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最終章 廻る因果の果てに

第47話 悪の運命

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カチッ……カチッ……!

部屋の時計が11時を指差したタイミングで俺はベッドから抜け出す。

「部屋が1階で良かったな……」

できるだけ音を立てないように窓を開けて病院の外に出る。

「よし……」

この病院は街の学園下町の端に位置する。
下町を通って、学園にまで行くのは難しい事じゃない。

「……ちゃんとあるな」

俺の持っていた剣と制服は回収され、病院が預かっていたようだが、
俺を呼び出した相手との話は穏便に解決しないだろう。
回収して、窓の外に置いておいた。

「制服だし……目立たないように気をつけるか」

そうして俺は誰にも知らせずたった一人で歩き出す。



夜の街は暗く、制服姿の俺も暗闇に紛れて大して目立ちはしなかった。

時間も無いので急いで学園に向かう。

(……学園でテロが起きたってのに街はいつも通りだな……)

これから起きる事は世界の命運だとかそういう盛大なものが掛かっていない、
極めて個人的な戦いなことが分かる。



「……静か過ぎるな」

まったく何も起きないまま学園の前にたどり着いたが、
ようやく違和感を感じた。

普段なら警備員の一人や二人いるはずなのだが、誰も居ない。
その証拠に、俺は正門を乗り越えて学園に侵入したのだが誰一人来なかった。

「生徒会室は東校舎だったはず」

今更臆する訳にもいかない。俺は真っ直ぐ生徒会室に向かう。

「鍵が開いてる……」

東校舎の入口は既にこじ開けられていて鍵は使い物にならなくなっていた。
俺を呼んだ人物は間違いなくこの先にいる。



「! 大丈夫か!?」

廊下に入ってすぐ、異様な風景が俺を出迎えた。
そこには警備を勤めていたであろう人達が倒れている。

「意識が無い……」

警備員は顔に火傷を負っていて、意識を失っているようだ。
廊下を見つめると、生徒会室に続くように
点々と彼らの身体が落ちている。
その数は8人程。

「全員倒したのか? 」

楽な姿勢に警備員を寝かせ、俺は生徒会室の扉の前にまでたどり着く。

「……嫌な予感しかしないな」

それでも、両腕で軽い扉を開く。



「奈緒!」

生徒会室は異様な程片付けられていた。
会議用の机やカーテンは全て取り除かれていて、
ただ一つ、部屋の中央付近に奈緒がロープで縛り付けられている
生徒会長用の椅子が存在感を放っている。

そして、窓から入る月明かりが唯一の明かりとなって
衰弱した彼女の顔を照らしている。

その様子に思わず俺は彼女に近づく。

「奈緒?おい、しっかりしろよ! 」
「…………お兄、ちゃん?」
「! そうだ!俺だよ!」

俺の問いかけに彼女はか細い弱った声で答える。
……生きてて良かった。
だがしかし、そんな安堵した気持ちは一瞬にして吹き飛ぶ。

「……後ろ」
「え?」

そう言われて、咄嗟に後ろを振り向く。
俺の目の前には魔法の火球が迫っていた。

「ッ! 」

咄嗟に剣を構えて防ごうとするが、受け止めきれなかった。
剣に当たった火球は消滅せずに僅かに上に逸れて、俺の髪を少し焦がす。

「感動の再開にいきなり不意打ちかよ……」
「ちっ。悪運の強い野郎だ……」

そういって魔法を飛ばした男は俺の前に迫る。

「お前が……あのテロと手紙を?」
「そうだよ、久しぶりだね?」

月明かりが照らした彼の顔に見覚えはあった。
エリトだ……少し前に俺が倒した男。

「なんでお前が?」
「なんで……ねぇ?クッ!ハッハッハ!
加害者側は悪い事した意識が低いって言うのは本当なんだね!
決まってるじゃないか……復讐だよ! お前らにな! 」

彼は前より数倍濁った目でこちらを睨みながらそう言う。
コイツが……俺と奈緒に復讐……?どういうことなんだ……



まさかコイツがラスボスになるとは……作者も最初は予想して無かった。
次回から真のラスボス戦。お楽しみに。
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