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1章
14話 この時の私はイケメンの本気を甘く見ていた
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職員室に行くとトシヤさんがもう出勤していた。今井先生が声をかける。
「おはようございます、佐藤先生、今朝は早いですね」
ああ、トシヤさんだ……。
まだ誰もいないだろうと思っていたから驚いた。これまでだって職員室で一緒に働いていたのに今朝、ここで会うのが不思議な感じだ。
そ、そして、き、緊張してきた。私は今井先生の後ろで小さくなる。
「ええ、なんだか今朝は早く目が覚めたので……」
トシヤさんはいつも通りの柔和な雰囲気だ。そういうところも……素敵だ。
あれ? わたしすっかり恋する乙女じゃない?……恥ずかしい。
「中山先生に早く会いたかったんでしょ?」
って、今井先生! ちょっと何を?
「……その通りです」
トシヤさんまで? 血迷わないで!
なんなのだ! これから仕事だっていうのにわたしの心はかき乱されっぱなしだ。
トシヤさんは私への好意を隠すそぶりも見せない。じっと、愛しそうに私の事を見つめてくる。その視線が熱すぎて溶けてしまいそうだ……。
急に、トシヤさんは何も言わずにただ今井先生に頭を下げた。
愛美さんが私にしてくれたような潔く美しいお辞儀だった。
ああ、きっとこれがトシヤさんのけじめなんだ。
トシヤさんは残念なイケメンじゃなかった。
本当にかっこいい人だ。
「佐藤先生……中山先生を落とすのは難しいよ」
今井先生は笑顔でそんなことを言う。
「中山先生は本当にいい子なの、中途半端な気持ちで口説いたら私が許さないから」
トシヤさんはニッと笑い、
「ええ、分かっています。全力で口説きます」
と宣言した。
……私はまだ覚悟が決まっていない。なのに、こんなにかっこいい人にそんなことを言われて流されない自信はない。
……よーし、こうなったら戦いだ! こっちも全力で塩対応してやる!
この時の私はイケメンの本気を甘く見ていた。
……私の経験値で、到底かなう相手じゃないって!
今日は久しぶりに、お天気だ。いわゆる、梅雨の晴れ間。延期になっていた校区探検にやっと行ける。それに休み時間に外で思いっきり体を動かしてストレス解消だ!
よーし、仕事をがんばるぞー! なんだかやる気がみなぎってきた。
私はすっかり熱血教師気分だ。……子供たちにはウザッて言われるかも知れないけど気にしない。探検も昼休みも楽しんだもの勝ちなのだ。校区探検を無事に終え、昼休みには子供たちと久しぶりのドッジボールを満喫した。
「はぁー、どっと疲れた……」
放課後、私は職員室の机に突っ伏した。
正直、張り切り過ぎたー! 月曜日から全力投球してしまった! ペース配分を完全に間違えている。今日は早めにあがらしてもらおう。野菜を沢山貰ったから自炊しないといけないし……。もう、お弁当を買って帰りたい気分だけどね……。
そんな事を考えているとコーヒーのいい匂いがした。
「葵先生、お疲れ様、はいどうぞ」
トシヤさんがコーヒーを手渡してくれる。
「アリガトウゴザイマス」
「今日は随分張り切っていたみたいだね?」
「……ハイ」
私、明らかに動揺し過ぎじゃない? 声が上ずってる! 意識しているのモロバレじゃん! 今井先生、助けて~!
助けを求めて今井先生を見つめたけど、なんだか温かーい目で見守っているだけで全然力になってくれない。
ハッ、もしかして今井先生、実はトシヤさんの方を応援しているのでは? 私、気づくのが遅すぎた……。
それにしても……ダメだ―! 塩対応の上手な仕方が分からない。今井先生はどうしてたっけ? 確か……トシヤさんの誘いを『しません』『イヤです』『ムリ』とばっさりと断っていた気がする。
よーし、それでいってみよう!……って気持ちだけはあるのよ。
……でも、今日はもうムリ。私のHPはゼロです。
「帰ります、お先に失礼します……」
私は敵前逃亡した。職員室ではとても戦える気がしない。明日から戦います……。
学校の自転車置き場でロックを外していたらトシヤさんが走ってやって来た。
「葵先生! 一緒に帰ろう!」
満面の笑みがかわいい。子犬みたいだ。
でも、ほだされちゃダメ! ここは塩対応のチャンス!
「私は自転車なのでムリですよ」
「え~、僕が押してあげるから、一緒に歩こうよ」
「イヤデス」
打たれ強いトシヤさんは全然引き下がらない。
「ね、葵先生! ちいちゃんの話もしたいしさ」
なに? ちいちゃんの話……? トシヤさんは痛いところをついてくる。私はちいちゃんに弱いのだ。
「僕たちバタバタしていて、ちいちゃんとはアドレスの交換もしてなかったでしょ? ちいちゃん、僕のアドレスを愛美から教えて貰ったみたいで、さっきスマホを確認したらメールが来てた。しかも蓮君の写真付き!」
な、なんですとー! うらやましすぎる! 私もメル友になりたい! 蓮君の写真が欲しい!
「それで、よかったらメッセージアプリの方でちいちゃんとグループを作ったらどうかな? と思って」
「ホ、ホントですか? 是非! 是非私を招待してくださいっ!」
「じゃ、とりあえず歩きながら話そうか?」
「はいっ!」
トシヤさんはさっさと私の自転車を押して歩き出した。私は慌てて追いかける。
あ、あれ? いつの間にか一緒に帰ることになってない? 恐るべしイケメンの恋愛スキル。
か、勝てる気がしない……。
「おはようございます、佐藤先生、今朝は早いですね」
ああ、トシヤさんだ……。
まだ誰もいないだろうと思っていたから驚いた。これまでだって職員室で一緒に働いていたのに今朝、ここで会うのが不思議な感じだ。
そ、そして、き、緊張してきた。私は今井先生の後ろで小さくなる。
「ええ、なんだか今朝は早く目が覚めたので……」
トシヤさんはいつも通りの柔和な雰囲気だ。そういうところも……素敵だ。
あれ? わたしすっかり恋する乙女じゃない?……恥ずかしい。
「中山先生に早く会いたかったんでしょ?」
って、今井先生! ちょっと何を?
「……その通りです」
トシヤさんまで? 血迷わないで!
なんなのだ! これから仕事だっていうのにわたしの心はかき乱されっぱなしだ。
トシヤさんは私への好意を隠すそぶりも見せない。じっと、愛しそうに私の事を見つめてくる。その視線が熱すぎて溶けてしまいそうだ……。
急に、トシヤさんは何も言わずにただ今井先生に頭を下げた。
愛美さんが私にしてくれたような潔く美しいお辞儀だった。
ああ、きっとこれがトシヤさんのけじめなんだ。
トシヤさんは残念なイケメンじゃなかった。
本当にかっこいい人だ。
「佐藤先生……中山先生を落とすのは難しいよ」
今井先生は笑顔でそんなことを言う。
「中山先生は本当にいい子なの、中途半端な気持ちで口説いたら私が許さないから」
トシヤさんはニッと笑い、
「ええ、分かっています。全力で口説きます」
と宣言した。
……私はまだ覚悟が決まっていない。なのに、こんなにかっこいい人にそんなことを言われて流されない自信はない。
……よーし、こうなったら戦いだ! こっちも全力で塩対応してやる!
この時の私はイケメンの本気を甘く見ていた。
……私の経験値で、到底かなう相手じゃないって!
今日は久しぶりに、お天気だ。いわゆる、梅雨の晴れ間。延期になっていた校区探検にやっと行ける。それに休み時間に外で思いっきり体を動かしてストレス解消だ!
よーし、仕事をがんばるぞー! なんだかやる気がみなぎってきた。
私はすっかり熱血教師気分だ。……子供たちにはウザッて言われるかも知れないけど気にしない。探検も昼休みも楽しんだもの勝ちなのだ。校区探検を無事に終え、昼休みには子供たちと久しぶりのドッジボールを満喫した。
「はぁー、どっと疲れた……」
放課後、私は職員室の机に突っ伏した。
正直、張り切り過ぎたー! 月曜日から全力投球してしまった! ペース配分を完全に間違えている。今日は早めにあがらしてもらおう。野菜を沢山貰ったから自炊しないといけないし……。もう、お弁当を買って帰りたい気分だけどね……。
そんな事を考えているとコーヒーのいい匂いがした。
「葵先生、お疲れ様、はいどうぞ」
トシヤさんがコーヒーを手渡してくれる。
「アリガトウゴザイマス」
「今日は随分張り切っていたみたいだね?」
「……ハイ」
私、明らかに動揺し過ぎじゃない? 声が上ずってる! 意識しているのモロバレじゃん! 今井先生、助けて~!
助けを求めて今井先生を見つめたけど、なんだか温かーい目で見守っているだけで全然力になってくれない。
ハッ、もしかして今井先生、実はトシヤさんの方を応援しているのでは? 私、気づくのが遅すぎた……。
それにしても……ダメだ―! 塩対応の上手な仕方が分からない。今井先生はどうしてたっけ? 確か……トシヤさんの誘いを『しません』『イヤです』『ムリ』とばっさりと断っていた気がする。
よーし、それでいってみよう!……って気持ちだけはあるのよ。
……でも、今日はもうムリ。私のHPはゼロです。
「帰ります、お先に失礼します……」
私は敵前逃亡した。職員室ではとても戦える気がしない。明日から戦います……。
学校の自転車置き場でロックを外していたらトシヤさんが走ってやって来た。
「葵先生! 一緒に帰ろう!」
満面の笑みがかわいい。子犬みたいだ。
でも、ほだされちゃダメ! ここは塩対応のチャンス!
「私は自転車なのでムリですよ」
「え~、僕が押してあげるから、一緒に歩こうよ」
「イヤデス」
打たれ強いトシヤさんは全然引き下がらない。
「ね、葵先生! ちいちゃんの話もしたいしさ」
なに? ちいちゃんの話……? トシヤさんは痛いところをついてくる。私はちいちゃんに弱いのだ。
「僕たちバタバタしていて、ちいちゃんとはアドレスの交換もしてなかったでしょ? ちいちゃん、僕のアドレスを愛美から教えて貰ったみたいで、さっきスマホを確認したらメールが来てた。しかも蓮君の写真付き!」
な、なんですとー! うらやましすぎる! 私もメル友になりたい! 蓮君の写真が欲しい!
「それで、よかったらメッセージアプリの方でちいちゃんとグループを作ったらどうかな? と思って」
「ホ、ホントですか? 是非! 是非私を招待してくださいっ!」
「じゃ、とりあえず歩きながら話そうか?」
「はいっ!」
トシヤさんはさっさと私の自転車を押して歩き出した。私は慌てて追いかける。
あ、あれ? いつの間にか一緒に帰ることになってない? 恐るべしイケメンの恋愛スキル。
か、勝てる気がしない……。
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