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6 王子様のペット

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 翌日の朝。目が覚めると部屋に王子の姿はなかった。あまり覚えてないけど昨日すごい醜態を晒した気がする。

 念の為ズボンの中を確認してみたが特に不快感はなかった。ただ、胸元には多数の赤い跡があった。

「あいつ…本当に!くそっ」

 その瞬間、コンコンコンと部屋のドアがノックされた。誰だこんな時間に…?王子が帰ってくるのはいつも夜だ。それまでこの部屋を訪れる者などいなかったのに。

「…」

 しばらく俺が黙ってドアを見つめていると、ゆっくりとドアノブが回転した。

 そこに立っていたのは執事のような男性だった。

「クロ様。準備ができ次第こちらに」

「え?」

 なんだろうか。ここ数日ほとんど部屋から出してもらえたことはないのに。

「こ、この部屋から出ていいのか…?」

「はい、王子様からのご命令ですので」

 はぁ…。死ぬまで出してもらえないと思っていたから意外だった。

 俺は急いで服を着替えると、男の後を追った。そして連れて行かれた先は俺の寝室よりも少し大きい部屋だった。

「リアラ様、こちらがクロ様でございます」

「リアラ?」

 部屋を見回す。室内のインテリアは初めて城に来たときに連れてこられた部屋と似ていた。巨大なベッドと太陽の光がめいいっぱい注ぐ大きな窓。ふかふかの絨毯に本棚まである。そして部屋の中央には誰かがいた。

 俺が入室すると後ろでドアが閉まる。ガチャリと鍵がかけられる音がした。

 閉じ込められた…?


「へぇ、汚い猫だこと」

 部屋の主は透き通るような声でそう呟いた。その人はソファーに座り紅茶を飲んでいた。

 彼はとても美しい少年だった。真っ白い髪の毛と肌に、ピンクと黄色のオッドアイ。線が細く、触れたら砕けてしまいそうなほど繊細な美少年だ。そして頭の上にはふさふさの真っ白な獣耳がついていた。

「獣人だ…すげー…」

「なに?君も獣人のくせに。まぁ、でも僕は君とは違う。アルビノ種なんだ。とても珍しい高貴な猫だから当然か」

 思わず口をついた感想に彼は一瞬顔を歪めると、髪をサラリと手で弾いた。

「アルビノ…」

 街で聞いたことがある。アルビノ種っていうのは体の色素が薄い種族を指すらしい。とても珍しく獣人でも高値で販売されるはずだ。確かに、目の前の同族は気品に満ち溢れていた。


「お前も街から逃げたのか?それとも王子に買われたのか?」

 俺は彼に歩み寄り質問を重ねた。もしかしたらここから出れるヒントをもらえるかもしれないと思ったからだ。しかし彼の口から出た答えは思いもよらないものだった。

「あまり近づかないで。汚らわしい。逃げてもないし買われてもないよ。僕は王様から王子に対してのプレゼントされたんだ」

 リアラはシッシと手を振って俺を拒むと、足を組み直した。

「プレゼント?」

「うん。アルビノ種は店でなんか売られないよ。この美しい見た目のおかげで、生まれたときから王子様のペットになることが決まってるのさ。とても光栄でしょ?僕は世界一幸せな獣人だよ」

「へぇ…」

 王族が美しい獣人を連れていると風の噂で聞いたことがあったが彼のことだったのか。ペットか…。ということはこいつも王子に毎晩あんなことされているのだろうか。そう考えると少し同情する。

「君は何なの?新入りが来るって聞いたからてっきりもっと美しい獣人だと思ったのにさ。なんか張り合いないね」

 白猫は眉をひそめ、舐めるように俺を観察した。

「俺は拾われて連れてこられたんだ」

「あぁ、だからそんなに品性のかけらもないのか」

「は?」

「いい?僕は君を認めないからね。レオ王子に愛されるペットは僕だけでいいんだ。それを邪魔するなら許さないから」

 リアラは立ち上がるとこちらに一歩近づく。

「…お前…もしかしてあいつが好きなのか?」

 まるで王子に恋をしているとでも言いたげな様子が信じられない。あんなイカレ王子のどこがいいんだ…。

「勿論。僕は美しい人が好きなのさ」

 訝しげな俺とは対照的に、リアラは自信満々に答えた。

 顔が良ければなんでもいいのかよ。


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