「貴方に心ときめいて」

閑話19

「あれからどれだけの時間が経ったのかな？」

あの雨の日、一柳さんの本心を知ってしまった私は心の赴くまま、街中を彷徨っていた。
傘も差さず、ずぶ濡れになって寒さのあまり意識が朦朧となり。
そんな私を祥吾さんが保護し、今に至っている。
だから時間の感覚が解らない。
毎日、祥吾さんに蕩ける様に全身を愛撫されて隅々まで愛されて。
気付けば祥吾さんと繋がっている。
ドロドロに溶かされて中に祥吾さんの灼熱を感じて。

「あんあん、祥吾さん」

自分では無い声。
甘い、強請るような女の。

「そんなに俺を煽るなっ」

「いや、やだあ、そこは、いやあ……」

グリグリと中を抉る様な刺激に思わず嬌声が出る。
ぬちゃぬちゃと耳を犯す粘着質な音。
止めどなく溢れる愛液でシーツが濡れる。
激しい交わりにシーツを握る力が強くなる。
こんなに激しく求められた事なんて無い。
誰にも必要とされた事が無い私を祥吾さんは溢れる程の愛を与えてくれる。
ズブズブに愛されて何度も達して。
その都度、果てしない快楽に墜落してしまう。
浮遊する身体。
絶頂を何度も迎えて、その度に祥吾さんに強く抱き締められて。
無意識に頸に腕を回し彼の唇を求めてしまう。
もっと私を愛して。
もっと私を必要だと言って。
私だけを愛していると言って。

「さゆ」

甘く蕩ける様な声で私の名を呼ぶ。

全てが繋がって一つとなった私達に隔たりなど無い。
誰かと一つになる。
こんな幸せがあったなんて知らない。
身体を求められる事がこんなに幸せだなんて……。

彼に惹かれている。
祥吾さんに私は恋をしている。

「祥吾さん、もっと……」

中にいる祥吾さんを締め付け彼の額に薄らと汗が滲み。
ぽたり、と肌に汗が落ちる。
それだけで身体が感じ震えてしまう。

「さゆ、さゆっ」

譫言の様に私の名を呼ぶ。
自分が女だと自覚させられる。
淫らに彼を求めている女だと。

ベットのスプリングが激しく揺れる。
中を犯す祥吾さんの絶頂が近づき、そして最奥に爆ぜられ。
背中が大きく仰け反り私の腰を掴む祥吾さんが中を何度も強く穿つ。
急激な疲労感に襲われ意識が薄らいでいく。

「さゆ、愛している」

唇に彼の熱を感じながら私は完全に意識を失ってしまった。

＊＊＊

「さゆ」

(気絶してしまったか。
まあ、あれだけ激しく求めたからな)

無防備に自分の腕枕で眠っている紗雪の頬に触れる。
快楽に染まった頬にほんのりと涙の跡が残っている。
肌には至る場所に鬱血の跡。
情事の名残りを強く主張している。

「まだまだ足りない。
もっと欲しいんだ、さゆ」

ずっと求めていた。
急な別れを強いられたあの日から。

どんな女も自分を満たす事なんて無かった。
常に心の中にあるのは虚無のみ。
祥吾は自分の心の飢えを渇きを潤す紗雪を探し求めた。

何十年もかけて見つけた時の衝撃。

変わらない。
あの、幼い頃のままの紗雪に祥吾は不意に涙が滲んでいた。

愛らしい紗雪。
紗雪の周りだけが綺麗な空気に包まれていて。
自分に自信が無く、平凡以下だと卑下しているが紗雪ほど綺麗な女は知らない。

俺の、俺だけの女。

唯一、愛を請い捧げる女。

だから紗雪の不遇な人生に祥吾は激しい怒りと憎しみを抱いた。
そして紗雪の心に深く刻まれた一柳泰斗の存在に祥吾の憎しみに果ては無く。

「ああ、紗雪の心を奪ったあの男にどんな報復をあたえようか。
それよりも先に、紗雪の人生を狂わした人間の抹殺か。
ふふふ、己の人生を嘆き苦しむがいい。
紗雪を不幸のどん底に陥れたお前達にはこの世の地獄を教えてやる」

「う、ん」

「さゆ。
ずっと側にいるんだ。
俺から離れる事なんて赦さない。
俺だけの事だけ考えて、俺だけを求めて、俺だけを愛して」

お前の人生に俺だけがいればいい。

「愛している、さゆ……」

＊＊＊

愛の狂気なんて知らなかった。
自分を愛したが為に狂わされる人生。

彼だけを見つめていたらどれだけ幸せだろう。

だけど私は……。

私は知らなかった。
彼の愛と私が求める愛がすれ違っている事を。

心の中でぽつんと雫が落ちて。
漣の様に広がる。

愛していた。
愛していたの、私は。

彼の事を、私は愛していたの……。