あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

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1章

13話 佐藤先生がどんなに口説いて来たって塩対応よ!

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「あれ? 中山先生、今朝は早いね。……ん? 何だかやつれてない?」
 月曜日の早朝、学校の更衣室に入ると今井先生が壁際のベンチに座って本を読んでいた。
 私がやつれて見えるのはきっと土曜日から泣き過ぎたのと、夕べ眠れなかったせいだろう。
 だらだら布団にいても仕方がないと思って、今朝は早めに出勤した。
 今井先生は満員電車を避ける為にいつも学校に一番乗りだ。
 私はロッカーに荷物を入れると首からネームホルダーを下げて、今井先生の隣に座った。
 今日の今井先生は私にはとてもまぶしく輝いて見える。
「……今井先生はツヤツヤしていますね。幸せオーラ全開じゃないですか? 週末はカレシさんと過ごしたんですか?」
「えへへ、分かる? あの後、彼に温泉に連れて行って貰ったんだ~、お土産買ってきたから後で渡すね」
 温泉だって? カレシさんめ、けしからん! しっかり休日を満喫しちゃって。……こっちはあれから色々あったんだぞ!
「私も、カステラとかよりよりとか沢山持ってきたので……。」
 私はよりよりの外袋をあけると綺麗にねじられたお菓子を一つ今井先生に手渡した。
 愛美さんが持ってきてくれたお菓子が多すぎて私とトシヤさんだけではとても食べきれない。トシヤさんは『平日は自炊しないから』と野菜は持って帰らなかったので、私は今夜から料理しまくる予定だ。
「ありがとう。中山先生、長崎に行ったの?」
 今井先生はよりよりをかじりながら聞いた。私も個包装を破って一つ頬張る。硬い……。でも、噛んでいるうちに優しい味が口の中に広がって美味しかった。
「いえ……これには、深ーいワケがあるんです。あの夜、今井先生と別れてから行ったタイ料理店のトムヤムクンのジャガイモが実は生姜で大好きな生姜焼きが食べられない身になったり、とってもかわいい蓮君とちいちゃんという親子と運命の出会いと別れを経験したりですね……。それから嬉しいことにトシヤさんは長い間かけられていた呪いが解けたんです。そして……私は自分の過ちに気が付いてとても反省しました……」
「……なんだか全然分からない。……けど、ホントにいろいろあったのね。……中山先生はすごく頑張ったのかな?」
「はい……」
「じゃあ、偉かったね」
「はい……ありがとうございます」
 私はこの時きっと思いつめた顔をしていたんだろうと思う。
 こんなに、しっちゃかめっちゃかな話を今井先生は笑わずに聞いてくれた。
 なんだか沢山の事が私の身に起こり過ぎて私は混乱していたみたいだ。
 心をどこに持っていけばいいのか分からない。
 こんなことでは子供たちの前に立てない。
「中山先生、まだ時間はたっぷりあるから、話したいことから話していいよ。ゆっくり聞いてあげる」
 今井先生はそういってほほ笑んでくれた。こうやって何度相談に乗って貰って励ましてもらったことか。
 トシヤさんと愛美さんの関係とかいくつか話せない事もあったけど、私はゆっくり頭の中を整理しながら今井先生に話した。そうすることで私の感情も整理されて次第に心が落ち着いていくのを感じた。
「中山先生には怒涛どとうの休日だったのね……それにしても良かったね、あの日、中山先生と佐藤先生が一緒に食事に行ったから蓮君と千尋さんに会えたわけでしょ?」
「そうですね……それは本当に幸運でした」
 そうだ、本当にラッキーだった。
 あの日、あの場所にいたことでちいちゃんと蓮君を助けることが出来た。
 でも、私は戸惑っている。
 トシヤさんとあの日飲みに行ったことがきっかけで、私は深みにはまってしまった。
 気が付きたくなかった感情に気づいてしまった。
 私は……トシヤさんが好きなことに気が付いてしまった。
「どうしよう、今井先生。……私、トシヤさんが好きなんです」
「うん、話を聞いた限りでは佐藤先生も中山先生の事が好きなように感じるけど……?」
「……でも、付き合うのは怖い……」
 臆病な私は、また、ダメになるのが怖い。
 傷つくのも傷つけるのも嫌だ。
「そうだね、中山先生がまだ一歩を踏み出すのが怖いのなら、しばらくはこのままの状態でもいいんじゃない?……お付き合いするかどうかは中山先生の気持ちが落ち着いてから考えてみたら?」
「でも……それまでトシヤさんは待ってくれるでしょうか?」
 トシヤさんは昨日、もう私しか口説かないって言ってくれたけど……。
「大丈夫よ! 佐藤先生はしつこいことにかけては誰にも負けないから」
 今井先生はニコッと笑った……。
「先生、それ、褒めてませんよね」
「うふふ……」
 やっぱり褒めてない。
「私はどうしたらいいと思います?」
 私の問いに先生は胸をはって答える。
「それはもちろん、気持ちが固まるまでは佐藤先生がどんなに口説いて来たって塩対応よ!」
 サトウ先生にシオ対応って?……今井先生、そんなかわいい顔して。
「ダジャレですか?」
「違うわよ! 私『イケメンに迫られたときの対処法』は結構マスターしているつもりよ。私に任せなさい!」
 今井先生は握った手で軽く胸を叩いた。そんな仕草もかわいいなぁ。それに。
「たしかにあんな超絶イケメンと付き合っている今井先生なら頼りになるかも?」
「そうでしょ? 普段から鍛えられてるんだから、完璧なはずよ。私に任せて!」
 今井先生は腰に手を当てておどけて見せる。私はぴょこっと頭を下げた。
「はい、オネガイシマス! ところで、先生。あんなイケメンとどこで知り合ったんですか?」
 先生のカレシさんは、そうお目にかかれない超絶イケメンだ。競争率が半端なさそう……。
「あー、それが……実は、彼は……」
 今井先生はとても言いづらそうだ。聞いちゃいけなかったのかな?
「その、彼は……私の……いとこなの」
 いとこ? いとこ! ええええええ! いとこって……。
 私はびっくりして目を見開いてしまった。
 今井先生は困ったように苦笑している。
「今井先生! そんなマンガみたいな素敵な恋をしているなんて! やっぱり今井先生はかっこいいです!」
 ほわ~、すごくない? いとこだよ、幼馴染より萌えるシチュエーションだよ~!
 あまりの衝撃でなんだか私の悩みなんて吹き飛んでしまった。
 あんなにかっこいいイケメンがいとこならそりゃあ甘いマスクの佐藤先生にもなびかなかったはずよね。
「そう……? ありがとう」
 今井先生は、どこかホッとしているように感じた。
「あれ? 今井先生、うなじを虫にかまれてますよ」
 先生は長い髪を束ねていて、耳の後ろあたりが少し赤くなっているのが見えた。
「え? ホント?」
 今井先生は更衣室の鏡で確認しようとしているが自分では分からないらしい。
 あ、まさかアレ……?
 絶妙な位置じゃん! 私は気が付いてしまった。
 今井先生、先生のカレシさんは凄いです。絶妙な位置にキスマークを付けられてますよ!
 マーキングされてます。
 まるで、この人は自分のものだと言わんばかりのアピールぶりですよ。
「先生、今日は髪を下ろしていたほうがいいかも……?」
 その言葉で察したらしく先生は耳をおさえて真っ赤になった。
 カレシさんは今井先生に夢中なんですね。先生も大変ですね……。
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