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【愛を求める氷雪の華 〜ラァラはわたしのおともだち〜】
エイミィから→ラァラへ③
しおりを挟む「アナタが……あのこたちがいっていた『ぎんのつき』……なの?」
蒼い髪の全裸美幼女──エイミィはオレの手を両手で持って頬に添えたまま、確認する様ににぎにぎと揉んでそう問いかけて来た。
「『銀の月』……っていうのが何か分からないんだけど……エイミィはここで何をしているの?」
また怯えさせない様に目線を合わせる事を意識し、オレは質問に質問で返す。
だってエイミィの問いかけに対する答えを、オレは持っていなんだもん。
「わ、わからないの……いつもなら、ここはまっくらなばしょで……『あのこたち』とおしゃべりしかできないところなのに」
舌っ足らずな幼い声でエイミィは答えてくれた。
その間もオレの手を揉み続けている。どうやらこうしているだけで少しは安心してくれているみたいだから、オレとしては一向に構わないんだけど。ちょっと姿勢を保つのが難しくなって来た。
「『あの子たち』って、誰?」
「……わからないわ。『あのこたち』は、すがたをみせてくれないから……いつもこえしかきこえないの。それに、あんまりおしゃべりがじょうずじゃないみたいで」
うーん、困ったなぁ。具体的な事が一切分からないぞ?
「姫、この方が言う『あの子たち』とは──────おそらく『精霊』のことを指していると思われます」
「うひゃあっ!」
「ひっ」
び、びっくりしたぁ!
「突然すみません。たった今データの解析が完了いたしましたので、ご報告を」
お、音もなく背後に来るから飛び上がっちゃったじゃんか!
「あっ、ごめんねエイミィ。びっくりさせちゃったね?」
「だ、だいじょうぶ。だいじょうぶ」
またふるふると震え出したエイミィの肩に、掴まれていない方の左手を添えて引き寄せた。
エイミィは掴んでいるオレの右手を口元に寄せて、涙が出てくるのを必死で堪えている。
本当にこの娘、放っておけないぐらい弱々しいなぁ。
「ア、アナタは……だぁれ?」
「驚かせてしまい申し訳ございません。イドと申します。姫──────ラァラ・テトラ・テスタリアに使える従者の様な物、と認識して頂ければ充分です」
「お、おなじかおなのに?」
あ、そうだよね。
オレとイドは顔どころか姿形、髪の長さから胸の膨らみ加減まで全く一緒だもんね。
それで従者とか言われても、余計混乱するだけだよね。
「えっと、イドはオレの……なんていうか、双子のお姉ちゃん、みたいな物かなぁ」
「姫、イドと姫は決してその様な──────」
「良いの。イドの方がしっかりしてるし、オレもお姉ちゃんみたいだって思ってるんだから。他の人にオレ達の関係を説明しても、絶対に伝わらないと思うんだ?」
システム・イドの事とか、叡智の部屋の事とか、オレの転生の事とかさ。
オレとイドの関係性を語ろうとすると、他の細かい事まで説明しないといけなくなってくる。
当事者であるオレですら全てを理解している訳じゃないのに、そこら辺を誰かにわかりやすく説明できるとは思えない。
「お、おねえさま?」
「うん、イドはオレのお姉ちゃん」
「おねえさまが、『ぎんのつき』?」
不安を押し殺すためか、エイミィは口元に押し当てていたオレの右手の揉み揉みを早める。
「その『銀の月』なる言葉はイドのデータにはございませんのでなんとも言えませんが、おそらくは違います」
「ちがう……の?」
「もし差し支えなければ、『あの子たち』がその『銀の月』について何を述べていたかを教えて頂けませんか?」
「え、えっと」
イド、イドったら。
「なんでしょうか姫」
イドはオレの思考を読み取る事ができる。
だからエイミィに聞こえない様話す事もできるから、今の状況だと大助かりだ。
えっとね。
イドの口調が硬すぎてエイミィが萎縮しちゃってるっぽい。
もう少し優しくお話ししてあげて欲しいな?
「──────かしこまりました。善処致します」
「ど、どうしたの?」
突然独り言をしだしたイドに、エイミィは不思議そうな顔をする。
「いえ、何も──────なんでもないですよ? それで、『あの子たち』なる存在が──────その子たちが何を言っていたか、教えてください」
うーん、頑張ってるのはわかるんだけど、変化が無いなぁ。
なんでもできるイドの意外な弱点が発覚してしまった。
「あの、その、あのこたちが、きのういっていたの。『もうすこしで、ぎんのつきがエイミィをたすけにきてくれる。だからがんばって』って』
助けに……? 来てくれる?
何それ、まるでエイミィがどこかに閉じ込められて自分では抜け出せないみたいな言い方。
「『ぼくたちが、ぎんのつきとエイミィをむすぶ』って……いってたわ?」
むすぶ……結ぶ?
──────精神干渉?
「ありがとうございます。姫、やはり姫の精神に干渉しているのは『精霊』で間違いありません。数時間前に観測した精霊のデータと、今この空間に作用している魔力的力場のデータが98%一致しました」
「精霊って、昨日言ってた今オレにいっぱい付いてきてるって奴?」
確かオレの周りにいっぱい集まっていて、オレが移動すると一緒に付いて来てるんだよね?
「はい。これもまた驚くべき事なのですが、どうやら姫の周囲に大量の精霊が集まっていた原因は、姫の精神とエイミィ様の精神とを結ぶ『回廊』を生成するためだと推測できます。イドは魔力によってプログラミングされた人工の情報生命体です。精霊もその全てが魔力で構成される自然的な魔法生命体。生命体としての自由度は精霊が上回っています。また一個一個が固有の自我を持つ魔法生命体であれば、単体では演算不可能な情報処理であっても、群体となって同一の目的だけに的を絞って演算を行えば処理が可能となります」
「イド、ごめんなさい。難しいです」
ごめんねぇ。こんな頭の悪い姫で本当にごめんねぇ。いつも苦労をかけるねぇ。
「つまり精霊たちはその夥しい個体数を用いて姫の精神防壁を一つ一つ、多くの犠牲を払っては小さい穴を作り、穴を広げてはまたそこから大量に侵入させてを繰り返して姫の精神に干渉して回廊を形成したのです。精神の核へと到達した直後に全体を魔法式へと変換させて、エイミィ様の精神と接続・同調させてこの空間を組成したと推測できます」
イド。ねぇイド?
興奮してる? こんなにオレに配慮の無いイド初めてでちょっと怖いよ?
いや、これはもしかして……悔しがってる?
「極めて非効率なやり方です。システム・イドの制御する防御壁の難解なロジックを表面から体当たりでジワジワと解析して破るなど、どんなに優秀な魔術師であろうと不可能です。天文学的な数による極小の破壊──────システムに異常と認識させないほど小さなプログラムの穴を作るとは……してやられました。これはシステム・イドにおける盲点です。すぐにでも是正しなければならない直近の課題です」
あ、結構プライドを刺激されてたのね?
イド、負けず嫌いだもんね?
「えっと、じゃあその精霊さんたち曰く、オレがエイミィを助けるって事? エイミィは今どこで何してるの?」
「わ、わたしは──────いまろうやで、ねてる……とおもう」
「ん? ろーや?」
ろーやって何だろう。
ろーや、ろうや……牢屋?
「──────牢屋!?」
え!? だってエイミィ、オレとそう変わらない年齢に見えるんだけど!?
「わ、わたしは『ざいにん』だから……うまれてずっと、おしろのろうやからでたこと……ないの……」
苦悶の表情を浮かべながら、エイミィは暗く顔を伏せた。
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