婚約破棄されたけど負けないもん。がんばってさばいばるするぞー!

しおしお

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第1章「婚約破棄と追放」

1−3 孤独な夜と決意

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第1章 婚約破棄と追放
1-3 孤独な夜と決意

森の夜は、こわいほど静かでした。
風の音が、木と木のあいだをぬけるたびに、「ひゅう……」って鳴る。
葉っぱがゆれて、どこかでフクロウが「ほう」と鳴きました。
見上げた空には、お月さまがまるく光っています。
でも、木のかげが黒くて、まるで大きな怪物みたいに見えました。

「こわくない、こわくないのですの……」
そう言いながら、わたしは自分の肩をぎゅっと抱きしめました。
おなかがぐうって鳴ります。
パンを食べようかと思ったけれど、もったいなくて手が出ません。
「もうちょっと、がまんですの……」
だって、まだこれから何日も生きなくちゃいけないのです。

ミーナさんがくれたお守りのボタンを、そっとにぎりました。
月の光で、すこしだけキラッと光ります。
「おかあさま……どうか見ててくださいの」
そうつぶやくと、どこからか優しい風がふいて、髪をなでてくれました。

……気のせいかもしれないけれど、
「だいじょうぶ」と言われたような気がしましたの。

***

木の枝と葉っぱを集めて、小さな屋根を作りました。
穴だらけだけど、雨はふっていません。
だから今夜は、ここでねむります。

草の上はちょっとチクチクする。
虫の声がいっぱいして、少しこわいけれど……
それでも、目をとじました。

でも、ねむれません。
体はつかれているのに、頭の中で王子さまの声がずっと聞こえるのです。

「幼すぎる」「子どもだ」
「婚約なんて冗談みたいなものだ」

「……こどもって、そんなにだめですの?」
目からつーっと涙がこぼれました。
泣かないって決めたのに。
ひとりぼっちだと、涙がかってに出てきてしまいますの。

「おかあさま……どうして、いなくなっちゃったの?」
「けいぼさまは、どうして、そんなに冷たいの?」
「おとうさまは、どうして、なにも言ってくれないの?」

聞いても、答えはありません。
森は静かで、虫の声と風の音だけが返ってきました。

でも、そんな中で――小さな光が見えました。
きらきら、ちいさな、黄色い光。
「……ほたる?」
光はふわっと動いて、わたしの目の前を通りすぎました。
まるで「だいじょうぶ」って言ってるみたいに。

その光を見ていたら、すこし心があたたかくなって、
涙が止まりました。

「……ありがとう。 もう、ないちゃいませんの」

***

夜のまんなか。
カサカサと音がして、わたしは飛び起きました。
草むらの中で何かが動いています。
「だ、だれですの……?」

目をこらすと、小さなウサギが出てきました。
まんまるの目で、こちらをじっと見ています。
「……びっくりさせないでくださいの」
そう言うと、ウサギはぴょんと近づいてきて、
わたしの足のそばに落ちていた木の実をくわえて持っていきました。

「ふふっ……おやすみなさいなのですの」

ウサギはすぐに森の奥へ消えていきました。
でも、なんだか、少しうれしくなりました。
世界に、まだ“こわくないもの”があると分かったから。

その夜は寒かったけど、心の中はほんのりあったかくて、
やっと少しだけ眠れました。

***

朝になりました。
木のすきまから、おひさまの光がこぼれてきます。
鳥たちが鳴いて、森が目を覚ましたみたい。
「おはようございますの……」
わたしは両手を伸ばして、大きく深呼吸しました。

体は少し冷えてるけど、生きてる。
ちゃんと、生きてる。

「きょうも いきてる! えらい!」
声に出して言ったら、なんだか胸の中がポカポカしました。

パンを少しだけ食べました。
かたいけど、すごくおいしい。
たぶん、おなかがすいてるからかもしれません。

「ごはんのあとは、おうちづくりですの!」
枝を集めて、昨日より大きい屋根を作ります。
葉っぱを重ねて、床に草を敷いて……
うまくできなくても、楽しいですの。

「……これで、あめがふってもだいじょうぶですの!」
汗をぬぐって笑うと、木の上のリスがコロコロと鳴きました。
「なに笑ってますの、リスさん。 あなたもがんばってるんですのね!」

まるでお話してるみたいに、リスが枝をはねて、
木の実をひとつポトンと落としました。
それを拾って手に取ると、リリアナは満面の笑みを浮かべました。

「ありがとう! これでゆうごはんがふえましたの!」

***

昼をすぎるころ、また風が吹き始めました。
雲がどんどん流れて、森の中が暗くなります。
雨のにおいがしてきて、わたしは急いで小屋に戻りました。
枝の屋根を押さえながら、
「だいじょうぶ、だいじょうぶ……こわれませんの!」
小さな手で枝をつかみ、歯をくいしばります。

バラバラバラッ――!
雨がふってきました。
でも、昨日の夜よりこわくありません。
小屋の中に小さな光――
昨日こすって作った火を、今度こそ成功させたのです。

「ついた……! わたし、できましたの!」

火がちろちろと燃えて、雨の音が少しやさしく聞こえました。
リリアナはその小さな明かりを見つめて、
ぎゅっと手を合わせます。

「こんなので まけない。がんばって さばいばるするぞー!」

その声は、雨の森の中に、まっすぐ響きました。
空が灰色でも、火の光はちゃんとここにある。
そしてその光は、リリアナの心の中でも燃えていました。

それはまだ、ちいさな火。
でも、きっとこの子が生きていく限り、
何度でも消えずに灯り続ける――
そんな、強い決意のあかりでした。


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