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第11話 回らない歯車
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第11話 回らない歯車
異変は、静かに始まった。
「……殿下、こちらの報告ですが」
官僚が差し出した書類を、エリシオンは流し読みする。
「何だ、また地方からの要望か。
細かいことが多いな」
「いえ、今回は……」
官僚は言いよどんだ。
「物流が、一部滞っております」
エリシオンの眉が、ぴくりと動く。
「滞る? なぜだ」
「新税制の影響で、
中小の運送業者が一時的に業務を停止しておりまして……」
「そんなはずはない」
即答だった。
「税率は計算した。
十分に耐えられるはずだ」
官僚は、そっと視線を落とす。
「……“以前の調整”が、今回は入っておりません」
その言葉に、執務室の空気が一瞬、凍った。
「……調整?」
エリシオンは、問い返す。
「誰が、そんなことを――」
言いかけて、止まる。
思い浮かぶ顔は、一つしかなかった。
(……いや)
すぐに首を振る。
(関係ない。
俺一人でも、問題なく回るはずだ)
「一時的な混乱だ」
エリシオンは、強く言い切った。
「民はすぐに慣れる。
むしろ、改革には必要な痛みだ」
「……承知いたしました」
官僚は、それ以上何も言わなかった。
その日の午後。
「殿下、商人ギルドから正式な抗議文が届いております」
「……抗議?」
「港の使用量が急減し、
輸出入に遅れが出ているとのことです」
報告は、次々と積み重なる。
だが、どれも決定打ではない。
“少し困る”程度の話。
だからこそ、エリシオンは深刻に受け止めなかった。
「大げさだ」
机を指で叩く。
「前例のない改革には、反発がつきものだ」
その頃。
別室で、数人の官僚が小声で話していた。
「……前は、こんな時どうしていた?」 「……修正が、入っていましたね」 「誰が?」 「……分かっているでしょう」
皆、同じ名前を思い浮かべる。
だが、誰も口に出さない。
夜。
ガーラは、王太子の私室で報告を聞いていた。
「物流が、滞っている……?」
彼女は、思わず聞き返す。
「大したことではない」
エリシオンは、軽く言った。
「数字の上では問題ない。
騒いでいるのは、変化を嫌う連中だ」
「……でも」
ガーラは、少しだけ言葉を探す。
「港が止まると、
物が届かなくなるのでは……?」
その問いに、エリシオンは一瞬、顔をしかめた。
「心配性だな」
そう言って、笑おうとする。
「細かいことを考えなくていい。
お前は、俺を信じていればいいんだ」
「……はい」
ガーラは、頷いた。
だが。
(……細かいこと、なのかしら)
昼に見た報告書。
数字の端に、赤く付けられた小さな印。
それが、どうしても頭から離れなかった。
同じ頃。
王宮の外では、商人たちが集まり始めていた。
「最近、荷が動かない」 「前より税が重い」 「このままじゃ、立ち行かない」
小さな不満。
小さな声。
だが、それは確実に、積み重なっていく。
歯車は、まだ回っている。
だが――
噛み合ってはいなかった。
---
異変は、静かに始まった。
「……殿下、こちらの報告ですが」
官僚が差し出した書類を、エリシオンは流し読みする。
「何だ、また地方からの要望か。
細かいことが多いな」
「いえ、今回は……」
官僚は言いよどんだ。
「物流が、一部滞っております」
エリシオンの眉が、ぴくりと動く。
「滞る? なぜだ」
「新税制の影響で、
中小の運送業者が一時的に業務を停止しておりまして……」
「そんなはずはない」
即答だった。
「税率は計算した。
十分に耐えられるはずだ」
官僚は、そっと視線を落とす。
「……“以前の調整”が、今回は入っておりません」
その言葉に、執務室の空気が一瞬、凍った。
「……調整?」
エリシオンは、問い返す。
「誰が、そんなことを――」
言いかけて、止まる。
思い浮かぶ顔は、一つしかなかった。
(……いや)
すぐに首を振る。
(関係ない。
俺一人でも、問題なく回るはずだ)
「一時的な混乱だ」
エリシオンは、強く言い切った。
「民はすぐに慣れる。
むしろ、改革には必要な痛みだ」
「……承知いたしました」
官僚は、それ以上何も言わなかった。
その日の午後。
「殿下、商人ギルドから正式な抗議文が届いております」
「……抗議?」
「港の使用量が急減し、
輸出入に遅れが出ているとのことです」
報告は、次々と積み重なる。
だが、どれも決定打ではない。
“少し困る”程度の話。
だからこそ、エリシオンは深刻に受け止めなかった。
「大げさだ」
机を指で叩く。
「前例のない改革には、反発がつきものだ」
その頃。
別室で、数人の官僚が小声で話していた。
「……前は、こんな時どうしていた?」 「……修正が、入っていましたね」 「誰が?」 「……分かっているでしょう」
皆、同じ名前を思い浮かべる。
だが、誰も口に出さない。
夜。
ガーラは、王太子の私室で報告を聞いていた。
「物流が、滞っている……?」
彼女は、思わず聞き返す。
「大したことではない」
エリシオンは、軽く言った。
「数字の上では問題ない。
騒いでいるのは、変化を嫌う連中だ」
「……でも」
ガーラは、少しだけ言葉を探す。
「港が止まると、
物が届かなくなるのでは……?」
その問いに、エリシオンは一瞬、顔をしかめた。
「心配性だな」
そう言って、笑おうとする。
「細かいことを考えなくていい。
お前は、俺を信じていればいいんだ」
「……はい」
ガーラは、頷いた。
だが。
(……細かいこと、なのかしら)
昼に見た報告書。
数字の端に、赤く付けられた小さな印。
それが、どうしても頭から離れなかった。
同じ頃。
王宮の外では、商人たちが集まり始めていた。
「最近、荷が動かない」 「前より税が重い」 「このままじゃ、立ち行かない」
小さな不満。
小さな声。
だが、それは確実に、積み重なっていく。
歯車は、まだ回っている。
だが――
噛み合ってはいなかった。
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