婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました

しおしお

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番外編

4 話 王城に転がる

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番外編①

王城に転がる“首”

 ジパング王城。
 重厚な扉の向こう、謁見の間には、異様な沈黙が満ちていた。

 誰も声を発さず、誰も足を踏み出さない。
 空気そのものが張りつめ、息をすることすらためらわれるような静けさだった。

 その沈黙の中心に——
 ひとつの“もの”が転がっている。

 それは、かつてシンの国を統べていた始皇帝の首だった。
 いや、正確には“首だったもの”である。

 血はすでに乾き、床に広がることはない。
 だが、その存在感だけが、あまりにも生々しく、謁見の間を支配していた。

「……ひ……ひぃ……っ」

 誰かが、かすれた声を漏らす。
 家臣たちは蒼白な顔で立ち尽くし、誰一人としてその首に近づこうとしなかった。
 視線を逸らす者、震える手を抑え込む者、ただ床を見つめ続ける者。

 恐怖は、言葉ではなく、沈黙として広がっていた。

 その中で、ただ一人。
 何の動揺も見せず、首を見下ろしている者がいる。

 第一王女・壱姫であった。

 その眼差しは、冷たく、乾いていた。
 憎悪も怒りも表に出さず、まるで虫か何かを眺めるかのような視線で、床に転がる首を見下ろしている。

 壱姫は、ゆっくりと扇を取り出し、ひとつ、ぱん、と音を立てて鳴らした。

「妹を辱め、我が国を愚弄した」

 低く、よく通る声だった。
 感情を抑えた口調でありながら、その言葉は重く、謁見の間に響く。

「その報いを受けただけのことだ」

 誰も反論しない。
 反論できる者など、この場には存在しなかった。

 第二王女・星姫は、その場に立ち尽くしたまま、両肩を震わせていた。
 目の前の光景が、現実であると理解するのに、時間がかかっているようだった。

「姉上……」

 声はかすれ、続く言葉が喉につかえる。

「まさか……本当に……」

 壱姫は、星姫の方を振り向きもしない。
 ただ、首から視線を外すことなく、侍従に向かって言葉を投げる。

「そのゴミを送り返してやれ」

 侍従の身体が、はっきりと震えた。
 周囲の家臣たちも、凍りついたように動けない。

「急げよ」

 壱姫の声は淡々としている。

「でないと、送り返す“国”がなくなる」

 その一言が、空気を切り裂いた。

 星姫が、思わず一歩前に出る。

「姉上! シンの国との関係を、どうするおつもりですか!?」

 必死の問いかけだった。
 外交、国交、均衡——それらすべてを考えれば、この行動がどれほど危ういか、星姫には理解できていた。

 だが、壱姫は振り向かない。

「何を慌てる」

 冷ややかに言い放つ。

「シンの国など、数日のうちに滅ぶ」

 星姫の喉が鳴る。

「……外交?」

 壱姫は、鼻で笑った。

「滅びる国と結ぶ必要など、あるまい」

「っ……!」

 星姫は言葉を失い、唇を噛みしめる。
 それ以上、何も言えなかった。

 壱姫は、ようやく口元に不敵な笑みを浮かべた。

「しかし……」

 扇で口元を隠しながら、くつりと笑う。

「これでは“ざまぁ”と言っても、興が削がれるな。
 弱すぎて、張り合いがない」

 その言葉が放たれた瞬間、広間に冷気が走った。
 家臣たちは、息をすることすら忘れ、ただ立ち尽くす。

 誰ひとり、壱姫の怒りに触れようとはしない。
 触れれば、命がない。

 それを、この場にいる全員が悟っていた。

 謁見の間には、再び沈黙が落ちる。
 その中心で、転がる首だけが、何も語らずに存在していた。


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