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新人メイドたちの日々
ep3
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「ど、ドレス!?」
食堂に素っ頓狂な声が響き渡り、アリシアは呆けたように口を開けた。
「アリー、口が開いたままだよ?」
クスクスと笑いながら同期のカンナにそう言われ、そっと口を閉じたアリシアは一緒のテーブルを囲んでいたカンナとノリアを振り返った。
「ドレスですよ、ドレス! そんなの、王国建国祭で着たっきりなんですよ!? 私、ドレスなんて持っていませんし、パーティがそんな大掛かりなものだなんて…」
オロオロしているアリシアに彼女へ、話を伝えに来た執事長は苦笑しながら言った。
「そこまで気負う必要なんてないですよ。こちらで貸し出し用のドレスは用意しておりますし、専属のコーディネーターもつけます。それに、お三方用にメイクアップの担当者も用意していますのでご安心を。とはいえ、そこまで大掛かりなものではないですから」
「でも…」
「使用人をかき集めてバイキング形式で食事を好きに取ってもらって、ちょっと安いワインやジュースを配る程度のものです。王子殿下や姫様はまだ未成年ですし、一部の使用人も飲めない人がいますから飲めなくてもご安心を」
ノリアがホッと胸を撫で下ろし、カンナも息を吐き出した。
「それはよかった。…ノリアは全くダメだし、あたしは自信なかったし」
アリシアは不思議そうに小首を傾げた。
「え、飲み放題ですか?」
「おや、アリシアさんはいけるクチですか?」
「それなりには。教会の視察に付き添って色々なお酒を飲んだものです。エルフの里で『クリスタルローズ』(※超高級ワインのこと)を一樽貰ったのですけれど、それを一人で開けて素面で飲み干したこともありますし、ドワーフの里でドワーフさんと飲み比べして――まあ、負けましたけど――”ドワーフ潰し”と呼ばれる火酒『龍殺し』をジョッキで五杯までならギリギリいけますよ」
さすがに後者は素面じゃなかったですけどね、と付け加えたアリシアに執事長が尋ねた。
「クリスタルローズは怒られたのでは?」
「…それは、もう。教皇様は涙で枕を濡らしてしまって、一週間ほど口をきいてくださいませんでした。教皇様が一番楽しみにしておられたそうでして、その、私宛にもらったとはいえ、一杯くらいもらえるとウキウキしながら待っていたそうですから」
「でしょうねぇ」
クリスタルローズは作るのに10年以上もかかる代物であり、また、熟成すればするほどに味に深みが増していくという超高級のワインである。
貴族でさえ中々手を出せない代物で、王や上級貴族のステータス品とまで呼ばれる逸品なのだが、根気強く作ろうと思えば――それにつきっきりになるのは間違いないだろうが――作れなくもないらしい。
ただ、その製法は職人が口伝で伝えている秘技であるため、知っている人はごくわずかなのだとか。
執事長はコホンと咳ばらいをし、三人の新人メイドを見据えた。
「それと、ダンスもありますので、午後は着付けの時間まで練習なさっていても結構ですよ。場所は用意させますから」
「…ダンス」
アリシアはそれを聞くと表情を曇らせる。
「苦手です。前は相手の方のリードがうまくて踊れたのですが…踊りよりも歌の方が得意でしたし、ダンスはあまり…」
「さようですか。ですが、マリアンヌ様がとても喜んでくださるので頑張ってもらえると、こちらとしては大変ありがたいのです。それと、ダンスの相手のことはこちらで何とかしておきますので、ご安心を」
「…はい」
アリシアが不安そうな顔をしながら去っていった執事長を見送り、俯いてしまうとカンナがそっとアリシアの手を握った。
「大丈夫。一緒に練習しよっか」
「いいですか?」
「もちろん。ノリアも一緒に練習する?」
ノリアも大きく頷いた。
「ダンスパーティなんて初めて! まあ、次から参加しても給仕側だっていうのはわかっているんだけれど、思いっきり楽しもうかなって」
「ふふっ、それでいいと思うよ。アリー、心配しなくたってあたしでよければ教えるからね。仮にも貴族の娘だったし、基礎くらいはやっているから」
カンナに優しく励まされ、アリシアは大きく頷いた。
「はい!」
ノリアが身を乗り出した。
「あ、私もアリーと一緒に頑張るね!」
「もちろんですよ、ノリア!」
にっこりと笑ったアリシアは三人で顔を見合わせると、声をあげて笑った。
食堂に素っ頓狂な声が響き渡り、アリシアは呆けたように口を開けた。
「アリー、口が開いたままだよ?」
クスクスと笑いながら同期のカンナにそう言われ、そっと口を閉じたアリシアは一緒のテーブルを囲んでいたカンナとノリアを振り返った。
「ドレスですよ、ドレス! そんなの、王国建国祭で着たっきりなんですよ!? 私、ドレスなんて持っていませんし、パーティがそんな大掛かりなものだなんて…」
オロオロしているアリシアに彼女へ、話を伝えに来た執事長は苦笑しながら言った。
「そこまで気負う必要なんてないですよ。こちらで貸し出し用のドレスは用意しておりますし、専属のコーディネーターもつけます。それに、お三方用にメイクアップの担当者も用意していますのでご安心を。とはいえ、そこまで大掛かりなものではないですから」
「でも…」
「使用人をかき集めてバイキング形式で食事を好きに取ってもらって、ちょっと安いワインやジュースを配る程度のものです。王子殿下や姫様はまだ未成年ですし、一部の使用人も飲めない人がいますから飲めなくてもご安心を」
ノリアがホッと胸を撫で下ろし、カンナも息を吐き出した。
「それはよかった。…ノリアは全くダメだし、あたしは自信なかったし」
アリシアは不思議そうに小首を傾げた。
「え、飲み放題ですか?」
「おや、アリシアさんはいけるクチですか?」
「それなりには。教会の視察に付き添って色々なお酒を飲んだものです。エルフの里で『クリスタルローズ』(※超高級ワインのこと)を一樽貰ったのですけれど、それを一人で開けて素面で飲み干したこともありますし、ドワーフの里でドワーフさんと飲み比べして――まあ、負けましたけど――”ドワーフ潰し”と呼ばれる火酒『龍殺し』をジョッキで五杯までならギリギリいけますよ」
さすがに後者は素面じゃなかったですけどね、と付け加えたアリシアに執事長が尋ねた。
「クリスタルローズは怒られたのでは?」
「…それは、もう。教皇様は涙で枕を濡らしてしまって、一週間ほど口をきいてくださいませんでした。教皇様が一番楽しみにしておられたそうでして、その、私宛にもらったとはいえ、一杯くらいもらえるとウキウキしながら待っていたそうですから」
「でしょうねぇ」
クリスタルローズは作るのに10年以上もかかる代物であり、また、熟成すればするほどに味に深みが増していくという超高級のワインである。
貴族でさえ中々手を出せない代物で、王や上級貴族のステータス品とまで呼ばれる逸品なのだが、根気強く作ろうと思えば――それにつきっきりになるのは間違いないだろうが――作れなくもないらしい。
ただ、その製法は職人が口伝で伝えている秘技であるため、知っている人はごくわずかなのだとか。
執事長はコホンと咳ばらいをし、三人の新人メイドを見据えた。
「それと、ダンスもありますので、午後は着付けの時間まで練習なさっていても結構ですよ。場所は用意させますから」
「…ダンス」
アリシアはそれを聞くと表情を曇らせる。
「苦手です。前は相手の方のリードがうまくて踊れたのですが…踊りよりも歌の方が得意でしたし、ダンスはあまり…」
「さようですか。ですが、マリアンヌ様がとても喜んでくださるので頑張ってもらえると、こちらとしては大変ありがたいのです。それと、ダンスの相手のことはこちらで何とかしておきますので、ご安心を」
「…はい」
アリシアが不安そうな顔をしながら去っていった執事長を見送り、俯いてしまうとカンナがそっとアリシアの手を握った。
「大丈夫。一緒に練習しよっか」
「いいですか?」
「もちろん。ノリアも一緒に練習する?」
ノリアも大きく頷いた。
「ダンスパーティなんて初めて! まあ、次から参加しても給仕側だっていうのはわかっているんだけれど、思いっきり楽しもうかなって」
「ふふっ、それでいいと思うよ。アリー、心配しなくたってあたしでよければ教えるからね。仮にも貴族の娘だったし、基礎くらいはやっているから」
カンナに優しく励まされ、アリシアは大きく頷いた。
「はい!」
ノリアが身を乗り出した。
「あ、私もアリーと一緒に頑張るね!」
「もちろんですよ、ノリア!」
にっこりと笑ったアリシアは三人で顔を見合わせると、声をあげて笑った。
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