彼女に二股されて仲間からもハブられたらボッチの高嶺の花のクラスメイトが高校デビューしたいって脅してきた

すずと

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第1話 彼女に二股されて仲間からもハブられた

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 繁華街の人混みを流れに沿って歩く。

 春休み目前。もうすぐディナーの時間ということもあり、人の多さは半端ではない。

 目の前を歩くのは若いカップル達。

 手を繋ぐカップル。腕を組むカップル。腰に手を回すカップルまでいる次第。

 仲睦まじく歩く姿は世間へ見せつけているのか、自分達の世界に酔いしれているのか。

 どちらにしろ、別に羨ましくもない。

 これは負け惜しみの妬みじゃない。

 俺こと、 枚方京太ひらかたきょうたにも彼女の1人くらい存在するからだ。

 高校入学では速攻で仲間と呼べる人達ができて楽しい学生生活を過ごしている。そして、高校に入学してから同じグループの可愛い女子から告白をされて付き合うことになった。もうすぐ1年が経とうとしている。

 ただ、付き合うという行為がなにを意味するのか高校生の俺にはわからなかった。

 付き合う前は、デートしたり、キスしたり、エッチしたり……。だなんて単純なことをぼんやり考えるだけだったが、実際はそんなことなかった。

 2人っきりでのデートはしたことがなく、キスなんてしたこともない。だからエッチなんてとんでもない。

 俺も、カフェのバイトで忙しいのと、向こうも忙しいとのことなので、なかなか会う時間というのはなかった。

 高校生の付き合うなんてこんなもんか、程度にだらだら過ごして1年が経過した。仲間達からは、お似合いだとか、おしどり夫婦だとか言われるけど、実感はない。彼女の方は嬉しそうにしていた。

 歩きながら右手に持ったレジ袋をチラリと見た。

 中身は、『美しい国語』や、『優しい算数』と題され小学生向けの参考書。

 親の知り合いの子供の家庭教師を頼まれた。俺は知らない人だが、俺の親の恩人らしく、どうしてもというので引き受けた。

 一応バイト代も出るみたいだし、ちゃんとやらないといけないと思い参考書を買った。

 バイト代が出たら彼女になにか買ってあげるか。

 なんて思っていると。

 ピタッと俺の足が止まった。

 人の流れが止まったわけではなく、俺だけが止まってしまったので、後ろを歩く人から舌打ちをされてしまったが、そんなことを気にしている場合じゃなかった。

 俺の彼女、 糟谷綾香かすたにあやかが知らない男に腰に手を回されて、高級車であるカイエンに乗ろうとしていた。

 綾香に兄はいない。それに、あの手の回し方は家族とか親族とか、そんな感じではない。

「んもぉ。しょうちゃん。手つきえっちだよ?」
「あはは。我慢できなくてな」
「この後いっぱいやるんだから、それまで我慢して。ね?」
「そうだね。今日もいっぱい繋がろう」

 周りを気にしないバカップルなセリフなんていつもならスルーするのだが、この時だけはスルーできなかった。

「綾香。なにやってんだよ」

 彼らに近づいて低い声を出すと、ビクッ! っと肩を震わせて振り返ってくる綾香。

「え、うそ……。京太……」

 彼女の顔は、バレてはいけないことがバレてしまったと言わんとする真っ青な顔色をしていた。

 その顔色で、全てを察してしまい、言葉が出ないでいると、綾香と一緒にいた男がこちらを見てくる。

 イケメンというよりは美男子で、俺よりも少し幼さの残る顔だが、車に乗ろうとしたことから年上と推測できる。

「誰?」

 幼い顔とは裏腹に落ち着いた声でこちらに問いかけてくる。そこは大人の男性といった感じだ。

 お前が誰だよ。

 そんな俺の言葉を遮り綾香が慌てて言った。

「ク、クラスメイトだよ。ただのクラスメイト」
「は?」

 ただのクラスメイト?

 そっちから告白してきて、クラスメイト達に、お似合いやら、おしどり夫婦やらと囃し立てられて嬉しそうにしていたのに?

 訳がわからず、口をぱくぱくしていると男の方が睨んでくる。

「ただのクラスメイトか。きみ、彼女と一緒にいるところに突っこんでくるなんて、もう少し場の空気を読んでくれよ。まぁガキだから仕方ないだろうけどさ」

 超絶上から目線の男に言われるがまま、俺は返す言葉がなかった。

「さ、行こう綾香」

 強引に彼女を引き寄せて、俺の物と言わんアピールをする男に。

「んも。強引だよしょうくん」

 まんざらでもない態度の綾香は、俺の顔を見ながら手を振ってくる。

「じゃ、じゃあね京太」

 そう言ってカイエンに乗り込んだ2人の車を俺は呆然と眺めるしかできなかった。







 この話は、恋愛を知らない男が入学直後に可愛い女の子から告白をされてなんとなく付き合ったら、1年後には二股されていたことに気がついた物語。

 それだけで終わればどれだけ良かっただろうか。

「京太ああああああ!」

 怒号と共に俺の頬を右ストレートが飛んできた。

 1年1組の教室で殴られた俺は、机を薙ぎ倒して勢い良く吹っ飛ばされる。

「見損なったぞ京太」

 殴られた上に幻滅の言葉を投げてくるのは、学校で仲の良い田中悟たなかさとる

「……京太……」

 ただ呆然と俺を見てくるのは1番仲の良い平野山陽介ひらのやまようすけ

「本当。今まで仲良くやってたのにこんなクズだとは思わなかったわ」

 悟の横でゴミを見る目で見てくる女子生徒の野村沙織のむらさおり

「京太。あんなに仲よかったのに……。二股するんなんて最低っ!」

 野村沙織の隣で泣きそうに言ってくるのは中村藍子なかむらあいこ

「うう……。ヒック……。うう……」

 そして、中心で泣いているのは、二股女の糟谷綾香。

 先手をうたれたみたいだ。

 綾香は俺に二股がバレた時のことを考えて、俺が二股をしたことにして悲劇のヒロインを演じようと考えていたみたいだ。

 そして、それが実行された。

 見事、綾香の作戦は成功。

 俺の仲間は、仲間だった人達はみんな綾香に肩入れしてしまった。

「お前の顔なんて見たくない。消えろ」
「……」
「ちょっとかっこいいからって調子乗るなよ二股野郎」
「綾香! 大丈夫だから。私達が付いているから。ね?」
「うう……。みんな、ありがとう……。うう……」

 なんなんだ? この茶番は……。

 なんか……。もう……どうでも良いや。なんでも良い。

 俺とこいつらの絆はその程度だった。それだけだ。

 こうして、高校生活を仲間達と楽しく過ごしていた俺は、彼女に二股されて仲間からもハブられてしまった。
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