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第10話 巨乳の影に隠れた、本物の輝き
しおりを挟むフラット侯爵家の応接間。
豪奢な装飾が施された部屋の中央には、胸を張りまくる義姉 アンジェリカ が立っていた。
その横には、妖艶な笑みを浮かべる継母 メリッサ。
ふたりとも、胸元が大きく開いたドレスをこれでもかと誇示している。
王子レオナードは、近衛騎士を従えて静かに入室した。
アンジェリカは勢いよく前に進み出て、
これでもかというほど胸を突き出しながら深々と頭を下げた。
「ようこそお越しくださいました、殿下……っ♡
フラット家が誇る豊満な娘、アンジェリカでございます♡」
胸の谷間に宝石が揺れ、
彼女は胸を“揺らすためだけ”にわざとゆっくりと立ち上がる。
だが――レオナードの瞳は微動だにしなかった。
アンジェリカは胸を強調するように肩をすくめ、声のトーンを上げた。
「殿下がお探しなのは……大胆で魅力的な胸を持つ美女と伺いましたわ♡
もしかして……私ではなくて?」
周囲の侍女たちが引きつった顔をする。
だがレオナードは、ただ冷静な声で言った。
「私は、胸の大きさには興味がない」
「えっ……?」
アンジェリカの笑顔がぴたりと固まった。
豊満な胸を揺らしていた動作も、石のように停止する。
継母メリッサも眉を上げた。
「で、ですが殿下……
昨夜、舞踏会で踊られた令嬢は“巨乳”だったと噂で……」
「噂に興味はない。
私は実際に見た。
彼女は胸ではなく――瞳が美しい令嬢だった」
部屋の空気が一瞬にして凍りつく。
アンジェリカの顔色がみるみる青ざめる。
レオナードは淡々と続けた。
「私は昨夜、胸など見ていない。
むしろ――胸を強調しない控えめなドレスを着ていたことが印象深かった」
メリッサとアンジェリカが同時に引きつった。
「つまり……貴女がたのように胸を主張する令嬢では、ない」
王子の言葉は明確で容赦がない。
メリッサは慌てて笑顔を作り直す。
「で、ですが! 殿下!
うちにはもう一人、娘がおりまして……
そちらは控えめな性格でして……胸も控えめ……いえ……かなり控えめ……」
アンジェリカが焦った声で続ける。
「そうなんです!
殿下が胸を重視されないなら……
もしかして、そちらの――」
「その娘に会わせてくれ」
レオナードの声は冷静だが、どこか急いていた。
メリッサとアンジェリカが顔を見合わせる。
「し、シンディのこと……?
でも……あの子は……その……貧乳ですし……」
レオナードは冷ややかな視線を向けた。
「胸の話は二度とするな」
その一言で、二人の顔色は完全に蒼白になった。
---
一方そのころ――
使用人用の廊下の暗がりに、シンディはそっと身を潜めていた。
王子の声が遠くから聞こえてくる。
「控えめな令嬢……
その娘を、ぜひ紹介していただきたい」
シンディの胸が跳ねる。
(ま、まさか……私……!?
でも……だめ……私はもう“魔法が解けた後の胸”なのに……)
メリッサの怒声が響く。
「でも殿下!
シンディは胸が……胸が……」
「胸ではなく“心”だと言ったはずだ」
レオナードの声は優しかった。
シンディの胸が痛んだ。
(どうしてそんな言葉を……
私は胸を理由に蔑まれてきたのに……)
近衛騎士団長の声が響く。
「殿下、家中を捜索いたしますか」
「いや……必要ない。
――彼女はきっと、隠れている」
シンディは息を呑んだ。
(やめて……
本当の姿を見られたら幻滅される……!)
レオナードの声は静かで、温かい。
「昨夜の令嬢が悩んでいたと感じた。
だから、逃げているのだろう」
メリッサが皮肉を混ぜて言う。
「殿下……もしやシンディが昨夜の令嬢だとでも?
ありえませんわ。あの子は……胸が……」
「胸の話はするなと言ったはずだ」
メリッサは黙り、アンジェリカは胸を隠した。
王子の足音が、シンディの隠れている廊下へ近づく。
(やめて……お願い……)
足音は止まらない。
そして――壁のすぐ向こうで、レオナードが優しく言った。
「……あなたが、そこにいるのはわかっています。
出てきてください。
――あなたは、逃げなくていい」
シンディは涙をこぼした。
(そんなふうに言われたの……初めて……)
「胸がどうであれ……
あなたの中の“美しさ”は、変わらない」
シンディの心は揺れ続けていた。
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