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東の国の王

砂漠の王子様?

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黒ポメの遠吠えを聞きつけたのか。
城門が開いて、わらわらと人が出てきた。ひーふーみー、ええと、20人くらい?


どうやら、兵士みたいだ。槍とか曲がった刀を持っていた。

みんな生成り色の布を頭から被っていて。同じ色のマントみたいなのを羽織ってる。
その下には、ハーフアーマーっていうんだっけ? 急所を覆う鎧姿で。
鎧は、汚れてるのかな? 灰色っぽい、微妙な色だ。

普通の砂漠なら目立たないような色だと思うんだけど。迷彩にしては、ここの砂とは色が違うしなあ。

兵士の肌は浅黒い。みんな中東あたりの人っぽい、こゆい顔立ちをしてる。
髪の色は、まるで絵の具を塗ったみたいな鮮やかな黄色だ。目は空……こっちじゃなくて、元の世界の空みたいな青だった。

おいおい。
ここってば、人間のカラーリングまで微妙なのかよ!?


出て来た兵士たちは、手に武器は持っているものの。ありがたいことに、敵意は感じない。
もし武器向けられてたら泣いてた。

っていうか。
みんな、武器を脇に置いて、次々とこっちに土下座しだしてるし!
土下座っていうか、お祈りするようなポーズか?


何だよ、この状況!?

まさかこの黒ポメ、この国、っていうかお城の住人にとっては神様的な存在だったとか?
だとしたら、信仰の対象に馬乗りになっちゃって、大丈夫なの俺!?


おろおろしてたら、黒ポメがおすわりしたので。
慌てて背中を滑って降りた。

しっぽの上にもふっと着地。……ああ、一生ここにいたいモフ……!
けど、断腸の思いでしっぽから離れる。


†††


黒ポメから降りてはみたけど。
兵士達は頭を下げたまま、少しも動かない。

何で無反応なの!? せめて何か言って欲しいんだけど。

どうしよう。
俺の方から、何か言った方がいいのかな……? とか悩んでたら。

いきなり、ジャア~ン! と、銅鑼どらみたいな音がした。


ナニゴト!? と思って、音のした方向に視線をやると。
城門から、見るからに王様! というか、偉い立場っぽい人が現れた。

一人だけ黒装束で目立つし。ゴージャスだし。一緒に現れた生成りの布を被った人たちに恭しくかしずかれてるから、ここで一番偉い人に間違いないと思う。


王様っぽい人は、黒ずくめの、アラブの石油王みたいな格好だった。

頭から布を被って、布を金の紐でとめて。襟の立った裾の長いシャツを着ていて、ゆったりした上着を羽織ってる感じ? 黒い布は、金色の糸で装飾されている。

布から見えるのは金色の髪に、褐色の肌。
これは普通に見られる彩色だなあ。とちょっと安心したけど。

よく見たら、普通じゃない。


すっごいイケメンじゃん!
というか、今まで見たことがないような超絶美形だ。うちの家族なんて勝負にならないくらい美形な人なんて、生まれて初めて見た!

キラキラした砂漠の王子様キタコレ!

……おいおい、乙女ゲーでもないのに、砂漠の王子様に来てもらっても困っちゃうんですけど! うっかり恋とかラブなロマンスが芽生えちゃったらどうしてくれるんだよ!
俺とじゃ、間違ってもラブは芽生えないだろうけど。
それに男同士だとBLゲーになっちゃうからな! いや、ゲームじゃないし。夢ですし!


†††


美形の王子様っぽい人は。
内心とっちらかってる俺に、にこにこと、フレンドリーな笑顔で近寄ってきた。

おおっと、ファーストコンタクトはなかなかフレンドリーなスタートですよ?
見たところ、武器も持ってないし。安心して良さそうだ。

ここからいきなり抜刀してバイオレンスな展開とかにならないようにお願いしたい。


王子様っぽい人は、見上げるほど背が高かった。
俺が平均よりも少々低いことは置いといても、バスケ部のやつらよりでかい。ってことは、190センチ以上はありそうな感じ?

長い金色の睫毛に縁取られた瞳は金色だった。ネコみたいに、ところどころ、緑っぽい光。
目も綺麗だなんて、もはや歩く芸術品だよ。
非の打ち所がない美形。俺の想像力凄いな!


「أهلا وسهلا بك رسول الله. ما اسمك؟」

うお、笑顔がまぶしっ。
何やら話しかけながら、微笑まれたんだけど!


美形のスマイルは、男相手だろうが心臓に悪いことを知ったよ。
もはや兵器だよねこれは。対人最強。乙女なら必殺だろう。

何を言ったのか、言葉は全然わからなかったけど。声も良かった。ドキドキした。マジで心臓に悪いよ!

しかし、このレベルの美形になると、神々しいというか。
思わず拝んでしまいたくなるほどだ。

ひと目見れば寿命が伸びそう。ありがたや。


俺ですらこうなんだから。女の子なんて、もうアレだ。
後宮に千人単位で嫁がいたとしても、もはや嫉妬する気も起きない。
そもそも同じステージに立てない。

そう、勝負は同じレベル同士じゃないとできないのだ……!

世の中って厳しい。
おかしいな、これは俺の夢のはずなのに。俺の望みが反映されないとかひどい。
比較対象がこれとか、むしろ現実よりひどい。

こんな超絶美形に勝てる訳ないだろ!! 加減しろ莫迦!


「أهلا وسهلا بك رسول الله. ما اسمك؟」
また、なにやら話しかけられた。

早口で聞き取れなかった、と思ったのかな? たぶん、さっきと同じ言葉を、ゆっくり話してくれてるんだろうけど。


「スイマセン、何言ってるか全然わかんないデス」
てへ、と日本人お得意のアルカイックスマイルを浮かべてみたりして。
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