婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました

しおしお

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第4章

22話 番外編

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22話 番外編  冷蔵ストレージという名の謎

――すべては「魔法の力」で解決された

喫茶店「雪の庭」は、今日も平常運転だった。

看板は出ている。
客はいない。
店主は働いていない。

雪乃はカウンター席で紅茶を飲みながら、のんびりと脚を揺らしている。
その横で、弥生が仕込み用の食材をストレージから取り出していた。

「……あれ?」

弥生の手が止まる。

「どうしたの、弥生?」

「いえ……このストレージなんですが……」

弥生は首をかしげながら、収納袋の中を覗き込んだ。

「冷たい……ですよね?」

「ええ。冷蔵ストレージだもの」

雪乃は当然のように答える。

だが、弥生の表情は納得していなかった。

「でも……おかしいです」

忍が、作業をしながらちらりと視線を向ける。

「何がおかしいのですか?」

弥生は少し言いにくそうに言葉を選び、問いかけた。

「このストレージ……
なぜ一般的な“時間停止タイプ”ではなく、“冷蔵”なんですか?」

「冷蔵ストレージなんて、初めて聞きました」

雪乃は紅茶を一口飲み、ふむ、と頷く。

「確かに珍しいわね」

弥生は続ける。

「普通、鮮度を維持するなら、
時間停止型のほうが完全じゃないですか?」

「時間そのものを止めてしまえば、
温度変化も劣化も起きないはずですし……」

忍も同意するように頷いた。

「理論上は、その通りです」

「ですよね?」

弥生は少し身を乗り出す。

「なのに、このストレージは“冷えている”。
時間停止よりも、むしろ手間がかかっているような……」

雪乃は、ふふ、と小さく笑った。

「それはね」

二人の視線が、雪乃に集中する。

「この冷蔵ストレージは、
単なる“冷蔵タイプ”じゃないの」

「……?」

弥生が首を傾げる。

「内部はね」

雪乃は、さらりと言った。

「時間停止で保存したまま、冷蔵できるのよ」

「はあ????」

弥生の口から、素の声が漏れた。

忍も、さすがに手を止める。

「……それは、理論的に矛盾しています」

弥生は慌てて頷いた。

「そうです!
時間停止って、“そのものの状態の時間”を止める魔法ですよね?」

「外部からの影響――
温度変化や振動なんかも、受けないはずです」

「なのに冷蔵って……
時間が止まってるなら、冷えるも何もないはずで……」

雪乃は、あっさりと答えた。

「でも、これはそれができるの」

「そんな話、聞いたことありません!」

弥生は思わず声を上げた。

「どういう仕組みなんですか!?」

雪乃は、少し考える素振りをしてから――

にっこり笑った。

「そういうマジックアイテムなの」

「説明になってません!」

弥生が即ツッコむ。

「仕組みを教えてください!」

「知らないわ」

「……へ?」

一瞬、空気が止まった。

忍が、ゆっくりと雪乃を見る。

「……お嬢様?」

「これはね」

雪乃は、こともなげに言った。

「花が作ってくれた特注品なの。
開店祝いだって」

弥生の目が、限界まで見開かれる。

「……花……?」

「花姫様、ですか?」

忍の声も、わずかに硬くなった。

「そう。ジパング王国第七王女、花姫」

雪乃は懐かしそうに微笑む。

「まだ幼いのに、
宮廷魔術師長を超えるって噂の、とんでもない魔法使い」

「魔力量も規格外だけど……
本人は魔法より、マジックアイテム作りに夢中なのよ」

弥生は、顔を引きつらせた。

「……なるほど……」

「仕組みは、花に聞いて」

雪乃はあっさり言う。

「私も最初に説明を聞いたけど……
さっぱり分からなかったわ」

「“魔法の力”ということで、納得することにしたの」

「……」

弥生は、しばらく沈黙したあと、ぽつりと言った。

「……花姫様が来られたら、説明してもらえますか?」

雪乃は楽しそうに首を傾げる。

「聞けば、教えてくれると思うわよ?」

弥生は、即座に首を横に振った。

「遠慮します」

忍も静かに頷く。

「……おそらく、私たちには理解できません」

「でしょう?」

雪乃は満足そうに紅茶を飲んだ。

こうして三人は、
“仕組みは分からないが、便利なので問題ない”
という結論に至った。

「……まあ、プリンが最高の状態で保存できるなら、それでいいわ」

「ですね……」

「魔法の力ということで……」

全員、魔法の力で納得することにした。

仕組みは分からなくとも、
プリンは完璧に冷えている。

今日も喫茶店「雪の庭」は、
特に問題もなく、通常営業――
いや、通常通りの気まぐれ営業を続けていた。

花姫がどれほど恐ろしい(そして天才的な)存在かを、
この場にいる誰一人、深く考えようとはしなかった。

考えたところで、
どうせ理解できないのだから。

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