの黒騎士。あんなに渋かったのに。
「……黒衣の騎士なら、速やかに成仏していただいた」
俺が強制的に成仏させたのだが。
魔王は俯いた。
『そうか……長く、仕えてくれたんだけど。安らかに眠って欲しい』
やめろ。
そんな悲しそうな顔をするな。
正当防衛だというのに、悪いことをしてしまった気分になるではないか。
しかし、強そうだとは思ったが、魔王の側近だったとは。
なるほど、強かったはずだ。
『ヒール、とかいったか? あれ、とんでもない術だぞ。霊障どころか、古傷まで綺麗にしちまった』
あちこちにあった刀傷も、綺麗さっぱり消えたらしい。
『それだけ消耗が激しいようだ。使用は控えたほうがいいと思う』
テオも頷いている。
毎度、迷惑をかけて申し訳ない。
『同感だ。……こんなのが知れたら、世の中ひっくり返っちまうぞ』
二人とも、真顔だった。
しかし。
……いいからこれ、いい加減抜け。
◆◇◆
しつこく抱きついてこようとするテオをどかして。
風呂で身体を清め、心を落ち着かせて。
さて、緊急会議だ。
あの、黒い騎士。
相当位の高い魔族だったのではないか、という話になった。
今までは、言葉を話す魔族など現れたことがなかったという。
知能の高い魔族が存在することすら、驚愕の事実で。
『実体があると思い込んでいた。それほどの力の前に、策を失った』
ワルターでさえも、死を覚悟したという。
黒い騎士の凄まじい覇気に圧倒されて、思うように動けなかったらしい。
『それを、刀を弾き返した上に一刀両断だもんな。惚れ直したよ。さすがは俺のハニー』
誰がハニーだ。抱きつこうとするな。
「……あのレベルの悪霊、何体いるんだろうか」
あれが、一体だけとは考えられない。
あれは斥侯的な存在で。もっと強い魔族が来たりしないのだろうか。
全部をいちいち斬って祓うのも、効率が悪そうだ。
「そもそも、魔族はどうやって増え、どれだけの数いるものなんだ?」
『考えたこともなかった。というか、意思疎通できないし』
テオは首を傾げた。
知能のないような魔物の集団に突然襲い掛かられて。
それからずっと戦っていたんだったな。その理由もわからずに。
相手が何を考えているかわからないような状況で戦うのは、不安ではなかったのだろうか。
『そういえば、巨人族は道具を使ったり、知能はあったようだ。それで、思ったより苦戦してたんだ』
どうやら送られてくる魔族が、レベルアップしているようだ。
『魔界の連中も、いよいよ本腰を上げたと見て間違いないだろうな……』
ワルターも憂い顔だ。
◆◇◆
「話ができる知能がある相手なら、問答無用で成仏させないで、話を聞いておくべきだっただろうか」
何で襲ってくるんだ、理由は何だとか。
『でもさ、あっちが先にワルターに斬りかかってきたんだし、あれで正解じゃないか?』
テオは肩を竦めた。
「そうだな。理由があろうが、先に襲ってきたのは向こうだ。許してはおけないな……」
すでに多くの犠牲者が出ているのだ。
『でも、こっちもかなりの犠牲者を出してることだし、手打ちってことにしない?』
……こっち? どっちだ。
って。今の声は。
「誰だ?」
見れば。
いつの間にか、一人増えていた。
敵意は感じられないが。知らない人が紛れ込んでいたのだ。
いつの間にか増えていた闖入者は。
ゆるいウエーブの黒髪、金色の目はくりくりとして愛嬌があり。顔色は真っ白だが、人形のように美しく整っていた。
黒い、貴族のような礼服。黒いマントで、頭には、黒い角が生えていた。
黒い……角?
『はじめまして、伝説の僧侶ゼンショー。お目にかかれて光栄だ。私は魔王アーリック。どうぞ、お見知りおきを』
世にも美しい貌の男は、恭しく礼をしてみせた。
ま。
「魔王だと!?」
ここは、結界内のはずなのに!? どうやって、いつの間に!?
『ウルって呼んでくれて構わないよ?』
「ではウル、何をしに来た?」
『あ、すごい好き。キュンときた。……と、それは置いといて。人間界への襲撃は、私のためと、部下が勝手にやったことなんだ。もうさせないって約束するから、許してくれないかな?』
「理由による。そちらの事情を話してくれ」
のっぴきならない理由があるのなら、話し合いに応じてもいいだろう。
◆◇◆
魔王は言った。
自分は不治の病に罹り、先はもう長くないだろう、と。
そして、それ故に退位を望んだ。
魔王は病なので仕方ないと諦めていたが。
部下たちが、人間の生命力を集めて注げば王の病は癒えるだろうと考え、人間界を襲撃したらしい。
しかし人間の抵抗は思ったより強く。
これならばとゴーストを差し向けたが、全て消滅させられて。
あの黒い騎士は、その理由を探りに人間界に降りたようだ。
『伝説の僧侶見つけたって、キッちゃん……騎士から伝言飛ばされたから、来てみたんだけど。知らない? 黒い騎士だよ』
キっちゃんって。
そんな可愛らしい名前だったのか、あの黒騎士。あんなに渋かったのに。
「……黒衣の騎士なら、速やかに成仏していただいた」
俺が強制的に成仏させたのだが。
魔王は俯いた。
『そうか……長く、仕えてくれたんだけど。安らかに眠って欲しい』
やめろ。
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しかし、強そうだとは思ったが、魔王の側近だったとは。
なるほど、強かったはずだ。
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