婚約破棄は致しません。ただ、あなたを主語から外しただけです』

しおしお

文字の大きさ
37 / 39

第三十八話 記念碑の刻印

しおりを挟む
第三十八話 記念碑の刻印

 王都中央広場に、新たな記念碑が建てられた。

 即位三周年を迎えた新国王の統治を記念するものだ。

 石造りの柱は高く、台座には王国の紋章が刻まれている。
 そして正面には、金文字の碑文。

『安定と継続の時代』

 その下に、統治初年度からの主要成果が並ぶ。

 財政黒字化。
 外交協定の締結。
 農地改革の定着。
 王立学院の刷新。

 整然とした箇条書き。

 過去の混乱を示す語は一切ない。

 除去されたわけではない。
 ただ、触れられない。

 除外ではなく、圧縮。

 記念碑除幕式。

 新国王が布を引く。

 拍手が広場に広がる。

「我が国は安定の上に未来を築く」

 言葉は短い。

 観衆は頷く。

 その背後に、セドリックの姿もある。

 王族として列席。

 だが石に刻まれた文字に、彼の名はない。

 責める語もない。

 ただ、ない。

 隣国使節館。

「記念碑、完成しました」

 報告に、オルフェリウスは視線を上げる。

「刻印は」

「成果のみです」

「それでよい」

 石は最終形。

 紙よりも強い。

 再解釈しづらい。

 グラシアス公爵邸。

「記念碑が建てられました」

 エルネストが告げる。

 レティシアは静かに頷く。

「石は強いですわね」

「はい」

「紙は書き換えられますが、石は重い」

 彼女は淡く笑う。

「刻むのは、物語ではなく結果です」

 夜。

 セドリックは広場を訪れる。

 灯りに照らされた碑文。

 自分の時代の言葉はない。

 だが否定もない。

 空白。

 空白は、最も強い境界線。

 彼は石に触れない。

 ただ見つめる。

 国家は進んだ。

 自分が中心でなくとも。

 むしろ中心でなかったからこそ。

 最強のざまぁは、罵倒ではない。

 あなたの名を刻まないこと。

 そしてそれが当然に思われること。

 翌朝、観光客が記念碑の前で写真を撮る。

「この時代、安定してるよね」

「うん、安心感ある」

 誰も前史を尋ねない。

 石は語らない。

 語らないことが、完成。

 王都の空は青い。

 石は動かず、
 制度は揺らがず、
 象徴は固定された。

 セドリックは静かに歩き去る。

 名は残る。

 だが刻まれない。

 それが、静かに完成へ近づくざまだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

働きませんわ。それでも王妃になります

鷹 綾
恋愛
「私は働きませんわ」 そう宣言して、王太子から婚約破棄された公爵令嬢エルフィーナ。 社交もしない。慈善もしない。政務にも口を出さない。 “怠け者令嬢”と陰で囁かれる彼女を、王太子アレクシスは「王妃に相応しくない」と切り捨てた。 ――だが彼は知らなかった。 彼女が動かないからこそ、王家は自力で立つことを覚えたのだということを。 エルフィーナは何もしない。 ただ保証を更新せず、支援を継続せず、静かに席を外すだけ。 その結果―― 王家は自らの足で立つことを強いられ、王太子は“誰の力にも頼らない王”へと変わっていく。 やがて外圧が王国を揺らしたとき、彼は気づく。 支配でも依存でもなく、並んで立てる存在が誰だったのかを。 「君と並びたい」 差し出されたのは、甘い救済ではない。 対等という選択。 それでも彼女の答えは変わらない。 「私は働きませんわ」 働かない。 支配しない。 けれど、逃げもしない。 これは―― 働かないまま王妃になる、公爵令嬢の静かなざまあ恋愛譚。 優雅で、合理的で、そしてどこまでも強い。 “何もしない”という最強の選択が、王国を変えていく。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?

わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。 分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。 真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

黒木 楓
恋愛
 子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。  激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。  婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。  婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。  翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

処理中です...