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郵便馬車で王都までGO!!
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早朝、俺のためにギオージュは早起きして最寄りの街、バニスまで馬車で送ってくれた。
メールアスさんにお礼と別れを告げ、馬車に乗り込む。
「ショージ、王都に早く着きたいなら郵便馬車はどうだ?」
「郵便馬車……?」
なんだそれは??
俺は聞きなれない単語に首を傾げた。
「知らないか?
郵便物を運ぶ馬車だが、少人数なら人も乗せる。
乗り心地は悪いし普通の貨物の馬車よりも少し割高だが、他の馬車より格段に早いぞ」
「そうなんですか……」
しかし路銀がなぁ。
やっぱ、指輪かなぁ……。
そもそも、買ってくれるとこあるんだろうか。
そんなことも分からない。
まあ、俺も大概出たとこ勝負だな。
とりあえず指輪を売るのは最終手段として、行く先々で金を稼いで行くしかないだろう。
しかしギオージュは、「……金のことは心配しなくても、郵便馬車の御者は友人なんだ。頼んでみる」と、いろいろと面倒を見てくれた。
「ショージ。
こいつがコモンだ。
すごくいい奴だから、コモンに任せてくれたらいい」
ギオージュの紹介してくれた郵便馬車の御者のコモンはギオージュと同じ兎の獣人だが、彼は小柄で柔和な顔立ちで、ふわぁこれこそ兎の獣人だよぉぉぉ!!! とテンションが上がるくらいには可愛いかった。
俺はギオージュのしてくれたことを無下にできず、素直に甘えさせていただくことにした。
うう!!
人の優しさが身に染みる……。
「コモンさん、よろしくお願いします」
ギオージュとコモン二人に向かって深く頭を下げた。
最初こそ非獣人を差別する下種野郎かと思ってしまったが、今になって思えば、ギオージュは心配していただけ……親に近づく不信人物として警戒していただけだったんだと分かる。
すごくいい奴だったな……。
ギオージュにもいつかちゃんとお礼をしなければ……。
そう思いながら早速馬車に乗り込もうとしたところを、ギオージュに腕を掴まれた。
「ショージ、これを持っていけ」
ギオージュは俺の手に小さい袋をのせた。
異世界人である俺だって、その感触と重みで袋の中身がお金だとわかった。
「!!
ギオージュ、これは!!!
ダメだよ、そんな事まで甘えられない」
俺が袋を押し戻そうとするのを、「路銀は必要だ」と言って、ギオージュはどうしても受け取らなかった。
どうやら俺が金がないことを察してくれたらしい。
郵便馬車の出立の時間が迫る中、結局俺が折れるしかなかった。
「ギオージュ、ありがとう。
……これは借りることにする。
必ず自分で返しに来るから」
俺がそう言うと、ギオージュは俺が金を受け取ることに安堵し笑みを浮かべた。
「返さなくてもいい、ただ……礼はもらっておく」
礼??
俺が一瞬何のことだと考え込んだ瞬間、俺の体はギオージュの方にに引き寄せられ、唇に熱烈な口づけを落とされた。
「…ん、ん、ん!!」
舌を絡められてしまった……!!!
しかも……結構気持ちイイ……。
うう、浮気じゃねー!!!
浮気じゃねーけど!!!
「じゃあな、ショージ」
ギオージュは再び俺の体を馬車の中に押し込み、ドアを閉めた。
「ギオージュ!!!」
馬車は走り出した。
俺は、窓から乗り出して、ギオージュを見た。
「謝らない!
謝らないから!!!」
次第に遠ざかるギオージュは俺に向かって叫んでいた。
………あ、あっぶね!!!!!
ゲルマたんいなかったから、ギオージュにマジ惚れしてたかも!!!
なんだ、あのいきなりの破壊力!!!!
もし最初に異世界に来た頃にギオージュが出稼ぎに行ってなくてメールアスさんの家に住んでいたら、俺が嫁いだのはゲルマじゃなくてギオージュだったのかもな……。
そういう意味では、運命って不思議。
……うううう!!!!
クソッ!
無性にゲルマに会いたい……。
今すぐ会いたいよ!!
なんでゲルマはここにいないんだよ!!
「ゲルマぁ」
俺は激しく揺れる郵便馬車の中で、小さく呟いた。
次の街パシュラ、ゲルタークを抜け、俺はすでに3番目の街セレンズに到着した。
バニスからここまで2日間。
以前はここセレンズに到着するまで2週間ぐらい費やしている。
本当に早い。
この分なら、王都まで1か月かからないかも。
問題は……俺のケツが保つかだが……。
ギオージュが乗り心地について言葉を濁したわけである。
早さ重視のこの旅は、定員オーバーでしょ? 絶対!! という狭いすし詰め状態の座席と、舗装されていない道をサスペンションなしの馬車が大きく車体を揺らしながら駆け抜けるという、荒行としか言いようのない状況を作り出している。
しかも前の町から一緒に乗り合わせた客の中に、俺のことをじろじろと値踏みするように見る荒くれ者の熊の獣人もいて、体が大きくて圧迫感はあるわで、とても居心地がいいとは言えなかった。
まぁ、貧乏人の俺には文句は言えない……何とか頑張らねば。
幸い熊の獣人は一町だけの乗車だったようで、雑踏の中に消えてた背中を見送りながら、俺は安堵のため息をついた。
危険な者には遭遇していないけど、盗賊や強盗も横行しているこの世界だ。
気を抜いたらすぐ被害者になってしまうので、小銭だけポケットに入れて指輪や財布も念のため首から紐を下げて服の下に隠している。
腹減ったな……。
コモンの様子を見ると、郵便物の荷卸しと馬の食事や世話の作業中で、忙しく働いていた。
コモンは本当に働き者だなぁ。
馬の休憩も兼ねて、この町では1時間ほど停車するそうなので、俺は少し腹を満たしておこうと、痛む尻を擦りながら、コモンに声を掛けて近くの屋台に食事をしに入った。
タコスみたいな料理を見つけ、俺は一つ購入する。
うん、これはこれでイケる。
薄く焼いた生地で巻いてることろは一緒だけど、中身はブロック状に切った照り焼きチキンとゆでた根菜混ぜたような感じ。
一個で十分なボリュームに舌鼓を打ちながら、俺は郵便馬車へと向かい、歩き出した。
「おいっ」
人ごみの中で急に腕を引かれ、俺は何が起こったのか分からなかった。
声を上げようとするのを、男のごつごつとした大きな手が覆う。
あの熊の獣人だと気付いた時には、俺は人影のない暗い路地に引き込まれていた。
ヤバイ!!!
こういう時は抵抗するとかえって危ないことは分かっていたのに、俺は服の中をまさぐられて、思わず全力でもがいた。
強い衝撃と、ばしっと、弾くような音。
俺は顔を熊の獣人の大きい手で平手打ちされ、体ごと路地の壁に打ち付けられた。
衝撃で呼吸ができなくなり、息苦しさと同時に意識がもうろうとしていく。
熊の獣人の手が、再び俺の服の中で何かを探す様にまさぐられ、そして目的のもの……ギオージュから借りたわずかな路銀の入った袋と、ゲルマの指輪を見つけると、掛けてある紐を俺の首から引きちぎった。
結婚指輪……ゲルマが買ってくれた。
今の俺の唯一の拠り所。
それを、奪わないでくれ……。
俺は必死に彼の手へと握られたモノを取り返したくて手を伸ばした。
「ショージ!!
大丈夫か!!」
コモンの大きな声で、俺は目を覚ました。
体が痛い。
喋ろうとするのに、うまくいかなかった。
「とにかく、馬車までなんとか連れて行くから」
コモンは小さい身体で俺を担ぎ上げた。
小柄でもさすが獣人で、少しコモンより背が高い俺の体をこともなげに背に担いだ。
「この町はあまり治安が良くないんだ……もっとちゃんと言うべきだった。
済まないショージ!!」
そんなことない……仕事があるのに、俺を探しに来てくれたじゃないか。
喋ろうとするんだが、どうも舌が傷ついて腫れているようだ。
俺の口からはくぐもったうめき声が漏れるばかりだった。
「ここは、危ない。
次の町へ行く途中に知り合いの家があるから、そこまで辛抱してくれ」
コモンはぐったりとする俺を担いだまま歩いて馬車まで戻った。
「……本当に済まないショージ!
……ギオージュに頼まれてたのに……!!」
コモンは濡れたタオルを頬に当ててくれた。
泣きそうな顔。
ごめん、謝るのは俺の方だ。
世話かけて、ごめん。
メールアスさんにお礼と別れを告げ、馬車に乗り込む。
「ショージ、王都に早く着きたいなら郵便馬車はどうだ?」
「郵便馬車……?」
なんだそれは??
俺は聞きなれない単語に首を傾げた。
「知らないか?
郵便物を運ぶ馬車だが、少人数なら人も乗せる。
乗り心地は悪いし普通の貨物の馬車よりも少し割高だが、他の馬車より格段に早いぞ」
「そうなんですか……」
しかし路銀がなぁ。
やっぱ、指輪かなぁ……。
そもそも、買ってくれるとこあるんだろうか。
そんなことも分からない。
まあ、俺も大概出たとこ勝負だな。
とりあえず指輪を売るのは最終手段として、行く先々で金を稼いで行くしかないだろう。
しかしギオージュは、「……金のことは心配しなくても、郵便馬車の御者は友人なんだ。頼んでみる」と、いろいろと面倒を見てくれた。
「ショージ。
こいつがコモンだ。
すごくいい奴だから、コモンに任せてくれたらいい」
ギオージュの紹介してくれた郵便馬車の御者のコモンはギオージュと同じ兎の獣人だが、彼は小柄で柔和な顔立ちで、ふわぁこれこそ兎の獣人だよぉぉぉ!!! とテンションが上がるくらいには可愛いかった。
俺はギオージュのしてくれたことを無下にできず、素直に甘えさせていただくことにした。
うう!!
人の優しさが身に染みる……。
「コモンさん、よろしくお願いします」
ギオージュとコモン二人に向かって深く頭を下げた。
最初こそ非獣人を差別する下種野郎かと思ってしまったが、今になって思えば、ギオージュは心配していただけ……親に近づく不信人物として警戒していただけだったんだと分かる。
すごくいい奴だったな……。
ギオージュにもいつかちゃんとお礼をしなければ……。
そう思いながら早速馬車に乗り込もうとしたところを、ギオージュに腕を掴まれた。
「ショージ、これを持っていけ」
ギオージュは俺の手に小さい袋をのせた。
異世界人である俺だって、その感触と重みで袋の中身がお金だとわかった。
「!!
ギオージュ、これは!!!
ダメだよ、そんな事まで甘えられない」
俺が袋を押し戻そうとするのを、「路銀は必要だ」と言って、ギオージュはどうしても受け取らなかった。
どうやら俺が金がないことを察してくれたらしい。
郵便馬車の出立の時間が迫る中、結局俺が折れるしかなかった。
「ギオージュ、ありがとう。
……これは借りることにする。
必ず自分で返しに来るから」
俺がそう言うと、ギオージュは俺が金を受け取ることに安堵し笑みを浮かべた。
「返さなくてもいい、ただ……礼はもらっておく」
礼??
俺が一瞬何のことだと考え込んだ瞬間、俺の体はギオージュの方にに引き寄せられ、唇に熱烈な口づけを落とされた。
「…ん、ん、ん!!」
舌を絡められてしまった……!!!
しかも……結構気持ちイイ……。
うう、浮気じゃねー!!!
浮気じゃねーけど!!!
「じゃあな、ショージ」
ギオージュは再び俺の体を馬車の中に押し込み、ドアを閉めた。
「ギオージュ!!!」
馬車は走り出した。
俺は、窓から乗り出して、ギオージュを見た。
「謝らない!
謝らないから!!!」
次第に遠ざかるギオージュは俺に向かって叫んでいた。
………あ、あっぶね!!!!!
ゲルマたんいなかったから、ギオージュにマジ惚れしてたかも!!!
なんだ、あのいきなりの破壊力!!!!
もし最初に異世界に来た頃にギオージュが出稼ぎに行ってなくてメールアスさんの家に住んでいたら、俺が嫁いだのはゲルマじゃなくてギオージュだったのかもな……。
そういう意味では、運命って不思議。
……うううう!!!!
クソッ!
無性にゲルマに会いたい……。
今すぐ会いたいよ!!
なんでゲルマはここにいないんだよ!!
「ゲルマぁ」
俺は激しく揺れる郵便馬車の中で、小さく呟いた。
次の街パシュラ、ゲルタークを抜け、俺はすでに3番目の街セレンズに到着した。
バニスからここまで2日間。
以前はここセレンズに到着するまで2週間ぐらい費やしている。
本当に早い。
この分なら、王都まで1か月かからないかも。
問題は……俺のケツが保つかだが……。
ギオージュが乗り心地について言葉を濁したわけである。
早さ重視のこの旅は、定員オーバーでしょ? 絶対!! という狭いすし詰め状態の座席と、舗装されていない道をサスペンションなしの馬車が大きく車体を揺らしながら駆け抜けるという、荒行としか言いようのない状況を作り出している。
しかも前の町から一緒に乗り合わせた客の中に、俺のことをじろじろと値踏みするように見る荒くれ者の熊の獣人もいて、体が大きくて圧迫感はあるわで、とても居心地がいいとは言えなかった。
まぁ、貧乏人の俺には文句は言えない……何とか頑張らねば。
幸い熊の獣人は一町だけの乗車だったようで、雑踏の中に消えてた背中を見送りながら、俺は安堵のため息をついた。
危険な者には遭遇していないけど、盗賊や強盗も横行しているこの世界だ。
気を抜いたらすぐ被害者になってしまうので、小銭だけポケットに入れて指輪や財布も念のため首から紐を下げて服の下に隠している。
腹減ったな……。
コモンの様子を見ると、郵便物の荷卸しと馬の食事や世話の作業中で、忙しく働いていた。
コモンは本当に働き者だなぁ。
馬の休憩も兼ねて、この町では1時間ほど停車するそうなので、俺は少し腹を満たしておこうと、痛む尻を擦りながら、コモンに声を掛けて近くの屋台に食事をしに入った。
タコスみたいな料理を見つけ、俺は一つ購入する。
うん、これはこれでイケる。
薄く焼いた生地で巻いてることろは一緒だけど、中身はブロック状に切った照り焼きチキンとゆでた根菜混ぜたような感じ。
一個で十分なボリュームに舌鼓を打ちながら、俺は郵便馬車へと向かい、歩き出した。
「おいっ」
人ごみの中で急に腕を引かれ、俺は何が起こったのか分からなかった。
声を上げようとするのを、男のごつごつとした大きな手が覆う。
あの熊の獣人だと気付いた時には、俺は人影のない暗い路地に引き込まれていた。
ヤバイ!!!
こういう時は抵抗するとかえって危ないことは分かっていたのに、俺は服の中をまさぐられて、思わず全力でもがいた。
強い衝撃と、ばしっと、弾くような音。
俺は顔を熊の獣人の大きい手で平手打ちされ、体ごと路地の壁に打ち付けられた。
衝撃で呼吸ができなくなり、息苦しさと同時に意識がもうろうとしていく。
熊の獣人の手が、再び俺の服の中で何かを探す様にまさぐられ、そして目的のもの……ギオージュから借りたわずかな路銀の入った袋と、ゲルマの指輪を見つけると、掛けてある紐を俺の首から引きちぎった。
結婚指輪……ゲルマが買ってくれた。
今の俺の唯一の拠り所。
それを、奪わないでくれ……。
俺は必死に彼の手へと握られたモノを取り返したくて手を伸ばした。
「ショージ!!
大丈夫か!!」
コモンの大きな声で、俺は目を覚ました。
体が痛い。
喋ろうとするのに、うまくいかなかった。
「とにかく、馬車までなんとか連れて行くから」
コモンは小さい身体で俺を担ぎ上げた。
小柄でもさすが獣人で、少しコモンより背が高い俺の体をこともなげに背に担いだ。
「この町はあまり治安が良くないんだ……もっとちゃんと言うべきだった。
済まないショージ!!」
そんなことない……仕事があるのに、俺を探しに来てくれたじゃないか。
喋ろうとするんだが、どうも舌が傷ついて腫れているようだ。
俺の口からはくぐもったうめき声が漏れるばかりだった。
「ここは、危ない。
次の町へ行く途中に知り合いの家があるから、そこまで辛抱してくれ」
コモンはぐったりとする俺を担いだまま歩いて馬車まで戻った。
「……本当に済まないショージ!
……ギオージュに頼まれてたのに……!!」
コモンは濡れたタオルを頬に当ててくれた。
泣きそうな顔。
ごめん、謝るのは俺の方だ。
世話かけて、ごめん。
応援ありがとうございます!
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