彼女に二股されて仲間からもハブられたらボッチの高嶺の花のクラスメイトが高校デビューしたいって脅してきた

すずと

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第39話 ゲロ以下の存在

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 チュンチュン。

「結局、眠れなかったな」

 初めての朝チュンは、自分自身がヘタレ童貞ということを再認識させるだけであった。

「こいつはこいつで爆睡してるし。なんだよ。俺じゃドキドキしないってか……」

 それじゃあ、背中に感じたドキドキは俺だけの音かよ。

 でも……。

「こんなに綺麗な寝顔を朝一番に見せられたら文句も言えねぇな」

 彼女の前髪を軽くかき分けて、その整った寝顔を良く見えるようにした。

 ポンっと顔が熱くなる。

「俺は何を気持ち悪い彼氏みたいなことしてんだ」

 優乃が起きる前に早く起きよう。

 こんなことしてるなんてバレたら、まぁた痛い奴だと思われる。

 俺はそそくさと部屋を出て行った。







「ほんと、鈍感な人ですね……。あなたにドキドキしないわけないじゃないですか。眠れるわけあるはずないじゃないですか。ばぁか……」







 朝起きると、雫さんは仕事に行ったみたいだ。

 朝ご飯のパンが置いてあり、『遠慮なく食べてください。もし、京太くんの方が優乃と優美よりも早いのなら、鍵はポストに入れておいてください。優乃に連絡しておきます』という書き置きがあった。

 せっかく用意していただいたものを頂かないというのも失礼にあたる。ここは遠慮なく食べてしまおう。

 優乃はまだ寝ているし、優美ちゃんも起きてくる気配はなかった。

 無理に起こすのも悪いため、朝ご飯をもらうと先に家を出た。

 正直、優乃と顔を合わすのがなんとも言えない感情だ。

 気まずいとは違う。

 恥ずかしいというか、照れ臭いと言うか。

 こっちはドキドキと鳴る心臓の音を聞かれ、俺は優乃のドキドキ音を聞いてない嫉妬というか。

 なんとも言えない、こそばゆいこの感情をなんと呼ぶのか誰か教えて欲しい。

 鍵を指定通りポストに入れてから東堂家を後にした。

 昨日の嵐が嘘みたいな晴天の下、いつもと違う出発点で学校に向かう少しの違和感。

 だけどそれも一瞬。

 すぐにいつもの通学路に入ると、慣れた足取りで学校に向かう。

 同じ制服を着た人達が数人見えてきて、その人達と共に正門を潜った。

 それが合図と言わんばかりにスマホが震えた。取り出すと母さんからLOINが来ていた。

『東堂さんのところにお礼言いなさいね』

 そのLOINに、『へいへい』と適当に返す。

 でもまぁ母さんの言う通りだ。

 半ば強制的なお泊まり会だったが、泊めてもらってお礼の1つもできていなかった。これは失礼に値するな。

 今度、優美ちゃんの家庭教師の日に改めて茶菓子でも買ってお礼に伺うとしよう。

 スマホをしまい、昇降口に入ったところで。

「今日オケる?」
「あ、良いね。カラオケ行こうよ」
「ごめん。今日は無理だわぁ」

 極力見たくない女子3人組の顔。

 ギャルっぽい見た目の野村沙織。

 そんなギャルとは無縁に見える清楚な見た目の中村藍子。

 そして、全ての元凶である糟谷綾香。

 元仲間の女子達と昇降口でバッタリ会ってしまう。

「あ……」

 藍子がこちらに気がついて声を漏らすと、綾香と沙織が視線を向けてくる。

 目を合わさないようにしていたが、沙織が眉間にシワを寄せているのはわかった。

 何か思うことがあるだろうが、特に声に出してのリアクションはない。

 声をかけられないのはこちらとしてもありがたい。こっちも見たくない顔を見てしまっている。とっとと上履きに履き替えて教室に向かおうと彼女達を追い抜いた。

 その時──。

「うぼおおお……!」
「「綾香!?」」

 唐突に綾香が嘔吐した。

 冗談で、「吐きそうな奴を見たわぁ、げぼぉ」とかのノリじゃない。

 嘔吐だ。

 胃の中のものを物凄い勢いで吐いている。

 俺は、本気で吐くほどまでの存在ってことなのか。

「大丈夫!? 綾香! 大丈夫!?」

 藍子が綾香の背中をさすって心配そうにしている。

「京太……。早くどっか行けよ」

 沙織が小さく言うと、涙目で言ってくる。

「綾香は二股されて本気で気持ち悪がってんだよ! 顔も見たくないから、2度とあたしらの前に顔出すなって言ってんの! 二股クソやろうがっ!」

 何も言い返せなかった。

 俺が二股をしたわけじゃないのに。本当はあいつなのに。

 でも、本気の嘔吐を前に、俺は逃げるようにその場を去った。







 わからない。

 どうして俺がこんな目に合わなければならないのか。

 綾香の中で、俺の顔を見たら嘔吐するまでの嫌悪感を抱かれる存在なのか理解ができない。

 俺が何をしたってんだ。

 思い当たる節は見当たらない。俺はあいつになにもしていないはずだ。

 それなのに顔を見たら嘔吐されるんだ。無自覚に何かしたってレベルじゃないぞ。

 つうか、嘔吐したいのはこっちなんだよ。ゲロ以下の存在がゲロぶちまけてんじゃねぇよ。

 負の感情を渦巻きながら、朝の教室に入る。

 クラスメイト達が、ヒソヒソとこちらを見てくる視線を感じる。

「昇降口で」
「マジかよ」
「うはぁ」

 会話の内容は聞き取れないが、おそらくさっきの出来事だろう。

 だめだ。辛い。今日はもう帰ろうかな。

 来たばかりの学校だが、俺は鞄を持って教室を出て行こうとする。

 すると、登校してきた女子生徒とぶつかりそうになった。

「あ、京太くん」
「優乃……」

 昨晩、同じ時を過ごしていた彼女が、心配そうな顔でこちらを見てくる。

 ついさっきまで本当に楽しくて、照れ臭くって、甘い時間だったのに。

 あいつが全部壊していく……。

「ごめっ……優乃……」

 悲しい気持ちになっている俺は、かすれた声で彼女にぶつかりそうになったことを謝り、そのまま教室を出て行った。
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