貧乳シンデレラは、貧乳を理由に婚約破棄されましたが、元婚約者には未来の可能性が見えていませんでした。

しおしお

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21 話 父、洗脳の崩壊と“初めての後悔”

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 父、洗脳の崩壊と“初めての後悔”

フラット侯爵リチャードは、王宮法廷からの帰路、馬車の中で一人、震えていた。

豪奢な内装に囲まれた静寂の空間。
だが、その静けさは、不気味なほど胸を締めつける。

「……そんな……馬鹿な……」

揺れる馬車の中で、侯爵は何度も呟いた。

頭の中には、裁判で暴かれた
継母メリッサと義姉アンジェリカの悪行が次々と思い返される。

あれほど可愛がっていた後妻と義娘が――
醜悪な胸差別とシンディへの虐待を繰り返していたなど。

「信じられん……
 いや……信じてはおった。だが……見ようとしなかっただけか……」

目の奥が熱くなっていく。

侯爵はシンディの名前を呼んだ。

「シンディ……」

その声は震えていた。

思い返せば、彼女の母――
侯爵の最初の妻、エリザベート。

気品にあふれ、優しく、賢く、そして胸の豊かな女性だった。

(胸が大きかったから、魅力的だったのではない……
 あれは……心の美しさが、外にも現れていただけだ……)

エリザベートの面影を失うのが怖くて、
胸の大きい女性を“妻の代わり”として選んだ。

それが間違いの始まりだった。

「私は……何という愚かなことを……」

侯爵の拳が震える。

彼は娘シンディのことを思い返した。

昔のシンディは明るく、素直で、よく笑った。
だがメリッサとアンジェリカが来てから、
彼女の笑顔はどんどん減っていった。

理由は分かっていた。
“胸が小さい”というだけで、彼女は家で肩身の狭い思いをしていたからだ。

(私は……知っていながら、何もしてやらなかった)

馬車の窓に映る自分の姿が情けなく映る。

(私は……父親として娘を守るべきだったのに……
 後妻の言葉に依存し、盲信し、
 娘を犠牲にしてきた……)

やり場のない罪悪感が胸をぎゅっと締めつけた。

そのとき、馬車が屋敷の前に到着した。

扉が開く。

使用人たちが沈痛な面持ちで整列していた。
そんな彼らも、法廷での出来事を耳にしたのだろう。

「……侯爵様……」

「申し訳ありませんでした……
 私どもは……シンディ様の苦しみを知りながら……
 何もできませんでした……!」

古参の執事グラントが震えた声で頭を下げた。

侯爵は息を呑んだ。

(シンディは……どれほど孤独だったのだ……
 誰にも味方がいないと思いながら……
 それでも笑おうとしていたのか……?)

涙がこみ上げた。

「……シンディは、今はどこだ」

「……お部屋にお戻りです。
 殿下が送り届けてくださいました」

「レオナード殿下が……?」

侯爵は、娘が王子から選ばれた理由を考える。

(胸の大きさではない……
 心が美しいから……
 私の娘だから、選ばれたのだ)

その瞬間、胸が痛んだ。

彼自身、ずっと“巨乳絶対至上主義”を信じ、
シンディに恥を与え、価値を奪ってきた。

(私は……罪深い父だ……)

泣きそうになるのを必死にこらえながら、
侯爵は急ぎシンディの部屋へ向かった。

使用人たちは遠巻きに見守る。

扉の前に立つと、侯爵の手が震えた。

(シンディに……なんと言えばいい……
 私は父親失格だったと……
 ただ謝るしかないのか……?
 いや、それすら許されないのでは……?)

深呼吸をする。

そして、重い扉をそっと開いた。

部屋の奥。

夕暮れの光の中で、シンディがベッドに腰かけていた。

驚いたように振り向く。

「……お父様?」

小さな声。

侯爵の胸が締めつけられた。

(なんて……なんて優しい声なのだ……
 私はこの声を、何年も聞こうとしなかった……)

侯爵は膝をつき、深く頭を垂れた。

「シンディ……
 私は――
 本当に……すまなかった……!」

床に額が付くほど深く、深く、頭を下げた。

シンディは驚き、目を見開いた。

「お、お父様……?」

侯爵の声は震えていた。

「私は……
 胸の大きさで女の価値を決めるという、
 愚かな教えに囚われておった……
 お前を苦しめておきながら……
 見て見ぬふりをしていた……
 父親として……
 お前を守るべきであったのに……!」

その声は、娘を失う恐怖に満ちていた。

シンディは胸を押さえ、そっと侯爵に近づくと――
彼の肩に触れた。

「……お父様。
 私はもう……大丈夫です」

その言葉に侯爵は泣きそうになり、唇を震わせた。

「だが……!
 お前はずっと……孤独で……
 私が……お前の苦しみに気づけていれば……!」

シンディは小さく首を振った。

「気づいてくださったのなら……それで十分です」

その微笑みは、エリザベートの面影そのものだった。

侯爵の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

「シンディ……
 私はこれから……
 胸ではなく、心で人を見て生きる……
 お前が教えてくれたのだ……
 何が本当の美しさなのか……!」

その瞬間――
長年の胸差別洗脳で凝り固まっていた侯爵の価値観が
音を立てて崩れた。

そして、フラット侯爵家は
娘シンディの優しさによって、
初めて“再生”への一歩を踏み出した。

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