まるでシンデレラの姉の様に

華南

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シンデレラは魔女の魔法で素敵なドレスとガラスの靴を手に入れました。

そして舞踏会に出て、王子様と運命的な出会いをします。

だけど魔女との約束は零時まで。
その時間を過ぎると魔法が解けて、ただの灰被り姫に戻ってしまう。
楽しい時間。

王子様とのダンスに夢中になって、時が過ぎるののを忘れるくらい、素敵な……。


(子供の頃、何時も読んでいたお話。
王子様と幸せになるシンデレラがとても羨ましかった。
本当の自分を見つけてくれる王子様が)

ぼろぼろになった絵本を閉じて、考えに耽る。

今日、遭った事を瞳は思い出していた。
客に後をつけられ襲われそうになった自分を助けた、松室慧。
偶然を装いながら、自分を多分、ずっと見ていた。

そう思えてならない。

(どうして、私の事を見ていたんだろう?
お父さんが亡くなって、お母さんの家族に連絡を入れているから、お母さんの家族が私の状況を知っているのは解る。
でも、彼が何故……)

日記に挟まれている写真を見つめる。
角が少し朽ちた写真。
ずっと大切にしていた事は感じる。

母の日記でどれだけ、彼に心を奪われていたか痛いほど伝わってくる。
本当の愛。
では、何故、父と再婚したんだろう?

家を出るまでの経緯までは、書かれていない。
ただ、自分の婚約者を奪った女性がどんな人だったのかを刻々と綴っている。
そして母が愛した松室櫂の性格と容貌と彼に対する想いが。

子供である慧の事も書かれていた。

自分に懐く慧。

子供の頃の櫂に生き写しだと言うほど、良く似ていると書いていた。
憎い女の息子。
そして自分が愛した男の息子。

心の葛藤が深く書かれた。
純粋なまでの慧の比沙子に対する思慕。
その中で時折見せる慧の罪悪感の眼差し。
子供にこんな感情を植え付けさせた自分の存在を比沙子は心の中で、疎ましく感じていた。

「お母さん……。
今はもう居ないお母さん。
子供の頃の思い出なんて一つも思い出せない。
物心付いたときには既に母はこの世を居なかった。
だから、お母さんの想いを正直、実感として感じられない。
紙面で綴られている感情は伝わってくる。
痛いほど、感情が揺さぶられる。
だけど、それだけ。
それだけなの……」

ずっと母親に似た美貌を持った所為で、瞳は同姓の妬みと嫉妬のターゲットだった。
小学校の頃、クラスで人気のある男子が自分に好意を持っていると感じると、瞳は直ぐに彼との接触を避けるようになった。
また、執拗な苛めに遭う。
それも回りに悟られない様に巧妙に。

父が再婚して出来た義理の母と義姉の美夜。
何時も父一人だけの世界が一変した。
家に帰るのが楽しくなった。
本来の自分を見せても大丈夫だと、瞳は心から安心した。
美夜は自分に対して苛めたりはしない。
嫉妬の感情をむき出しにしない。

自分に優しくしてくれる。

だから、自分の学校での姿を隠さなければならない。
ずっとひたすら隠していた。
目立たないように自分の存在を主張しない様に、いるか解らないように。
ずっと、ずっと……。
目立つ容貌は、伊達めがねとおさげで変装して。
言葉も交わさない、ひっそりとただ居るだけ。

そのお陰で、瞳がクラスにいるかなんて誰一人気付かないほど、瞳の存在は知られていなかった。

だから安心していた。
自分に対する敵対の目を気にしなくていい事に。
なのに、バイトをすると言って本来の姿を見せた途端、男の欲望の的にされてしまった。

(どうしよう。
もう、あの古本屋でバイトは出来ない。
お姉ちゃんと一緒にいるためには、働かないと。
お荷物になっては駄目。
一緒にいたいから。
ずっとお姉ちゃんの側にいたい……)

ずっと我慢していた涙が溢れてきた。
美夜に気付かれては駄目。
さっきの慧の言葉で傷ついた美夜。
自分を心配して必死になって突き詰めようとした。

(どうしたらいいの?
どうしたら……)

眠れない夜を過ごしながら、瞳は朝を迎えた。

***

目覚めると既に美夜は出かけていた。
図書館で調べたい事がある、とメモ紙と食事が準備されていた。

多分、瞳が一人でいたいと感づいたのだろう。
昨日の事を聞きたいと思っていると感づいていたが、瞳の頑なな表情に美夜はただ微笑んでいた。
瞳の奥深い部分に触れてはいけないと察したんだと思うと、美夜の気持ちに瞳は涙が出る。

「お姉ちゃん……」

美夜が作った朝食を追え、瞳は出かける準備に取り掛かった。

またバイトを見つけないといけない。

(どうしよう。
学生を雇ってくれるバイトって余りないのに。
あの古本屋、時給もそこそこで時間も融通して貰って助かっていたのに。
やっと少しずつ慣れてきたのに)

今度は地味で学校での自分でバイトを探さないといけない。
また美夜が困惑な顔をするとは解っている。
でも、自分も美夜の手助けになりたい。
ただの扶養で居たくはない。


ふと、慧から帰り際に手渡されたメモを思い出す。
何を思ったのか、慧に何かあったら連絡をする様にと必死になって言われたが。
どうして?と訝しげに見つめると、自分が関わった所為でバイトが難しくなったろう、と。

「そんな事、ないです。
先ほどは失礼な言葉を言いましたが、貴方が助けてくれた事で難は逃れました。
バイト先だって、貴方が関わった事で働くのが難しくなったなんてとんでもない事ですが」

「……、でも、君は働きたいんだろう?
僕なら君の力になれるよ。
こんな事を言うと、下心あると思うかも知れないけど、君は、その、僕のとても大切な女性に似ているんだ。
だから、君に対して親近感を持ってしまって。
君を放って置けない。
もし、次のバイトを考えるのなら、是非、僕に連絡して」

慧の懸命な説得に瞳はただ、曖昧に頷いていた。

(冷静に考えると、なんか強引だったと言うか、話の辻褄が怪しかったけど。
でも、私の事を必死に考えてくれた。
それに私を見つめる視線に何時も感じる、あの独特な厭らしさが感じられなかった。
だから、彼は一応、信用しても言いと思えるけど、でも)

彼の事を何も知らない。
ただ、解るのは日記に書かれている名前と、彼が母親の婚約者を奪った女性と、婚約者の息子だと言う事だけ。

「松室慧さん……」

慧さん、と言葉を滑らせた時、一瞬、瞳はシンデレラのお話の思い出していた。
本当の自分を探し当て、愛を囁いて一緒になった王子とシンデレラ。

どうしてその物語を思い出したんだろう……と、瞳は考えながら慧から手渡された連絡先に連絡を入れた。
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