婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました

しおしお

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第3章

16話そして、突然の閉店宣言

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そして、突然の閉店宣言

 店内の空気が、少しだけ緩んできた頃だった。

 喫茶店「雪の庭」は、相変わらず穏やかなざわめきに包まれている。
 甘味を味わう客の表情は柔らかく、会話も静かだ。忍と弥生は忙しく動いているものの、慌ただしさは感じられなかった。

 忍は、ようやく一息つけるタイミングを見つけ、カウンターの方を振り返る。

 そこには――変わらぬ光景があった。

 雪乃は、椅子に腰掛けたまま、紅茶を手にしている。
 その姿は、まるで最初から最後まで観客でいるつもりのようだった。

(……本当に、動かない)

 忍が内心でそう呟いた、その瞬間。

 雪乃が、ふいに立ち上がった。

「……そろそろ、閉店しようかしら」

 あまりにも自然な声だった。

 一瞬、忍は言葉の意味を理解できなかった。
 次いで、その言葉が店内に染み込む。

「……え?」

「は?」

 客席から、小さなどよめきが上がる。

 最初に声を荒げたのは、常連になりつつある衛兵のレオンだった。

「おい、雪乃。
 俺、まだ食べてるんだが」

「ええ、知ってるわ」

 雪乃は、にこやかに答える。

「でも、もう疲れたの」

 忍は、思わず声を上げた。

「お嬢様!?
 まだ営業中です!」

「そうね」

 雪乃は頷いた。

「でも、閉めるのも私の自由でしょう?」

 店内に、微妙な沈黙が落ちた。

「……今日、まだ二時間ちょっとしか経ってませんよ」

 忍が必死に食い下がる。

「看板には“三時間”って……」

「よく読んで」

 雪乃は、穏やかに言った。

「“疲れたら、三時間前に閉まることがあります”って、書いてあるでしょう?」

 忍は、ぐっと言葉に詰まった。

(……書いてある……)

 客たちも、それを思い出したように視線を泳がせる。

「そんな……」 「いや、確かに……」

 レオンが立ち上がり、抗議する。

「理屈としてはわかるがな!  普通、今閉めるか!?」

 雪乃は、少しだけ首を傾げた。

「長く居座るのは、あまり上品じゃないわ」

「……今、それ言う!?」

 忍は頭を抱えそうになった。

 だが、雪乃はまったく気にしていない。

「今日は、ここまで」

 そう言って、扉の方を見る。

「また来てね。
 開いてたら、だけど」

 その一言で、決定だった。

 忍と弥生は、互いに目を合わせ、覚悟を決めたように動き出す。

「……申し訳ありません。
 本日は、ここまでとなります」

 忍の声には、慣れと諦めが混じっていた。

 客たちは、ぶつぶつ言いながらも立ち上がる。

「まあ……雪の庭だしな」 「仕方ないか……」

 誰も、本気で怒ってはいなかった。

 それが、この店の奇妙なところだった。

 最後の客が出て行き、扉が閉まる。

 店内には、急に静けさが戻った。

 忍は、深く息を吐いた。

「……お嬢様」

 雪乃は、満足そうに紅茶を飲みながら言う。

「いいタイミングだったでしょう?」

「……何を基準に?」

「私の疲労度」

 即答だった。

 忍は、何も言えなかった。

 こうして――
 喫茶店「雪の庭」は、今日も“気分次第”で幕を下ろした。

 だが、それがどんな余韻を残したのかを、
 この時点では、まだ誰も知らない。

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