28 / 59
女王の帰還
ep6
しおりを挟む
女王アリューゼの態度の変化にぽかーんとしている3人を見ながらマリアンヌはやれやれと首を横に振った。
「母さま、お仕事があるのですから手短にお願いしますよ。それより、兄さまの件は終わったのですか?」
「うん、とっくに。あの子が珍しくデレまくっていたくらいですもの。よほど惚れているってわかったわ。まあ、マチルダ嬢に対するスタイラー侯爵家の後ろ盾なんて飛んで吹く程度のものだから、柵も少ない。そして、元々は跡取り様だったわけだし、お家柄や身分的にもそこまで悪いものではないと考えると妥当よね」
アリューゼは娘を振り返ってそう返した後、3人を振り返って楽しそうに笑った。
「いやあ、嬉しいわ。また、男漁りに来た、貴族の道楽程度にしか考えていない花嫁修業気取りの雌犬どもだったらどうしようかと思っちゃった」
カンナが顔をひきつらせた。
「雌犬って…」
「あら、ごめんなさい。つい、うっかりしてしまったわ。この前クビにした奴らの顔を思い出して我を忘れてしまったわね」
アリシアの手を離すと、女王はにこりと笑った。
「お仕事に慣れてきたころに3人に割り当てを発表するわね。みんな違う部署に配属されることになるでしょうけれど、まあ、これからも同期を大切に頑張ってね」
そう言い残し、老騎士を従えて楽しそうにスキップしながら去っていった。
呆けたように3人がそれを見送っていると、マリアンヌは苦笑した。
「ゴタゴタに巻き込んでしまって悪かったわね。お仕事に戻っていいわよ。――それと、配属の話は気にしすぎないようにね。3人ともきちんと仕事をしてくれているし、特にアリシア…さん、にはそれ以上の仕事までお願いして申し訳ないわ」
「そ、そんな! 気にしないでください。私の得意分野ですし!」
「そう言ってもらえるとありがたいですわ」
にこりと笑ったマリアンヌはハインツを振り返った。
「非番なのに悪いわね、ハインツ」
「いや、その、例の王子には手を焼いているんで…」
気まずそうに視線を背けたハインツに、マリアンヌは優しく微笑む。
「お互い様よ」
レーゲンがそそっとアリシアたちの方に来ると、そっと囁いた。
「お邪魔するといかん。持ち場に戻った方がいいってな」
ギュスターヴやネイラたちもそっとマリアンヌを守れて、且つ声があまり届かないところに離れていく。
「え、ちょっと!? あなたたちは何で離れているの!?」
マリアンヌの戸惑ったような声が廊下に響き渡った。
アリシアたちは持ち場に向かおうと踵を返した直後、ルピルが楽しそうにアリシアについて来ようとしてレーゲンにつかまった。
「お前は厩だろぅ?」
「そんなぁ」
「ワシに力で勝てるとでも?」
「滅相もございません。俺様、いや、私も星獣の端くれ。すべて仰せのままに」
「おぅ、素直で聞き分けがいいのぅ」
「姐さーん…」
シクシクと泣きながら引きずられるように退場したルピルを見送ったアリシアはノリアとカンナと顔を見合わせてクスッと笑った。
「そういえば、なんであの子はアリシアのこと、姐さんって呼ぶの?」
ノリアの問いかけに、カンナも不思議そうに尋ねた。
「そういえばそうだね。アリシアの場合、おっとり天然ちゃんって感じなのに」
「え、私ってそんな風に見られていたんですか!? 違いますよ、もうっ! そこまで天然じゃありません!」
カンナとノリアの二人はキョトンとしてお互いに顔を見合わせ、クスッと笑う。
「いやいや、ありえない」
「どこが天然じゃないの?」
アリシアは拗ねたように口を尖らせた。
「絶対、そんなんじゃないですって。ルピルとの出会いを聞けば、きっとイメージ、変わりますよ?」
ノリアが満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、期待してる!」
「むうぅ…」
アリシアたちは書斎に足を踏み入れると、掃除を始めた。
掃除をしながらアリシアが話し始める。
「私がルピルに出会ったのは聖女の試練の時でした…」
「母さま、お仕事があるのですから手短にお願いしますよ。それより、兄さまの件は終わったのですか?」
「うん、とっくに。あの子が珍しくデレまくっていたくらいですもの。よほど惚れているってわかったわ。まあ、マチルダ嬢に対するスタイラー侯爵家の後ろ盾なんて飛んで吹く程度のものだから、柵も少ない。そして、元々は跡取り様だったわけだし、お家柄や身分的にもそこまで悪いものではないと考えると妥当よね」
アリューゼは娘を振り返ってそう返した後、3人を振り返って楽しそうに笑った。
「いやあ、嬉しいわ。また、男漁りに来た、貴族の道楽程度にしか考えていない花嫁修業気取りの雌犬どもだったらどうしようかと思っちゃった」
カンナが顔をひきつらせた。
「雌犬って…」
「あら、ごめんなさい。つい、うっかりしてしまったわ。この前クビにした奴らの顔を思い出して我を忘れてしまったわね」
アリシアの手を離すと、女王はにこりと笑った。
「お仕事に慣れてきたころに3人に割り当てを発表するわね。みんな違う部署に配属されることになるでしょうけれど、まあ、これからも同期を大切に頑張ってね」
そう言い残し、老騎士を従えて楽しそうにスキップしながら去っていった。
呆けたように3人がそれを見送っていると、マリアンヌは苦笑した。
「ゴタゴタに巻き込んでしまって悪かったわね。お仕事に戻っていいわよ。――それと、配属の話は気にしすぎないようにね。3人ともきちんと仕事をしてくれているし、特にアリシア…さん、にはそれ以上の仕事までお願いして申し訳ないわ」
「そ、そんな! 気にしないでください。私の得意分野ですし!」
「そう言ってもらえるとありがたいですわ」
にこりと笑ったマリアンヌはハインツを振り返った。
「非番なのに悪いわね、ハインツ」
「いや、その、例の王子には手を焼いているんで…」
気まずそうに視線を背けたハインツに、マリアンヌは優しく微笑む。
「お互い様よ」
レーゲンがそそっとアリシアたちの方に来ると、そっと囁いた。
「お邪魔するといかん。持ち場に戻った方がいいってな」
ギュスターヴやネイラたちもそっとマリアンヌを守れて、且つ声があまり届かないところに離れていく。
「え、ちょっと!? あなたたちは何で離れているの!?」
マリアンヌの戸惑ったような声が廊下に響き渡った。
アリシアたちは持ち場に向かおうと踵を返した直後、ルピルが楽しそうにアリシアについて来ようとしてレーゲンにつかまった。
「お前は厩だろぅ?」
「そんなぁ」
「ワシに力で勝てるとでも?」
「滅相もございません。俺様、いや、私も星獣の端くれ。すべて仰せのままに」
「おぅ、素直で聞き分けがいいのぅ」
「姐さーん…」
シクシクと泣きながら引きずられるように退場したルピルを見送ったアリシアはノリアとカンナと顔を見合わせてクスッと笑った。
「そういえば、なんであの子はアリシアのこと、姐さんって呼ぶの?」
ノリアの問いかけに、カンナも不思議そうに尋ねた。
「そういえばそうだね。アリシアの場合、おっとり天然ちゃんって感じなのに」
「え、私ってそんな風に見られていたんですか!? 違いますよ、もうっ! そこまで天然じゃありません!」
カンナとノリアの二人はキョトンとしてお互いに顔を見合わせ、クスッと笑う。
「いやいや、ありえない」
「どこが天然じゃないの?」
アリシアは拗ねたように口を尖らせた。
「絶対、そんなんじゃないですって。ルピルとの出会いを聞けば、きっとイメージ、変わりますよ?」
ノリアが満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、期待してる!」
「むうぅ…」
アリシアたちは書斎に足を踏み入れると、掃除を始めた。
掃除をしながらアリシアが話し始める。
「私がルピルに出会ったのは聖女の試練の時でした…」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~
朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。
婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」
静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。
夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。
「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」
彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。
寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~
紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。
「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。
だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。
誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。
愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる