婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました

しおしお

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第1章

3話 喫茶店《夕影》

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ジパング郊外・喫茶店《夕影》

 その頃。
 王城の騒ぎをよそに、ジパングの都郊外――。

 ひっそりとした喫茶店《夕影》の厨房で、雪乃は深いため息をついていた。
 城の広間とは比べようもないほど狭い空間。静かで、人の気配も薄い。

「……師匠、私、婚約を破棄されてしまいました」

 声は低く、抑えられていた。
 それでも言葉は途切れず、続く。

「恥ずかしくて……もうジパングにはいられません……」

 カウンターの向こうでは、女主人・夕影が腕を組んでいた。
 その表情は、同情とも驚きともつかない。

 やがて、鼻で一つ、短く笑う。

「恥ずかしい?」

 視線を向け、淡々と言い放つ。

「なに、嬉しそうに語ってる。
 お前みたいなのが、そんな繊細なタマか」

「師匠……ひどいです」

 雪乃は小さく抗議するが、声に力はなかった。


---

◆第一章④

雪乃の本音と温度差

「どうせ“傷心”を口実に、国を離れるつもりなんだろう?」

 夕影の言葉は、核心を突いていた。

 図星を突かれ、雪乃は一瞬、唇をきゅっと結ぶ。
 否定の言葉は出てこない。

 そして――
 ふっと、小さく笑った。

「……そうなんです」

 それから、穏やかに続ける。

「そして、夢に見ていた喫茶店をはじめるんです。
 第三王女としては叶わなかった夢も……いまなら」

 言葉を区切り、少しだけ間を置く。

「皆が“かわいそうに”って思って、
 そっとしておいてくれるはずですから」

 夕影は、呆れたように笑みを浮かべた。

「さすがだな……鉄の心臓だ」

「師匠、そんな……」

 雪乃は照れたように首をすくめる。

「褒めないでください。照れちゃいます」

「褒めたつもりはないんだがな……」

 雪乃は、にこにこしながら紅茶をかき混ぜる。
 カップの中で、液面が静かに揺れた。

 ――この瞬間にも、王城では壱姫の怒号が響いているとも知らずに。


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