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昔私は王都に住んでいた。とはいっても私の家庭は貧しく毎日食べ物に困っていたっけ。ある日ゴミを漁っている私に黒髪の少年が話しかけてきた。

「きったねぇ え、それ食うの?」

私が手に持っている黒パンを指さして彼がそう言う。
私にとってこれはごちそうなのに…。

「そんなカビたようなパン腹壊すぞ 普通パンは白くてふわふわしてんだよ」

彼は随分裕福な暮らしをしているのかもしれない。いいなぁ白いパンは憧れだ。死ぬ前に一度でいいから食べてみたい。

私が無視して歩き出すと彼はついてきた。

「食べ物困ってんなら俺がやろうか?俺ん家金持ちだからお前を雇ってやってもいいぞ」
そういって彼はふんぞりがえる。

「いらない」

王都で貧困者に手を差し伸べるやつはろくなやつがいないことを知っている。ご飯につられてついて行き、何度もひどい目に合いそうになったからだ。
今回も面倒なことに巻き込まれる前に逃げようと思った。しかし彼は私の手を強引に掴むと離してくれなかった。彼は商店街で金貨をちらつかせ、持てないほどの食料と交換した。
それを噴水前の広場で私に食べさせてくれた。きっと金持ちの遊びだろうな。でもこちらも命がけだ。もらえるものは貰おう。
そしてこれを食べたら逃げよ。

「うまいか?」

そう思っていたのに屈託なく笑う彼を見ているとなぜかそれができなかった。

それから来る日も来る日も彼はご飯を食べさせてくれた。余ったご飯は家に帰ってお母さんにあげることもできた。

彼はクロという名前らしい。お風呂屋や洋服屋に連れて行ってくれたこともあった。ご飯もたくさん食べさせてくれて、私達は日が暮れるまで遊んだ。

今までは遊ぶ時間なんてなかった。毎日ゴミをあさり物乞いをし、時にはものを盗んで殴られることもあった。
だから彼といる時間はとても楽しかった。
いつの間にか彼だけでなく街の子供とも交流するようになり私は自分が貧しいことなんて忘れていた。生まれてはじめて友達ができた。


しかし出会ってからしばらくすると彼の様子がおかしくなっていったんだ。



まず、私が他の子と話したり遊んだりするとひどく怒るのだ。
クロを置いて街の男の子と遊び逃げかけた日にはご飯をくれなかった。そしてこう言う。

「お前を助けたのは俺だ 他のやつに懐くな 他のやつと仲良くするならもうキイロにはなにもしてやらない」

その言葉を聞くたびに私は彼と対等でないと感じる。あくまで与える側と与えられる側でしかないのだと。

それから私は彼の言うことを何でも聞いた。彼が機嫌悪くなりそうなことは絶対しないし彼以外の人とは口をきかない。
だんだん友達がいなくなり孤立する私を慰めるように彼は軽くキスをする。
彼は日に日に私を束縛し、支配し、管理するようになっていった。いつ、どこで何をしていたのか常に報告しないといけない。
そんな生活に私は疲弊していった。


ある日彼はこんなことを言った。

「俺、キイロのこと閉じ込めたい」
「え…」
「閉じ込めて俺だけのものにしたい」

ショックだった。彼も他の人と同じ。生まれ持った運、権力、金を使って恵まれない私を支配しようとしている。人をモノとしか考えていないのだと。


その頃親から王都よりも小人族が暮らす村に住もうと提案された。
後にそこで7色の小人と出会うことになる。


私はそっとクロの前から姿を消した。
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