貧乳シンデレラは、貧乳を理由に婚約破棄されましたが、元婚約者には未来の可能性が見えていませんでした。

しおしお

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第11話 本当の姿で、彼の前へ

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本当の姿で、彼の前へ

廊下の向こう側で、王子レオナードが静かに呼びかける。

「どうか……出てきてください。
 ――逃げなくていいのです」

その声は、優しくて温かくて、
胸をぎゅっと締めつけるほどまっすぐだった。

シンディは壁にもたれ、両手で胸元を押さえた。

(出るなんて……出られない……
 本当の私は……あの夜の姿とは全然違うのに……)

胸は完全に元の“ほぼ平ら”に戻っている。
魔法の痕跡などどこにもない。
昨夜の堂々としたふくらみは、奇跡のように消えてしまった。

“偽物”の自分を見せた後に“本物”を見せるのは、
あまりにも怖かった。

(王子様に……幻滅される……)

涙がこみ上げる。

だが、王子の声が再び響いた。

「大丈夫です。
 あなたの心が……逃げているだけだ」

(……っ!)

まるで“すべて見抜かれている”ようだった。

逃げる気持ち、劣等感、恐怖。
心をそのまま見透かされたようで、シンディは息を呑む。

「あなたを責めたりしません。
 むしろ……感謝したいのです。
 あの夜を、私に与えてくれたことに」

胸が震える。

(な、なんで……そんなこと……言えるの……)

王子はさらに歩み寄ってくる。

「あなたでなければ、あんな目はできない。
 澄んでいて、強くて……でも、少しだけ寂しげで。
 私は忘れられなかった」

(違う……
 あの時の私は胸を盛っていたの……
 本当の私じゃないのに……
 なんで……そんなふうに言って……)

心が揺れ、震え、ずっと閉じていた扉が少しだけ軋む。

その瞬間――。

「シ、シンディ!! こっちに来なさい!」

継母 メリッサ の怒鳴り声が響き、
シンディはびくっと肩を震わせた。

メリッサは王子の前に無理やり立ちはだかり、
シンディの腕をぐいっと引っ張り出した。

「ほら! この子がうちの“控えめな娘”ですわ!
 胸は……その……控えすぎておりますけれど!」

(控えすぎって言わないで……!)

シンディは顔を真っ赤にして俯き、
必死に胸元を腕で隠した。

王子の視線がか細い光を帯びる。

「……控えめ、ですか」

メリッサは必死だ。

「ええ! 殿下がお探しの令嬢とは違いますわ!
 昨夜の方は巨乳で……」

「胸ではないと言ったはずだ」

レオナードの声が冷たく響き、
メリッサはすぐに黙りこんだ。

シンディは俯いたまま震える手でスカートを握りしめた。

(こ、怖い……
 王子様の目を見るのが怖い……
 本当の私を見られたら……
 “こんな胸だったのか”って思われる……)

その時――。

「顔を……上げてくれませんか」

王子の声が、驚くほど優しく響いた。

シンディは固まった。

(む、無理……!
 顔を上げたら……全部見られる……)

「あなたの瞳を……もう一度、見たいんです」

心臓が跳ねた。

“瞳”と言われるたびに、
魔法ではない部分を見てくれている気がして涙がこぼれそうになる。

だが勇気が出ない。

(また……泣きそうになって……
 みっともない顔を見せたくない……)

王子は一歩近づいた。

「昨夜――
 あなたは、胸ではなく“心”で踊っていました」

(……っ!)

胸が軋む。

涙がどうしてもこらえられない。

ポタリ――
床に一粒の涙が落ちた。

レオナードはその涙を見て、静かに確信したように頷いた。

「やはり……あなたが、昨夜の令嬡だ」

「っ……!」

シンディは慌てて首を横に振った。

「ち、違……!
 違います……!
 私なんか……あの人じゃ……!」

メリッサと アンジェリカ が口々に叫ぶ。

「殿下! シンディなんて論外ですわ!」
「そうです! この子、胸が――」

「胸の話はやめなさい!」

レオナードの強い声が、屋敷の空気を切り裂いた。

メリッサとアンジェリカが黙り込む。

レオナードはシンディだけを見て言った。

「胸が小さいというのなら……それがどうしたのですか?」

シンディの喉が震える。

「あなたは……あなたです。
 本当の姿に、嘘は一つもない」

(そんな……
 そんな言い方……ずるい……)

胸を押さえる手が震え、
涙が次々に溢れてくる。

レオナードはさらに柔らかく微笑んだ。

「名前を……教えてください。
 あなたのことを知りたいのです」

シンディは視線を上げられないまま、小さく震えた声で言う。

「……し……し……ん……」

声が喉に詰まる。

言えない。

言った瞬間に、すべてが現実になってしまう気がして。
“胸の魔法”がなかった自分を見られてしまう気がして。

だが――王子はもう揺らがなかった。

「あなたの名前が“シンディ”であることは、
 最初から……わかっていました」

「……え?」

顔を上げてしまった。

驚きと涙で滲んだ瞳を、王子はまっすぐに受け止める。

「あなたの瞳と微笑みは……“舞踏会の彼女”と同じものです」

その言葉に、シンディは心の底から震えた。

そして――
継母メリッサと義姉アンジェリカの顔は真っ青になっていった。


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