婚約破棄されたけど負けないもん。がんばってさばいばるするぞー!

しおしお

文字の大きさ
6 / 20
第2章 森でのさばいばる生活

2−2 森にきた人たち

しおりを挟む
第2章 森でのさばいばる生活

2-2 森にきた人たち

森の朝は、いつもより静かでした。
鳥の声が少なくて、風の音も少し違う気がします。
リリアナは、火のそばで小枝を並べながら首をかしげました。

「……なんだか、へんですの。」

森は生きている。
それはもう、何日もここで過ごしたリリアナが知っていることでした。
でも、きょうは少し、森の“息づかい”が違いました。

ぴくり、と耳をすませると、遠くの方からかすかな音。
――ガサッ、ガサガサ……。

「……けものさん、ですの?」

小さな心臓がどきどきします。
でも、逃げるより先に、リリアナは木のかげに身をひそめました。
胸の前でお母さまのボタンをぎゅっとにぎります。

音は近づいてきました。
足音のような、でもけものよりも重い音。
枝が折れる。人間の足音でした。

「……ひと?」

思わず、小さく声がもれました。
その瞬間――

「誰かいるのか?」
「……子どもの声?」

リリアナはびくっとして、息を止めました。
それは、男の人の声と、女の人の声。
やわらかいけど、はっきりしていて、森の中に響きました。

リリアナは木のかげから、そっとのぞきました。

そこには、立派な服を着た男の人と、
やさしい顔の女の人がいました。
男の人は背が高く、肩にマントをかけていて、
腰には剣がささっています。
女の人は、白い帽子をかぶって、
腕にはバスケットをさげていました。

「おどろきましたわ……ほんとうに人の声がしましたのね。」
「この辺りに人が住んでいるとは聞いていなかったが……。」

ふたりは森の奥を見回して、
やがて、リリアナが作った“枝の小屋”の前で足を止めました。

「……これは?」
「見てください、旦那さま。枝と草で作られています。
 まるで子どもが……。」

女の人の声はやわらかくて、風みたいでした。
リリアナは思わず、一歩前に出てしまいました。

「……わたしの、おうちですの。」

ふたりが同時に振り返りました。
リリアナは、ボロボロのスカートのすそを握りしめて、
でも胸を張って言いました。

「ここ、わたしのおうちですの!」

男の人の目が驚きで見開かれました。
女の人は口をおさえて、涙ぐんでいます。

「まあ……こんな小さな子が……!」
「君、ここで暮らしているのか?」
「はいですの! ちゃんと“ひ”もつけられますの!」

そう言って、リリアナは石かまどを指さしました。
灰が残っていて、まだ温かい。
小さな手でがんばった証拠でした。

「すごい……火を自分で?」
「お料理もできますの!」

リリアナは、拾っておいたドングリを誇らしげに見せました。
男の人がそっとひざをつき、目線を合わせます。

「名前を聞いてもいいか?」
「リリアナ・フォン・ローゼリア、ですの。」

その名を聞いた瞬間、男の人と女の人が顔を見合わせました。

「ローゼリア……って、まさか。」
「あの公爵家の……?」

リリアナは首をかしげます。
「はいですの。けれど、もう、いえにはいませんの。
 けいぼさまが、『いらない子』って言いましたの。」

その言葉に、女の人は息をのんで、
男の人の手をぎゅっとにぎりました。

「……旦那さま、この子……。」
「わかっている。 放ってはおけん。」

男の人はマントを脱いで、
それをリリアナの肩にそっとかけました。
あたたかくて、やさしい匂いがしました。

「寒かっただろう。 もう大丈夫だ。」
「だいじょうぶですの。 わたし、“さばいばる”できますの!」

その言葉に、ふたりは思わず笑いました。
「さばいばる?」
「ええ、『生きる』ってことですの!」

男の人は声をやわらげて言いました。
「君はとてもえらい。 でも……これ以上ひとりでは危ない。」
「でも……森にはリスさんも、火さんもいますの。
 だから、さびしくないですの。」

女の人がしゃがんで、リリアナの頭をなでました。
「あなた、本当にいい子ね……。」
あたたかい手。
久しぶりに、ひとの手にふれた気がしました。
その瞬間、リリアナの目から、ぽろりと涙が落ちました。

「……ないてませんの。これは、あせ、ですの……」
「ええ、そうね。あせですわね。」
女の人は笑って、リリアナを抱きしめました。

***

その夜。

森の外れにある馬車の中で、
リリアナは毛布にくるまれて座っていました。
窓の外では、さっきのふたり――
隣国ルフェール公爵夫妻が、
森の見回りの兵たちに指示を出しています。

「まさか、こんな場所で……。
 あの年で火をおこして生き延びていたなんて。」
「奇跡の子ですわ。旦那さま……神が導いたのかもしれません。」

リリアナは眠そうな目でその声を聞きながら、
小さくつぶやきました。

「……おかあさま、だれか、わたしを……みつけてくれましたの……」

毛布の中で、ミーナさんにもらった銀のボタンをにぎります。
あの夜の火のぬくもりのように、手の中があたたかい。

そして、彼女は小さな声で言いました。

「こんなので まけない。がんばって……さばいばるするぞー!」

公爵夫妻はその言葉を聞き、
そっと顔を見合わせ、やさしく笑いました。

「……あの子の生きる力は、きっと奇跡を呼びますわね。」
「そうだな。あの小さな令嬢が、我らの娘になるとは……。」

夜空に星がまたたき、馬車の灯りがゆっくりと森を離れていく。
リリアナの“孤独なさばいばる”は終わり、
これから“愛される日々”が、静かに幕を開けようとしていました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦う聖女さま

有栖多于佳
恋愛
エニウェア大陸にある聖教国で、千年ぶりに行われた聖女召喚。 聖女として呼ばれた魂の佐藤愛(さとうめぐみ)は、魂の器として選ばれた孤児の少女タビタと混じり、聖教国を聖教皇から乗っ取り理想の国作りをしながら、周辺国も巻き込んだ改革を行っていく。 佐藤愛は、生前ある地方都市の最年少市長として改革を進めていたが、志半ばで病に倒れて死んでしまった。 やり残した後悔を、今度は異世界でタビタと一緒に解決していこうと張り切っている。悩んだら走る、困ったらスクワットという筋肉は裏切らない主義だが、そこそこインテリでもある。 タビタは、修道院の門前に捨てられていた孤児で、微力ながら光の属性があったため、聖女の器として育てられてきた。自己犠牲を生まれた時から叩き込まれてきたので、自己肯定感低めで、現実的でシニカルな物の見方もする。 東西南北の神官服の女たち、それぞれ聖教国の周辺国から選ばれて送り込まれた光の属性の巫女で、それぞれ国と個人が問題を抱えている。 小説家になろうにも掲載してます。

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

「君はいらない」と捨てられた夜、天敵の冷徹社長に「なら、俺が貰う」と拾われました。――手を出さない約束でしたが、彼の理性が限界のようです

ひふみ黒
恋愛
【婚約破棄から始まる、不器用なライオン(冷徹社長)の猛烈な求愛!】 「俺の妻になるなら覚悟しろ。……もう、指一本逃がすつもりはない」 ★あらすじ★ 「美月は完璧すぎて、可愛げがないんだよ」 28歳の誕生日。 一流ホテルのウエディングプランナーである相沢美月(あいざわ みつき)は、婚約者の裏切りにより、結婚目前ですべてを失った。 雨の降る路地裏。 ヒールも折れ、心も折れてうずくまっていた美月の前に現れたのは、かつての高校時代の天敵であり、現在は勤務先の冷徹な社長 一条蓮(いちじょう れん)だった。 「捨て猫以下だな」 そう憎まれ口を叩きながらも、彼は泥だらけの美月を躊躇なく抱き上げ、最高級ペントハウスへと連れ帰る。 そして、彼が突きつけたのは、あまりにも強引な提案だった。 「住む場所がないなら、俺の家に来い。その代わり――俺の『婚約者』役を演じろ」 利害の一致した契約関係。 条件は「お互いに干渉しないこと」、そして「決して手を出さないこと」。 ……のはずだったのに。 「髪、濡れたままだと風邪を引く」 「あんな男のために泣くな。顔が台無しだ」 同居生活で見えてきたのは、冷徹な仮面の下に隠された、不器用すぎるほどの優しさと独占欲。 美月が作った手料理を誰よりも美味しそうに食べ、元婚約者が復縁を迫ってくれば「俺の女に触れるな」と徹底的に排除する。 天敵だったはずの彼に守られ、凍っていた美月の心は次第に溶かされていく。 しかし、ある雷雨の夜。 美月が不用意に彼に触れた瞬間、一条の理性のタガが外れてしまい――。 「……手を出さない約束? 撤回だ」 「そんな無防備な顔で見つめて、何もしないでいられるほど、俺は聖人君子じゃない」 10年越しの片思いをこじらせたハイスペック社長 × 仕事熱心で恋愛に臆病なプランナー。 契約から始まった二人の関係が、本物の愛(溺愛)に変わるまで。 元婚約者への痛快な「ざまぁ」も収録した、極上の大人のシンデレラストーリー! 【登場人物】 ◆相沢 美月(28) ホテルの敏腕ウエディングプランナー。真面目でお人好しな性格が災いし、「つまらない女」と婚約破棄される。実は家事万能で、酔うと少しだけ甘えん坊になる(本人は無自覚)。 ◆一条 蓮(28) ホテルグループの社長。美貌と才覚を併せ持つが、他人に興味を示さないため「氷の貴公子」と呼ばれる。実は高校時代から美月を一途に想い続けており、彼女のこととなると冷静さを失う。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

悪役令嬢としての役目を果たしたので、スローライフを楽しんでもよろしいでしょうか

月原 裕
恋愛
黒の令嬢という称号を持つアリシア・アシュリー。 それは黒曜石の髪と瞳を揶揄したもの。 王立魔法学園、ティアードに通っていたが、断罪イベントが始まり。 王宮と巫女姫という役割、第一王子の婚約者としての立ち位置も失う。

処理中です...