婚約破棄は致しません。ただ、あなたを主語から外しただけです』

しおしお

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第十四話 議題の名

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第十四話 議題の名

 王宮大広間に、重臣と高位貴族が集められた。

 玉座の背後に掲げられた王家の紋章は変わらない。
 だが空気は、かつてのような絶対的な威圧を帯びていなかった。

 本日の議題は、ただ一つ。

 ――王位継承の安定性について。

 廃嫡という言葉は使われない。
 だが誰もが理解している。

 議題の名を変えても、意味は同じだ。

 国王がゆっくりと立ち上がる。

「王家は揺らいだ」

 その一言で場が凍る。

「揺らいだ理由は単純だ。信用が揺らいだからだ」

 誰も反論しない。

 市場は横ばい。
 格付けは条件付き。
 継承指数は変動中。

 数字は誤魔化せない。

 セドリックは玉座の横に立っていた。

 顔色は変わらない。
 だが指先はわずかに震えている。

「私は国家のために」

「分かっている」

 国王は遮らない。

「だが王家に求められるのは、結果だ」

 沈黙。

 重臣の一人が口を開く。

「第二王子殿下は、現時点で失点がございません」

 比較。

 それが始まった瞬間、空気が変わる。

「失点がないということは、安定の象徴となり得る」

 それは攻撃ではない。

 冷静な分析。

 セドリックは拳を握る。

「私は間違っていない」

「殿下」

 財務官が静かに言う。

「間違いか否かは、歴史が判断します。しかし市場は、揺らぎを嫌います」

 揺らぎ。

 その言葉が、何度も刺さる。

 同時刻、グラシアス公爵邸。

「正式議題となりました」

 エルネストが告げる。

 レティシアは静かに頷く。

「そう」

「お嬢様の名も議事録に出るでしょう」

「当然ですわ」

 婚約破棄は公式記録。

 王家の信用揺らぎの起点として、必ず参照される。

「私は何もしておりません」

 それは事実。

 だが“起点”という記録は消えない。

 夜、王宮。

 議論は続いていた。

「廃嫡は最後の手段だ」

「だが市場は待たぬ」

「戴冠後に再び揺らげば、国が持たぬ」

 静かな声が重なる。

 感情はない。

 王家の未来を守るための議論。

 それこそが、最も残酷な現実だった。

 セドリックは立ち上がる。

「私は辞さぬ」

 場が静まる。

「王家のために必要であれば、私は退く」

 その言葉は誇りか、諦めか。

 誰にも分からない。

 だが国王の目は厳しい。

「まだ決定ではない」

 だがその声に、迷いはない。

 一方、隣国使節館。

「議題化されました」

 報告に、オルフェリウスはわずかに目を細める。

「制度は動いた」

「介入しますか」

「不要だ」

 彼は淡々と言う。

「自ら決断させることが最も安定する」

 圧力は不要。

 市場が十分に働いている。

 深夜。

 レティシアは一人、書斎で灯りを落とす前に呟く。

「議題になった時点で、不可逆ですわ」

 廃嫡はまだ決定ではない。

 だが“検討対象”となった王太子は、
 もはや絶対ではない。

 最強のざまぁは、断罪ではない。

 議題化。

 あなたの地位が“検討対象”になること。

 それが、王家にとって最大の屈辱。

 王宮の灯りは遅くまで消えない。

 セドリックは自室で天井を見つめる。

 自分は正しい。

 だが正しさが、王に必要とは限らない。

 制度は、感情を見ない。

 議題の名が刻まれた瞬間、
 王太子の未来は“選択肢”になった。

 それこそが、最も静かで、最も残酷な宣告だった。
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