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敵対組織に拉致される

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所持品は全部把握されていて。
今着ている服の存在も知ってたから、女装しても、その服で逃げたのがわかってたせいで特定されたんじゃないか、と言われた。


ああ、それはあるかも。
持ち物に覚醒剤とか爆弾とか仕込まれる可能性があるからかな?

そうやって逮捕されるように誘導する、ってニュースで聞いたことがある。


『いっそ、私みたいな格好をすればバレないかもよ!』
と言って。

ジーナはどこからか派手な服をいくつか持ってきた。
それと、補正下着と化粧品。


……え?
そんな本格的にするの?


*****


知らなかった。
補正下着を使えば、男でも胸があるように谷間が作れるなんて。

……わあ、まっ平らだった胸が、ふくらんで見えるよ。

なんか、夢が破れていくのを感じるんだけど。
人の夢って書いて儚いって本当だね。


エクステを使って髪を長く見せて。
コルセットで腰を締めて、胸を強調する、スパンコールの飾りがついた合皮製のミニスカワンピースを着せられた。
お尻をボリュームアップさせる下着もあるらしいけど、盛り過ぎるもの不自然なので、あえてスレンダー風に仕上げたそうだ。

ストッキングは蛍光色。
ヒールは高め。

骨っぽい肩を隠すため、ショールを羽織って。

紫色のカラーコンタクトを、泣きながら入れて。
真っ赤なマニキュアに、化粧もばっちり、つけ睫毛まで盛られて、顔も塗られまくった。
仕上げはラメパウダー。

化粧って、こんな手間がかかるもんなんだ。
女の人は身支度に時間が掛かるっていうのも納得だ。


姿見で、自分の姿を見て。
一瞬誰だかわかんなかった。これが僕?

うわあ、派手だなあ。
夜の商売のお姉さんのようだ……。


『うん。美女ベッラ・ドンナ! 我ながら会心の出来映えだねえ』

ジーナは、これなら元の姿と同一人物だとわからないし、男には絶対見えない、と満足げに太鼓判を押してくれた。
嬉しくないけど。

『でも、やつらに追われる代わりに、ナンパにあいまくりそうだけどね……』
いや、それはもう、既に。


*****


パスポートとかは、ラメ入りのポーチに入れて渡してくれた。
大事な物は隠しポケットに。フェイクのための化粧品まで入れて。

服とかの代金や、お礼はいらないという。
元々うちの兄が迷惑をかけたんだし、この出会いは、きっと神様がくれた謝罪の機会だって。


『華麗に逃げて、やつらの鼻を明かしてくれれば、すっきりするよ』
そう言って、バチン、と音の鳴りそうなウインクをされた。

やだお姉様、カッコイイ……。


『じゃ、行こうか。こっちおいで……ええと、とりあえず、仮の名前はステラでいいね?』

名前は、知らないほうがいいからと名乗らなかったので。
とりあえずの偽名だ。

ステラ、は星という意味だ。
服のスパンコールがキラキラして星っぽいからかな……?


さっき連れ込まれたのは、建物の裏口だったようで。

表は、お店だった。
紫煙でくすんだ店内に、肌もあらわな、美しく着飾った美女たちが。

そろそろ店じまいの時間らしく、バタバタしてる。

夜から朝まで営業のお店……。
ああ、トーニオのご同業、なわけか。


店には男の子もいて。女装のもいた。
それで、ジーナも女装に詳しかったのかな?

『ジーナ、その子、新入り?』
『まあね。ステラっていうんだ』

女性達に軽く会釈すると。

『チャオ、ステラ』
『よろしくね、ステラ』
と、次々に声を掛けてきた。


『ハイ、ジーナ。可愛い子ベッリーノだね。今日の夜から店に出すのかい?』
『だめだめ、これから研修なんだ。出すのは仕事を教えてからだよ。お触り禁止!』
客の男が伸ばしてきた手を払い落とし。

ジーナはハイヒールで、颯爽と歩いて行く。


外の道には、ヴァレンティーノの追っ手らしき男がうろうろしていたけど、完全スルーだ。
それどころか、ジーナが声を掛けても、今忙しいんだ、と手を振られて。

ほらね、バレないでしょ、と得意げに笑った。


*****


店を出て。
バス通りに向かったところで。

黒服の男たちに囲まれた。
ヴァレンティーノの追手じゃなさそうだけど。


『トーニオの妹、ジーナだな?』
男の一人が言った。

トーニオと是非会ってもらいたい、と。

懐には、拳銃を持っていて。
外から見えないよう、服の中からこちらへ向けているようだ。

あ、目的は僕じゃなかったのか。

……まだバレてないのかな? 目当ての人物は僕だって。
この変装、かなり凄いんだな。


『……で、兄貴は無事なの?』

『無事ではないな。肋骨が4本ほど折られていたが、それはこちらがやったことじゃない』
サングラスに山高帽の男は肩をすくめて、おどけたように言った。

ああ、うん。
それは。……ロレンツォかな?

5,6本って言ってたよりは、手加減したんだね……。


『新たに怪我が増えるかどうかは、トーニオが素直にヴァレンティーノについて、お喋りしてくれるかどうかにかかってるが。お兄さんはどうも、口が堅くてね。無口なのかな?』
困ったように笑っているけど、目は全く笑っていない。

トーニオ、まだ僕の情報を話してなかったんだ。
それだけヴァレンティーノの報復が恐ろしいのかもしれないけど。


『ハ、私を人質にして、情報を吐かせようってわけ。……いいよ。協力してやろうじゃない。ヴァレンティーノは大嫌いだもの』
ジーナは髪をかき上げて。

ふん、と鼻で笑った。

ジーナ……。
抵抗したら、乱暴とかされそうだから、協力的な態度を取るのは間違いではないかもだけど。


僕の話を聞いて、余計ヴァレンティーノ嫌いになってしまったようだ。

『素直でありがたい』
ではどうぞ、と車に誘う男に。

『ああ、この子は関係ないから、帰してやって。今日は午後から大事な仕事があるんだ』

ね、ステラ? と言って、こっちを見た。
ジーナは、僕を逃がそうとしてくれてるんだ。


姐さん……! と言いたくなる。
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