2 / 38
第1章
2話 姉妹の反応と緊張の高まり
しおりを挟む姉妹の反応と緊張の高まり
始皇帝が広間を去ったあとも、その場の空気は動かなかった。
誰かが息を吸い、吐く音すら、やけに大きく聞こえる。沈黙は短いはずなのに、長く引き伸ばされたように感じられた。
その沈黙を破ったのは、第二王女・星姫だった。
「陛下」
一歩、前に出る。
声は落ち着いていたが、その声音には張りがあった。
「わが国との友好関係より、重要な国家があるということですか?」
問いは、感情を抑えたものだった。
だが、そこには明確な意思があった。婚約とは個人同士の話ではない。国家と国家が結んだ約束であり、その破棄は関係全体に影響を及ぼす。星姫は、その点を真正面から示したに過ぎなかった。
広間に、わずかな緊張が走る。
しかし、その緊張を、あっさりと打ち砕くような声が響いた。
「まあ、いいではないか!」
豪快な笑い声とともに、第一王女・壱姫が前に出た。
その表情には、悲嘆も困惑もない。むしろ、どこか晴れやかですらあった。
「妾はもとより、政略結婚など快く思っておらぬ!」
壱姫は、はっきりと言い切った。
婚約そのものを、最初から評価していなかったという宣言だった。
「これで雪も解放され、自由となったというものだ!」
その言葉は、広間に大きく響いた。
星姫は、すぐに眉を寄せる。
「姉上……」
一歩引かず、星姫は続けた。
「これは個人の問題ではありません。
わが国が軽んじられたのです」
星姫の視点は、一貫していた。
問題は感情ではなく、国家の対面である。婚約破棄が公の場で告げられた以上、その影響は避けられない。
壱姫の笑みが、ゆっくりと消えた。
その瞳が細く光る。
「わかっておる」
声は低く、重みを帯びていた。
「わが国の対面を汚し、わが妹を傷つけ……
妾が、そのまま済ますわけなかろう」
その言葉に、場の空気が一変する。
「姉上!
まさか、戦を仕掛けるつもりですか!?」
星姫の声に、明確な焦りが混じった。
しかし、壱姫は即座に言い返す。
「なにを言う、星よ。
戦を仕掛けたのは、シンの国のほうであろうが!」
その断言は、強烈だった。
責任の所在を、完全に相手に押し付ける言葉である。
慌てて、側近が前に出た。
「壱姫殿!
わ、我らにそのような意図は……!」
必死な弁明だった。
だが、その言葉は、壱姫には届かない。
壱姫は、冷ややかに言い放つ。
「貴国の思惑など、知ったことではない」
声には、情け容赦がなかった。
「だいたい、雪乃との婚約を望んだのは、陛下とそなたらであろう?
それで、この仕打ち……許されると思うてか?」
その言葉が落ちた瞬間、広間の空気は張り詰めた。
壱姫が立ち上がっただけで、家臣たちの背筋に冷たい汗が流れる。
誰もが、これ以上の発言をためらった。
怒りは明確で、制御されているようでいて、いつ爆発してもおかしくない。
王城は、修羅場の気配で満ちつつあった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
わたしはくじ引きで選ばれたにすぎない婚約者だったらしい
よーこ
恋愛
特に美しくもなく、賢くもなく、家柄はそこそこでしかない伯爵令嬢リリアーナは、婚約後六年経ったある日、婚約者である大好きな第二王子に自分が未来の王子妃として選ばれた理由を尋ねてみた。
王子の答えはこうだった。
「くじで引いた紙にリリアーナの名前が書かれていたから」
え、わたし、そんな取るに足らない存在でしかなかったの?!
思い出してみれば、今まで王子に「好きだ」みたいなことを言われたことがない。
ショックを受けたリリアーナは……。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる