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二人の王子㉑

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「むう……これは無理じゃな」

「えっ! 無理?!」

 そんな……どうしようと呆然とする。

 ハルマ王子に約束したのに……。

 約束を思い出した日の週末、俺は祖父ちゃんの家を訪ね、春馬桜の枝を1本もらった。

 それで、祖父ちゃんに頼んで奉納してもらったんだけど。

「なんかさぁ、ないの?
 他に方法とか。
 特別なこととか」

 祭壇の前にお供えしてるだけだもんな。

 他に特別な儀式とあったりしないのかな?

 そう思って尋ねると、とくには無いとの返事がかえってきた。

 だけど、「つながり」がある時は、お供えした直後、急に消えて無くなってるらしい。

 ナニソレ異世界規格だよな。

 そんなことがあれば、祖父ちゃんが熱心に白神様を拝む気持ちも分かるよ。

 うんうん。

「もしかしたら、何か条件があるのかもしれん。
 その、ハルマ王子とやらは、何と言ったんじゃ?
 稔」

「えっと、確か春馬桜を送ってって、そう言ってたんだけど」

 記憶を絞って考えるけど、どう考えたってそれ以上思い出せない。

「……花……?」

「えっ?」

「桜は昔から漢方に使われる、薬効のある植物じゃが」

「うん?」

「桜の皮と桜の花ではその効果が違うんじゃ」

「へぇ~!!!
 知らなかった」

「うむ。
 もし、その王子が言う桜が、皮ではなく花だとしたら……」

 いやいやいやいや~!!

 だからクリスマス前なんだってば!!!!

 桜の花なんて今咲いてないよ。

 そしたら祖父ちゃんはう~んと唸った後、立ち上がった。

「……塩漬けの花があるから、念のために備えてみるか」

「よ、よろしく!!」

 一縷の望みを託して頷いたけど、結果は残念、だった。




「やっぱり、花が咲いてないとダメなのかなぁ」

 その日の夜遅く。

 自宅に戻ってきた俺がふーっとため息を着いていると。
 
「ミノル……。
 きっと、大丈夫だ。
 そんなにため息つくと、シアワセが逃げるって母上が言ってたぞ?」

 布団の上で体育座りして落ち込んで俯く俺を慰めるように、カルが顔を覗き込んだ。

 カルは、まだ7歳だってのにここに来てから、一度も泣き言を言わなかった。

 ケモミミ、ケモシッポが邪魔して自由には出歩けないし、日中出かけてる間、カルは一人で留守番。

 きっと、すごく寂しいはずなのにな。
 
「……う~ん、なぁ、カル。
 そうかもだけどさ、何か方法ないかと思ってさ」

 俺は、体はでかいがまだ子供のカルを甘やかすように懐に抱き込んだ。

 髪を手で梳いてやると、気持ちいいのかゴロゴロと喉を鳴らしてうっとりと目を細める。

 それに、カルも帰さないとだよ。

 ここじゃまともに生活できないし。

 でも……どうやったら返せるのか全く分からないよ。

 白い神様、何考えてるのかなぁ。

 なんか、ヒント欲しいな。

 そんなことを考えながらカルのふんわりとした柔らかい毛質を両手でもてあそんでいると、カルはいつの間にか獣化して(寝巻代わりに着せていたスエットがパンパンだ)顔を寄せて俺の顔を舐めた。

 ざらりとした舌の感覚に、思わずうひょ! と肩をすくめるけど、カルはそんなことお構いなしに、俺の首の後ろや耳、顎から口元にかけてグルーミングするように舐めてくる。

「カル! スト……!!!」

 くすぐったくて、やめさせようと口を開けたところを、カルに口の中まで舐められた。

 単なる親愛行動ってのは分かってるんだけど。

 じゅっと音を立てて唾液をすすり上げらて、羞恥心が湧いてしまう。

 しかも大きな獣体で体重を掛けられると、重さに耐えきれすに俺の方が倒れちまうから、なんか押し倒されてるみたいなんだよな。

 男としてはすごく複雑だ。

 カルの気が済むまで口の中を蹂躙された俺は、若干息を切らしながら「カル、もう、眠るぞ」と声を掛けた。

 くそっ、カルは全然息切れしてねぇ!

 カルは「分かった!」と素直にうなずき、俺の腰のあたりをがっちりと両手で抱きかかえ、俺ともども布団に横たわった。

「………なぁ、カルくんよ」

「何、ミノル?」

「そろそろ一人で寝てみないか?」

「ヤダ」

「……狭いだろ?」

「狭くない」

「寒かったり……」

「ミノルが温かいから寒くない」

「でも………」

「……一緒に眠るって、ヤクソクした!」

 声を荒げるカルに、俺は思わずぐっと声を詰まらせた。

 そう。

 我が家で一緒に住むようになったころ、カルは「番は一緒に寝なきゃだ!」って当初は無理やり俺のベッドにもぐりこもうとした。でも俺の使ってるベッドは普通のシングルベットだし、あれこれ理由を付けてカルにはベッドで、俺は布団で眠るようにしていたんだ。


 だけど事件もかたがついて、しばらく休んでいた学校に再び通いはじめるようになった時、一緒に着いて来ると言って聞かなかったカルを説得するために、3つ、カルと約束をした。

 その約束の一つがこれ。

 一緒の寝具で眠るってこと。

「したけどさ……」

 俺は力なく答える。

 こんなに密着して眠るなんて、思ワナカッタナー!!

 どんなに深く眠っててもがっちりと組まれた手は、カルの目が覚めるまで解けることはない。

 ほんと、男としては、複雑。
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