彼女に二股されて仲間からもハブられたらボッチの高嶺の花のクラスメイトが高校デビューしたいって脅してきた

すずと

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第25話 本当の恋

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「お疲れ様でしたー」

 クローズ作業を終えて、本日のカフェのバイトが終了した。

 バイト終わりはいつも空が暗くなっており、月がこんばんはをしている。

 暗い夜道を街灯が光る。

 普段なら1人で帰るバイトの帰り道だが、今日は優乃と2人で帰ることになる。

「で……。お前はいつまでその格好なんだ?」

 俺の隣を歩く優乃は学生服に着替えずに、メイド服を着たままであった。

「戒めです。自分への戒めなのです」
「戒めって……」

 冗談で言っているのかと思ったけど、肩を落とし、どんより歩いているので案外真面目にそんな発言をしている雰囲気がある。

 落ち込んでいるのも無理はないのかもしれない。

 初バイトで優乃はやらかしが多かった。

 言葉使いはもちろん、注文を間違えたり、皿を割ったり、お客さんとぶつかったり。

 初めてのバイトはそんなものだろうと思う。かくいう俺も初めて働いた時はもっと酷かったし。

「うう……。わたしはやはり社会不適合者なのでしょうか……。こんなことでは高校デビューなんて夢のまた夢」

 落ち込んでいるな。

 容姿以外のことだから、とことん暗い雰囲気を醸し出している。

 なにか気の利いた言葉を送ってあげたいが、安い言葉は逆効果。

 同じ職場で働いた立場だが、全く同じ立場ではない。

 そんな俺が気を使った声をかけても意味はないだろう。

 どうすれば彼女の暗い雰囲気を緩和させららるか悩んでいると、道端に一筋の光が差した。

 自動販売機だ。

 俺は自動販売機の前で立ち止まると、優乃も立ち止まってくれる。

 学生服であるスラックスの尻ポケットから長財布を取り出して、1000円札を入れたらコーラを押した。

 ガランと音を立てて落ちてくるコーラを取り出し口から取り出して、優乃の頬に引っ付けた。

「ひゃ!」

 まともな悲鳴を出して、可愛い反応を示した。そんな反応をしてくれた彼女へ笑いながら言ってやる。

「お疲れ様」
「や、えと……」
「初バイトの労い」
「で、でも……」

 受け取るのを躊躇している様子なので、俺はまだ光っている自動販売機のコーラのボタンを押した。

 ガコンともう1本コーラが出てきた。

「2本もいらないからさ」
「ええっと……」
「ええい。先輩命令だ。受け取れ」
「は、はい」

 コーラ1本でなにを偉そうなことを言っているのだろうかと思われるかもしれないが、2本飲むのは普通にきつい。

 ようやく受け取ってくれたコーラを彼女は見つめていた。

 俺は自動販売機の取り出し口より、もう1本のコーラを取り出して歩き出す。

「寄り道して行こうぜ」
「あ、は、はい」

 いつもはスルーする、住宅街にある本当に小さな公園。

 鉄棒とシーソーしかない児童公園。遊んでいる子を見たこともない公園のベンチに優乃と腰を下ろした。

「ほんじゃ改めてお疲れ」
「あ、お、お疲れ様です……」

 コンっとペットボトル同士をぶつけて乾杯を交わしてペットボトルの蓋を開ける。

 プシュッと炭酸が抜ける音がして、甘い匂いが俺の鼻通る。

「あの……京太くん。今日は、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 ゴクゴクとコーラを飲んでいると、本日何回目かもわからない謝罪がくる。

 バレない程度のゲップをしてから声をかける。

「失敗しない奴は行動しない奴だ」
「え……?」

 いきなりの言葉に優乃はこちらに瞳を向ける。

「優乃の中で陽キャってのがどんなイメージなのかは知らないけどさ」

 前置きをしてから彼女へと語りかける。

「昔、仲の良かった周りの連中は周りから陽キャとかリア充とか言われて良い気になってる奴が多かった。でも、なにか行動をしている奴は少なかったな」

 思い出すように。

「これが欲しい、あれが欲しいって言っている割にバイトはしない。こうなりたい、ああなりたいって言ってる割にそのスキルの勉強はしない。そのくせ、失敗した奴のことは馬鹿にして、文句ばっかり言って、言い訳ばっかり」

 愚痴っぽくなってしまうが。

「群れて無駄に時間を浪費して、遊んでばっかりで。ただ、なんとなく誰かといることが陽キャだとかリア充とかって思ってる」

 動き出した口は止まらない。

「あいつらは行動に移さないから失敗しない。その上で運良く周りからチヤホヤされてしまったから、自分は人間として上だと勘違いしてる。それがキラキラで青春だって勘違いしてる」

 語りすぎてしまった。

 頭を冷やすように月を見上げた。

 綺麗な月はなんだか俺達を優しい光で包んでくれている。

「高校デビューしたい。そのためにお金が必要。だからバイトをする。優乃はちゃんと行動に移した。その結果失敗してしまったけどさ」

 月から視線を優乃に移す。

 そこには月よりも美しい1人の女性が座っていた。

「そんな奴等よりずっと優乃の方がキラキラ輝いてるよ」

 本心からの言葉を放った後に、俺は何て恥ずかしいことを言っているのか理解して、誤魔化すようにコーラをガブッと飲んだ。

「わたしの方が……」
「ま、まぁ、あれだよ。うん。失敗しても気にすんな。俺がフォローするし、大丈夫」

 恥ずかしくなり、回らない呂律をなんとか回して言ってのけると、優乃はギュッとメイド服を掴んだ。

「失敗しない奴は行動しない奴だ」

 俺の言葉を繰り返し言ってのけると、つぶらな瞳でこちらを見てくる。

「そうですよね……。そうですよね! わたしはキラキラ輝いていますよね」

 あ、そっちの方が響いたんだ。失敗しても大丈夫の方だと思ったわ。

「というか、わたし美少女属性とメイド属性の他に新たなる属性を手に入れましたよね」
「属性?」
「いやですねぇ京太くん。さっき、『先輩命令』って言ったのをお忘れですか? つまりわたしは京太くんの後輩。結果、わたしは後輩属性を手に入れたのです」

 なんか元気になったっぽい。

「でひゅ。というか、とういうか!? 陽キャが行動しなくて、わたしが行動しているってことは、わたしは陽キャを超えている? てか? カフェで働くとかほぼ神では? でふ、でふふ、こんな見た目でカフェとか神越え女神越えエデンでは?」
「いきなりアクセル全開だな。おい」

 まぁ元気になったのなら良かったけど、持っているコーラを振るのはあほなのかな?

「でひゅ。エデン優乃とか胸熱、熱盛り」

 謎の呪文を呟きながら、興奮してコーラをシェイクしまくる。

「でひゅでひゅ」
「あ」

 優乃はバリクソにシェイクされたコーラを開けた。

 ブシュウウウウ!

「キャっ!」

 メントスコーラ並に激しいコーラのシャワーを優乃のメイド服は、びしょびしょになった。

「うう……」
「そりゃそうなるわな」

 クスクス笑いながら優乃を見る。

 全体がコーラまみれになり、ところどころに泡がついてる。

「調子に乗った罰ってこった。あはは」

 言いながら残りのコーラを飲むと優乃こちらを睨んでくる。

「おいおい。自業自得だろ?」
「道連れです!」 

 ガバッと俺に抱きついてくる。

 彼女の柔らかい感触と、女の子特有の甘い匂いと、コーラの匂いが混ざり合って、なんとも言えない感情が渦巻いた。

「ちょ!」
「メイドが冥土へ道連れですよ! ご主人様」
「やめっ。コーラ臭い」
「糖類、炭酸、カラメル色素、酸味料、香料およびカフェイン入りのメイドです!」
「成分に詳しいなっ!」

 メイドらしいと言えばメイドらしいけど、なんて思っていると抱き付いている優乃の体が少しだけ震えているのがわかった。

「優乃、寒いの……」
「ありがとうございます」

 こちらの言葉を遮り、礼の言葉を重ねてくる。

「京太くんには感謝しております。あなたがいなければわたしは……わたしは……」

 言われて思うのはそれはこちらの台詞だと言う思い。

 優乃がいなければ俺の高校生活は転落したまま、ずっと暗いままだっただろう。

 優乃が脅して、高校デビューしろって言ってきたから。

 でも、まだ俺達はなにも成せていない。だから礼を言われるのは、礼を言うのはまだ早すぎる。

 だけど成そうとしている。転落した暗い場所からやりなおそうと這い上がろうとしている。

 行動している。

 優乃がいなければやりなおそうとは思わなかったかもしれない。

 優乃が側にいる。だから、今の俺がいる。

 あなたがいなければ、というセリフは本当にこちらのセリフだ。

 トクン。

 感謝の念を抱いていると、それは唐突に変わった。

 彼女の甘い香りでも、コーラの甘い香りでもない、独特の甘い雰囲気を感じて俺の心臓は跳ねてしまう。心臓の鼓動は早いが、どこか心地良い。

 比べるのは優乃に失礼に値するが、綾香とはこんな空気になったことがない。

 これが本当の恋。

 ってことなのかもしれない。

 感謝の念は本当の恋へと変わった。

「優乃。お前はメイドで後輩属性なんだよな?」
「はい」
「じゃあ命令。もう少しだけこうしてくれ」
「あなたの命令なら仕方ありません」

 ギュッと優乃は俺を優しく包んでくれた。

 命令なんて好きじゃないけど、今は優乃との密着を、心地の良い心臓の鼓動を、本当の恋を楽しみたかった。
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