婚約破棄されたけど負けないもん。がんばってさばいばるするぞー!

しおしお

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第1章「婚約破棄と追放」

1−2 継母の決断

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第1章 婚約破棄と追放

1-2 継母の決断

朝の光がまだ白くて、屋敷の中はしんとしていました。
鳥の声が遠くで聞こえるけれど、いつもの朝より寒く感じます。
わたし、昨日の夜からほとんど眠れませんでしたの。
小さな荷物を抱えてベッドの上で丸くなっていたら、
「トントン」とノックの音がしました。

「お嬢さま、起きていらっしゃいますか?」
それは、昔からお世話をしてくれていた年上の侍女、ミーナさんの声でした。
「うん、もう起きてますの」
返事をすると、ミーナさんがそっと部屋に入ってきて、
静かにドアを閉めました。

「リリアナお嬢さま……。今朝、奥さまからお達しがありました」
「けいぼさまから?」
「はい……。お嬢さまを、屋敷からお出しするようにと……」

ミーナさんの声が、震えていました。
その顔を見て、わたしは“本当なんだ”と悟りました。
「……わたし、なにか、わるいことしましたの?」
「いいえ、お嬢さまは何も。何も悪くありません。
 ただ……奥さまは、『婚約破棄された娘は家の恥』と……。」

“恥”という言葉が、胸に刺さりました。
恥って、そんなに悪いことですの?
好きでもない王子さまに“子どもすぎる”って言われただけなのに。
泣きたい気持ちをぐっとこらえて、
わたしはミーナさんの手をにぎりました。

「だいじょうぶですの。わたし、すこしお出かけしてきますの」
「リリアナお嬢さま……!」
ミーナさんの目がうるうるして、涙が落ちました。
「お嬢さまは、ほんとうにお強い方です……どうかご無事で……」

ミーナさんは、こっそりと小さな包みを渡してくれました。
中には、乾いたパンが二切れと、ハンカチ、そして銀色の小さなボタン。
「お守りです。昔、あなたのお母さまがつけていたドレスのボタンです」
「おかあさまの……?」
「ええ。どうか、これがあなたを守ってくれますように。」

胸の奥がじんと熱くなりました。
「ありがとう、ミーナさん。わたし、がんばりますの」
それだけ言って、笑ってみせました。
ミーナさんは泣きながら、ドアの向こうに消えていきました。

――それが、屋敷で聞いた最後の“やさしい声”でした。

***

玄関の前には、継母さまが立っていました。
きれいなドレスに宝石をたくさんつけて、
わたしを見る目は、まるで虫でも見るように冷たい。

「まあ、本当に出ていくのね。もっと泣いてすがるかと思ったのに。」
「泣きませんの。だって、泣いたら、目が赤くなりますもの。」
そう言うと、継母さまは目を細めて、つんと鼻で笑いました。

「可愛げがないわね。そんなだから、王子にも嫌われたのよ。
 ……あなたがいると、家が汚れるの。
 さあ、早く行きなさい。」

「でも、けいぼさま。おとうさまは……?」
「お父さまはね、あなたを送り出す勇気がないのよ。
 だから私が代わりに言ってあげてるの。感謝なさい。」

わたしの喉がきゅっと締まりました。
おとうさまは、優しい人でした。
でも、継母さまの前ではいつも黙ってしまう。
きっと今も、どこかの部屋で聞こえないふりをしているんだと思います。

「……はい。おせわになりましたの。」
頭を下げて、門の方へ歩きました。
背中に、継母さまの冷たい声が追いかけてきました。

「二度と戻ってこなくていいわよ!」

門を出た瞬間、胸の中で何かがぷつんと切れました。
屋敷の白い壁が、だんだん遠くなっていきます。
涙がこぼれそうになったけど、ぐっと上を向きました。

「……だいじょうぶ。 わたし、だいじょうぶですの。」

足元の石畳が冷たくて、靴の底からじんじんしてきました。
それでも歩き続けます。
だって止まったら、泣いちゃう気がするから。

森の入り口に着くころ、空が灰色になってきました。
木々がざわざわと風に揺れ、葉っぱが雨の前ぶれみたいに震えています。
カゴの中には、パンとリボンとお守りのボタン。
たったそれだけ。でも、きっと生きられる。
だって、ミーナさんもお母さまも、どこかで見てくれてるはずですの。

森に一歩入ると、しっとりとした土の匂いがしました。
鳥の声も虫の声も、はじめは怖かったけれど、
少しずつ“世界が生きている音”みたいに聞こえてきます。

足元でカエルがぴょんと跳ねて、わたしは思わず笑いました。
「ふふっ……びっくりしましたの!」
笑ったのなんて、久しぶり。
そしたら、胸の奥の痛みが少しやわらいだ気がしました。

森の奥は暗くて、枝が顔にあたります。
でも、止まれません。戻る場所もありません。
だから、前へ。前へ。

歩きながら、わたしは声に出して言いました。

> 「こんなので まけない。がんばって……さばいばるするぞー!」



その声が、木々の間をひゅるると抜けていきました。
森が少しだけ、笑ってくれた気がしました。

***

その夜。
雨が降り出しました。冷たい雨が髪を濡らします。
近くの木の下で小枝を集めて、手で火をつけようとしました。
お母さまから聞いた“マッチがない時の火のつけ方”。
でも、ぜんぜんうまくいきません。枝が湿っていて、火がつかない。

「……うう……つかないのですの……」
唇がかじかんで、手がふるえます。
寒くて、涙が出そう。
でも、泣いちゃだめ。泣いたら、きっと火がつかない。

「まけない……まけないのですの……!」

何度も枝をこすっていると、ぽっ、と小さな光が生まれました。
風がふいて、一瞬で消えたけれど、
その一瞬で、心の中に小さな灯りがともりました。

「……できる。わたし、がんばれますの。」

たとえ寒くても、ひとりでも、
今日からわたしは――自分の力で生きていくのです。

そして、リリアナの“ほんとうの物語”が、
この夜、静かにはじまりました。


---

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