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4 婚約者交換の提案
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4 婚約者交換の提案
その日の夕刻、ランベール侯爵家の空気は、昼間よりさらに重くなっていた。
ギルベルト・ド・ロシュフォールが帰ったあと、屋敷の使用人たちは皆、必要以上に静かに動いていた。銀器の触れ合う音も、廊下を行き交う足音も、どこか遠慮がちだ。誰もが察しているのだろう。侯爵家の長女の婚約が、ただならぬ形で揺らいでいることを。
フィオレッタは自室でアルディシア公国の地図を広げていたが、文字はほとんど頭に入ってこなかった。
昼間、ギルベルトと向き合ったことで、むしろ気持ちは妙に澄んでいた。あの男に未練を抱く必要はないと、はっきり理解できたからだ。だが、理解と納得は別だった。
奪われることへの悔しさ。
軽く扱われたことへの怒り。
家族に「お前なら耐えられる」と当然のように見なされていることへの、静かで深い失望。
そうしたものが、胸の奥に沈殿している。
「お嬢様」
エマが扉をノックして入ってくる。
「旦那様が、改めてお話があると……。大食堂ではなく、小応接間へとのことです」
フィオレッタは地図から顔を上げた。
「お父様お一人?」
「いえ……奥様とカトリーヌ様も」
やはり、と彼女は思った。
今日のうちに決めるつもりなのだろう。昼間、ギルベルトが来たことで、もう外堀は埋まりつつある。父はおそらく、今夜のうちに侯爵家としての方針を固めたいのだ。
フィオレッタは静かに立ち上がった。
「わかったわ。行きます」
エマが彼女の髪を軽く整える。
「……お嬢様、どうかご無理は」
「無理をしないで済む家族なら、こんな呼ばれ方はしないでしょうね」
少しだけ皮肉が混じったが、エマは何も言わなかった。ただ心配そうに目を伏せる。
フィオレッタは自分でも驚くほど落ち着いていた。
もう、何が来るのかおおよそ見えているからかもしれない。
小応接間は、普段なら家族だけの相談に使う部屋だった。大応接間ほど格式ばってはいないが、それでも侯爵家らしい重みのある家具と調度が整っている。壁際には濃い木目の飾り棚、暖炉の上には祖先の肖像画、中央には四人掛けの丸テーブル。
家族の話し合いにちょうどいい大きさだ。
もっとも、今この部屋にあるのは家族の温もりではなく、決定事項を押しつけるための閉じた空気だった。
父はすでに着席していた。義母はその斜め向かい、カトリーヌは少し父寄りに座っている。フィオレッタが入ると、三人の視線がいっせいに向いた。
「来たか」
父が低く言う。
「座りなさい」
フィオレッタは勧められた席に腰を下ろした。やはり、父の正面ではなく少し外れた位置だった。こういう小さなことが、ひどく癇に障る夜だった。
しばしの沈黙ののち、父が口を開く。
「本日は、結論を出さねばならん」
単刀直入だった。
「ロシュフォール家も、アルディシア公国側も、いつまでも曖昧な返答では済まぬ。侯爵家として、どうするかを決める」
フィオレッタは父を見つめた。
「私に選ぶ余地はございますか」
父の顔に苦い色が差す。
「そういう言い方をするな」
「では、どういう言い方をすればよろしいのでしょう。すでに皆様の中で答えが決まっているように見えます」
義母が静かに息を吐いた。
「フィオレッタさん。あなた、少し刺々しすぎるわ」
「自分の婚約が他人の都合で入れ替えられようとしている時に、穏やかでいられる令嬢がそう多くいるとは思えませんわ」
義母の眉がぴくりと動く。
だが父が先に手を上げた。
「もうよい。感情の応酬をしたいのではない」
では何をしたいのかしら。結論の宣告でしょうに。
口には出さず、フィオレッタは黙った。
父は重々しく言った。
「カトリーヌの婚約については、本人の不安が大きすぎる。アルディシア公国への嫁入りは、本人にとって過酷だ」
フィオレッタは一瞬だけ目を閉じた。
まずそこから始まるのね。
義妹の不安。
義妹の恐れ。
義妹の負担。
この家の話し合いで、最初に置かれるのはいつもそこだ。
「一方で」
父が続ける。
「ロシュフォール公子は、カトリーヌを望んでいる。これはもう、無視できぬ」
「本人が望めば、婚約は取り替えてよいと?」
フィオレッタが静かに返すと、父の表情が険しくなる。
「だから、そう単純な話ではないと言っているだろう」
「では、どう複雑なのでしょう」
義母が口を挟む。
「家と家との釣り合いの問題です。ロシュフォール家との縁を失うわけにはいきませんし、アルディシア公国との関係も壊したくない。その両方を保つためには、最も穏便な形を探るしかないのです」
「穏便」
フィオレッタはその言葉を繰り返した。
「私の婚約を義妹へ差し出し、私はその代わりに異国へ送られる。ずいぶん都合のよい穏便さですこと」
「お姉様……」
カトリーヌが、今にも泣きそうな顔で口を開く。
「私は、お姉様を追い出したいわけではないのです。ただ……本当に怖くて……」
「怖いから、私が行けばいい?」
「お姉様ならきっと、うまくやっていけますわ」
フィオレッタは、義妹の顔をじっと見た。
薄い色の瞳が潤み、頬は青白く、唇もわずかに震えている。守ってやりたくなるような表情だ。だがフィオレッタにはもう、それが善良さの証には見えなかった。
怖いのだろう。たぶん本当に。
だがその恐怖は、他人の人生を踏み台にしてよい免罪符ではない。
「カトリーヌ」
フィオレッタは静かに言った。
「ひとつだけ、はっきりさせたいわ」
義妹が怯えたように肩を縮める。
「あなたは、アルディシア公国へ嫁ぐのが嫌なのね」
「……はい」
「だから、私と婚約者を交換したい」
「そ、それは……」
「違うの?」
カトリーヌは父と義母をちらりと見た。それだけで十分だった。自分一人では何も言い切れない。いつも誰かの庇護の中でしか願いを口にできない。
「私は……」
義妹はか細い声で言った。
「ギルベルト様のおそばなら、安心できると思ったのです」
「そう」
「お姉様だって、フェリクス様のようなお方のほうがお似合いですわ。立派で、冷静で、お姉様みたいな方ならきっと……」
「似合うかどうかの話ではないでしょう」
フィオレッタは遮った。
「あなたは自分が嫌だから、私へ押しつけたいのよ」
カトリーヌの目にまた涙が浮かぶ。
「そんな言い方……」
「では、どう言えばいいの?」
「お姉様は、どうしてそんなに……」
義母がすぐに娘の背を撫でる。
「もういいのよ、カトリーヌ。無理に答えなくてよいわ」
その光景に、フィオレッタはかえって冷静になった。
結局こうなるのだ。自分が問いを投げれば、義妹は泣く。義母が庇う。父は面倒そうに沈黙する。そして話は「傷ついた妹をこれ以上追い詰めるな」という方向へ転がっていく。
いつも同じ。
ずっと同じ。
「お父様」
フィオレッタは父に向き直った。
「つまり、侯爵家としては婚約者交換をお考えなのですね」
父はしばらく黙っていたが、やがて重くうなずいた。
「……現実的には、それが最善だ」
はっきり言われると、不思議と胸は静かだった。
やはりそうだったのだと、どこかで納得している自分がいた。
「最善」
フィオレッタはその言葉を噛みしめた。
「誰にとっての、ですか」
「家にとってだ」
「私ではなく」
「お前も侯爵家の一員だ」
そう返されて、フィオレッタは少し笑った。
自嘲に近い笑みだった。
「便利ですのね。“家”という言葉は」
「フィオレッタ!」
「だってそうでしょう? 私個人の意思は問わない。けれど従わないなら、“家の一員としての務め”を果たさぬことになる。ずいぶん使い勝手のよい言葉ですこと」
父は眉間を押さえた。
「お前は、なぜそう言葉を尖らせる」
「尖らせているのではありません。ようやく正直に申し上げているだけです」
フィオレッタは背筋を伸ばしたまま言った。
「これまで私は、長女として、侯爵家の娘として、ずっと“耐える側”でした。母を亡くした時も、婚約が決まった時も、ギルベルト様が冷たくても、家のためだと飲み込んできました。でも今回は、その果てに婚約者まで差し出せと仰るのですね」
義母が、わずかに顔をしかめる。
「差し出すだなんて、大げさよ。あなたにはあなたで、より良い縁談があるではありませんか。フェリクス・アルディシア公爵など、身分も実力も申し分ないお方でしょう」
「ええ。立派なお方だと伺っています」
フィオレッタは認めた。
「ですがそれは、“余り物ではない交換先があるから我慢しなさい”という話でしかありません」
義母の唇が引き結ばれる。
カトリーヌはもう、泣き顔のままほとんど口を挟まない。いや、挟む必要がないのだろう。自分はただ怯えていればいい。あとは母と父がなんとかしてくれるのだから。
父が低く言った。
「お前にも、不満はあるだろう」
「ございます」
「だが、感情だけでは済まぬ。ロシュフォール家もアルディシア公国も、相手は大きい。侯爵家一つの意地でどうにかなるものではない」
「ですから私が呑み込め、と」
「お前ならできる」
その一言に、フィオレッタの目がほんのわずかに細くなった。
またそれだ。
できる。
耐えられる。
しっかりしている。
だから押しつけてもよい。
「お父様」
彼女は穏やかに言った。
「私は“できるから差し出してよいもの”ではありません」
父が何か言おうとした、その時だった。
カトリーヌが、ぽろぽろと涙をこぼしながら立ち上がった。
「私が悪いのですわ……!」
かすれた悲鳴のような声だった。
「私が、弱いから……お姉様を困らせて……でも、本当に怖いのですもの……! あんな遠い国へ行って、知らない人たちの中で、もし愛されなかったらと思うと……」
その言葉に、フィオレッタはふと引っかかった。
愛されなかったら。
そこなのね、と彼女は思った。
カトリーヌは異国が怖いのではない。自分がちやほやされず、庇われず、甘やかされない場所へ行くのが怖いのだ。だから、甘く守ってくれそうな男のほうへ縋ろうとしている。
「お姉様は違うでしょう?」
カトリーヌが泣きながら言う。
「お姉様は立派で、何でもおできになって、誰にだって認められる。だから私みたいな気持ちなんて、わからないのですわ……!」
フィオレッタは、義妹を見た。
その顔には哀れさと狡さが同居していた。
「ええ、わからないわ」
静かに答える。
「少なくとも私は、自分が怖いからといって人の婚約を欲しがったことはないもの」
カトリーヌが息を呑んだ。
義母が鋭く立ち上がる。
「フィオレッタさん!」
「違いますか」
「あなた、妹がここまで苦しんでいるのに……!」
「苦しんでいるから何をしても許されるのですか?」
義母の顔色が変わる。父も厳しい顔をした。
だが、もう止まれなかった。
「私は何度も申し上げました。怖いことと、間違ったことは別です。カトリーヌは怖いのでしょう。けれど、だからといって私を悪者にし、ギルベルト様へ泣きつき、婚約者交換を望んでよい理由にはなりません」
「私は……!」
カトリーヌが震える。
「私は、そこまで大それたことをしたつもりでは……」
「そうでしょうね」
フィオレッタは言った。
「あなたはいつも、“自分はかわいそうなだけ”という顔をしているもの。でも、その顔のまま、人の立場も未来も奪えるのよ」
ぱちん、と乾いた音がした。
義母が、テーブルに手をついて立ち上がっていた。
「もう結構です!」
その声は、珍しく感情を露わにしていた。
「あなたは昔からカトリーヌに厳しすぎるのです。あの子が可憐で守られる子だから、妬んでいるのではなくて?」
その言葉に、部屋の空気が凍りつく。
父でさえ、さすがに顔をしかめた。
だがフィオレッタは驚かなかった。
ああ、とうとうそこまで言うのね、と思っただけだった。
「妬んでいる」
ゆっくり繰り返す。
「ええ」
義母は息を荒くしながら言った。
「あなたは完璧であろうとしてきた。でも女として愛されるのは、必ずしもそういう子ではないのです。カトリーヌのように、やわらかく、か弱く、守ってあげたくなる子を男は選ぶものなのよ」
なるほど、とフィオレッタは思った。
それがこの人の本音だったのだ。
正しい長女より、可憐な娘。
耐える姉より、泣く妹。
そして男に選ばれるのは後者。だから奪われても仕方がない、と。
フィオレッタはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「でしたら、お義母様のお望み通りになさいませ」
三人が一斉に彼女を見た。
父の目には警戒が、義母の目には一瞬の勝利の色が、カトリーヌの目には涙と不安が入り混じっている。
フィオレッタは背筋を崩さないまま続けた。
「婚約者交換を、侯爵家として望むのでしょう? ならばそのように進めればよろしいではありませんか」
「フィオレッタ」
父が低く名を呼ぶ。
「……承諾するというのか」
「承諾も何も、最初から私に拒否権はありませんでしたでしょう」
「そんなことは」
「ございます」
父の言葉をきっぱりと断ち切る。
「私が嫌だと言って、この話が止まりますか? カトリーヌが泣き、ロシュフォール家が望み、侯爵家が穏便な形を求めている。そこに私の意思を通す余地があるなら、最初からここまで進んでいませんわ」
父は黙る。
その沈黙こそが答えだった。
フィオレッタはそのまま、まっすぐカトリーヌを見た。
義妹は怯えたように目を揺らしている。
「ただし、勘違いしないでちょうだい」
静かな声だった。
「私はあなたのために譲るのではありません。家が、そうせよと決めたから従うだけです」
「お姉様……」
「感謝もいりませんわ。あなたはただ、自分で望んだものを受け取りなさい。そしてその先に何があっても、それはあなたが選んだ結果です」
カトリーヌの唇が震える。
たぶん、こういう言葉を想像していなかったのだろう。泣いて謝れば、曖昧に許されると思っていたのかもしれない。
義母が不満そうに言う。
「ずいぶん冷たいこと」
「冷たいのではなく、線引きです」
フィオレッタは立ち上がった。
「この件について、私から申し上げることは以上です」
「待ちなさい」
父が呼び止める。
「まだアルディシア公国側への正式な返答も、ロシュフォール家との細部も残っている」
「承知しております」
フィオレッタは父を見た。
「ですが、お父様。どうかお忘れなく。これは侯爵家が選んだことです。私が望んだことではありません」
父の顔に、苦い影が差す。
フィオレッタはそれ以上何も言わず、一礼して部屋を出た。
廊下に出た瞬間、張りつめていたものが少しだけ揺らいだ。
奪われた。
とうとう、はっきりと。
まだ正式な手続きは残っているとしても、侯爵家の中では決まったのだ。自分の婚約者は義妹へ渡り、自分はその代わりとして異国へ嫁ぐ。
代わり。
その言葉が、ひどく胸に刺さった。
「お嬢様!」
廊下の先で待っていたエマが駆け寄る。
「いかがでしたか」
フィオレッタは少しだけ目を閉じ、それから小さく笑った。
「決まったわ」
エマの顔が青ざめる。
「……そんな」
「ええ。侯爵家としては、婚約者交換が最善なのですって」
エマが唇を噛む。
「ご無礼を承知で申し上げます。皆様、あまりに勝手でございます」
「本当にそうね」
フィオレッタは窓辺まで歩き、夜の庭を見た。もう日が落ちて、薔薇の若い葉も暗がりに沈んでいる。
「でも、決まったのなら仕方がないわ」
「お嬢様……」
「ただ」
彼女は夜の窓に映る自分の顔を見た。
泣いていない。崩れてもいない。驚くほど静かな顔だった。
「私は、この家の都合でそうなるのだということを、忘れない」
エマは何も言わなかった。ただ、そっと頭を下げる。
フィオレッタはゆっくり息を吐いた。
ギルベルトを失うことよりも、家にこうして扱われたことのほうが、今はよほど痛かった。
けれどその痛みの奥で、別の感情も芽生えていた。
もう、この家に期待してはいけない。
もう、誰かが自分のために立ってくれると考えてはいけない。
ならばせめて、自分だけは自分を見捨てないことだ。
「エマ」
「はい」
「アルディシア公国の資料、明日からさらに増やしてちょうだい。言葉だけでなく、社交界の派閥も、宮廷の慣習も、全部」
エマは目を潤ませながらも、しっかりとうなずいた。
「かしこまりました」
フィオレッタは夜空を見上げた。
遠い異国。
義妹が嫌がった場所。
自分の意志とは無関係に差し出される未来。
それでも――ただ捨てられるために行くのではない。
そう思った瞬間、胸の奥で何かが静かに固まった。
奪われたままで終わるつもりはない。
たとえすべての始まりが、他人の身勝手だったとしても。
その日の夕刻、ランベール侯爵家の空気は、昼間よりさらに重くなっていた。
ギルベルト・ド・ロシュフォールが帰ったあと、屋敷の使用人たちは皆、必要以上に静かに動いていた。銀器の触れ合う音も、廊下を行き交う足音も、どこか遠慮がちだ。誰もが察しているのだろう。侯爵家の長女の婚約が、ただならぬ形で揺らいでいることを。
フィオレッタは自室でアルディシア公国の地図を広げていたが、文字はほとんど頭に入ってこなかった。
昼間、ギルベルトと向き合ったことで、むしろ気持ちは妙に澄んでいた。あの男に未練を抱く必要はないと、はっきり理解できたからだ。だが、理解と納得は別だった。
奪われることへの悔しさ。
軽く扱われたことへの怒り。
家族に「お前なら耐えられる」と当然のように見なされていることへの、静かで深い失望。
そうしたものが、胸の奥に沈殿している。
「お嬢様」
エマが扉をノックして入ってくる。
「旦那様が、改めてお話があると……。大食堂ではなく、小応接間へとのことです」
フィオレッタは地図から顔を上げた。
「お父様お一人?」
「いえ……奥様とカトリーヌ様も」
やはり、と彼女は思った。
今日のうちに決めるつもりなのだろう。昼間、ギルベルトが来たことで、もう外堀は埋まりつつある。父はおそらく、今夜のうちに侯爵家としての方針を固めたいのだ。
フィオレッタは静かに立ち上がった。
「わかったわ。行きます」
エマが彼女の髪を軽く整える。
「……お嬢様、どうかご無理は」
「無理をしないで済む家族なら、こんな呼ばれ方はしないでしょうね」
少しだけ皮肉が混じったが、エマは何も言わなかった。ただ心配そうに目を伏せる。
フィオレッタは自分でも驚くほど落ち着いていた。
もう、何が来るのかおおよそ見えているからかもしれない。
小応接間は、普段なら家族だけの相談に使う部屋だった。大応接間ほど格式ばってはいないが、それでも侯爵家らしい重みのある家具と調度が整っている。壁際には濃い木目の飾り棚、暖炉の上には祖先の肖像画、中央には四人掛けの丸テーブル。
家族の話し合いにちょうどいい大きさだ。
もっとも、今この部屋にあるのは家族の温もりではなく、決定事項を押しつけるための閉じた空気だった。
父はすでに着席していた。義母はその斜め向かい、カトリーヌは少し父寄りに座っている。フィオレッタが入ると、三人の視線がいっせいに向いた。
「来たか」
父が低く言う。
「座りなさい」
フィオレッタは勧められた席に腰を下ろした。やはり、父の正面ではなく少し外れた位置だった。こういう小さなことが、ひどく癇に障る夜だった。
しばしの沈黙ののち、父が口を開く。
「本日は、結論を出さねばならん」
単刀直入だった。
「ロシュフォール家も、アルディシア公国側も、いつまでも曖昧な返答では済まぬ。侯爵家として、どうするかを決める」
フィオレッタは父を見つめた。
「私に選ぶ余地はございますか」
父の顔に苦い色が差す。
「そういう言い方をするな」
「では、どういう言い方をすればよろしいのでしょう。すでに皆様の中で答えが決まっているように見えます」
義母が静かに息を吐いた。
「フィオレッタさん。あなた、少し刺々しすぎるわ」
「自分の婚約が他人の都合で入れ替えられようとしている時に、穏やかでいられる令嬢がそう多くいるとは思えませんわ」
義母の眉がぴくりと動く。
だが父が先に手を上げた。
「もうよい。感情の応酬をしたいのではない」
では何をしたいのかしら。結論の宣告でしょうに。
口には出さず、フィオレッタは黙った。
父は重々しく言った。
「カトリーヌの婚約については、本人の不安が大きすぎる。アルディシア公国への嫁入りは、本人にとって過酷だ」
フィオレッタは一瞬だけ目を閉じた。
まずそこから始まるのね。
義妹の不安。
義妹の恐れ。
義妹の負担。
この家の話し合いで、最初に置かれるのはいつもそこだ。
「一方で」
父が続ける。
「ロシュフォール公子は、カトリーヌを望んでいる。これはもう、無視できぬ」
「本人が望めば、婚約は取り替えてよいと?」
フィオレッタが静かに返すと、父の表情が険しくなる。
「だから、そう単純な話ではないと言っているだろう」
「では、どう複雑なのでしょう」
義母が口を挟む。
「家と家との釣り合いの問題です。ロシュフォール家との縁を失うわけにはいきませんし、アルディシア公国との関係も壊したくない。その両方を保つためには、最も穏便な形を探るしかないのです」
「穏便」
フィオレッタはその言葉を繰り返した。
「私の婚約を義妹へ差し出し、私はその代わりに異国へ送られる。ずいぶん都合のよい穏便さですこと」
「お姉様……」
カトリーヌが、今にも泣きそうな顔で口を開く。
「私は、お姉様を追い出したいわけではないのです。ただ……本当に怖くて……」
「怖いから、私が行けばいい?」
「お姉様ならきっと、うまくやっていけますわ」
フィオレッタは、義妹の顔をじっと見た。
薄い色の瞳が潤み、頬は青白く、唇もわずかに震えている。守ってやりたくなるような表情だ。だがフィオレッタにはもう、それが善良さの証には見えなかった。
怖いのだろう。たぶん本当に。
だがその恐怖は、他人の人生を踏み台にしてよい免罪符ではない。
「カトリーヌ」
フィオレッタは静かに言った。
「ひとつだけ、はっきりさせたいわ」
義妹が怯えたように肩を縮める。
「あなたは、アルディシア公国へ嫁ぐのが嫌なのね」
「……はい」
「だから、私と婚約者を交換したい」
「そ、それは……」
「違うの?」
カトリーヌは父と義母をちらりと見た。それだけで十分だった。自分一人では何も言い切れない。いつも誰かの庇護の中でしか願いを口にできない。
「私は……」
義妹はか細い声で言った。
「ギルベルト様のおそばなら、安心できると思ったのです」
「そう」
「お姉様だって、フェリクス様のようなお方のほうがお似合いですわ。立派で、冷静で、お姉様みたいな方ならきっと……」
「似合うかどうかの話ではないでしょう」
フィオレッタは遮った。
「あなたは自分が嫌だから、私へ押しつけたいのよ」
カトリーヌの目にまた涙が浮かぶ。
「そんな言い方……」
「では、どう言えばいいの?」
「お姉様は、どうしてそんなに……」
義母がすぐに娘の背を撫でる。
「もういいのよ、カトリーヌ。無理に答えなくてよいわ」
その光景に、フィオレッタはかえって冷静になった。
結局こうなるのだ。自分が問いを投げれば、義妹は泣く。義母が庇う。父は面倒そうに沈黙する。そして話は「傷ついた妹をこれ以上追い詰めるな」という方向へ転がっていく。
いつも同じ。
ずっと同じ。
「お父様」
フィオレッタは父に向き直った。
「つまり、侯爵家としては婚約者交換をお考えなのですね」
父はしばらく黙っていたが、やがて重くうなずいた。
「……現実的には、それが最善だ」
はっきり言われると、不思議と胸は静かだった。
やはりそうだったのだと、どこかで納得している自分がいた。
「最善」
フィオレッタはその言葉を噛みしめた。
「誰にとっての、ですか」
「家にとってだ」
「私ではなく」
「お前も侯爵家の一員だ」
そう返されて、フィオレッタは少し笑った。
自嘲に近い笑みだった。
「便利ですのね。“家”という言葉は」
「フィオレッタ!」
「だってそうでしょう? 私個人の意思は問わない。けれど従わないなら、“家の一員としての務め”を果たさぬことになる。ずいぶん使い勝手のよい言葉ですこと」
父は眉間を押さえた。
「お前は、なぜそう言葉を尖らせる」
「尖らせているのではありません。ようやく正直に申し上げているだけです」
フィオレッタは背筋を伸ばしたまま言った。
「これまで私は、長女として、侯爵家の娘として、ずっと“耐える側”でした。母を亡くした時も、婚約が決まった時も、ギルベルト様が冷たくても、家のためだと飲み込んできました。でも今回は、その果てに婚約者まで差し出せと仰るのですね」
義母が、わずかに顔をしかめる。
「差し出すだなんて、大げさよ。あなたにはあなたで、より良い縁談があるではありませんか。フェリクス・アルディシア公爵など、身分も実力も申し分ないお方でしょう」
「ええ。立派なお方だと伺っています」
フィオレッタは認めた。
「ですがそれは、“余り物ではない交換先があるから我慢しなさい”という話でしかありません」
義母の唇が引き結ばれる。
カトリーヌはもう、泣き顔のままほとんど口を挟まない。いや、挟む必要がないのだろう。自分はただ怯えていればいい。あとは母と父がなんとかしてくれるのだから。
父が低く言った。
「お前にも、不満はあるだろう」
「ございます」
「だが、感情だけでは済まぬ。ロシュフォール家もアルディシア公国も、相手は大きい。侯爵家一つの意地でどうにかなるものではない」
「ですから私が呑み込め、と」
「お前ならできる」
その一言に、フィオレッタの目がほんのわずかに細くなった。
またそれだ。
できる。
耐えられる。
しっかりしている。
だから押しつけてもよい。
「お父様」
彼女は穏やかに言った。
「私は“できるから差し出してよいもの”ではありません」
父が何か言おうとした、その時だった。
カトリーヌが、ぽろぽろと涙をこぼしながら立ち上がった。
「私が悪いのですわ……!」
かすれた悲鳴のような声だった。
「私が、弱いから……お姉様を困らせて……でも、本当に怖いのですもの……! あんな遠い国へ行って、知らない人たちの中で、もし愛されなかったらと思うと……」
その言葉に、フィオレッタはふと引っかかった。
愛されなかったら。
そこなのね、と彼女は思った。
カトリーヌは異国が怖いのではない。自分がちやほやされず、庇われず、甘やかされない場所へ行くのが怖いのだ。だから、甘く守ってくれそうな男のほうへ縋ろうとしている。
「お姉様は違うでしょう?」
カトリーヌが泣きながら言う。
「お姉様は立派で、何でもおできになって、誰にだって認められる。だから私みたいな気持ちなんて、わからないのですわ……!」
フィオレッタは、義妹を見た。
その顔には哀れさと狡さが同居していた。
「ええ、わからないわ」
静かに答える。
「少なくとも私は、自分が怖いからといって人の婚約を欲しがったことはないもの」
カトリーヌが息を呑んだ。
義母が鋭く立ち上がる。
「フィオレッタさん!」
「違いますか」
「あなた、妹がここまで苦しんでいるのに……!」
「苦しんでいるから何をしても許されるのですか?」
義母の顔色が変わる。父も厳しい顔をした。
だが、もう止まれなかった。
「私は何度も申し上げました。怖いことと、間違ったことは別です。カトリーヌは怖いのでしょう。けれど、だからといって私を悪者にし、ギルベルト様へ泣きつき、婚約者交換を望んでよい理由にはなりません」
「私は……!」
カトリーヌが震える。
「私は、そこまで大それたことをしたつもりでは……」
「そうでしょうね」
フィオレッタは言った。
「あなたはいつも、“自分はかわいそうなだけ”という顔をしているもの。でも、その顔のまま、人の立場も未来も奪えるのよ」
ぱちん、と乾いた音がした。
義母が、テーブルに手をついて立ち上がっていた。
「もう結構です!」
その声は、珍しく感情を露わにしていた。
「あなたは昔からカトリーヌに厳しすぎるのです。あの子が可憐で守られる子だから、妬んでいるのではなくて?」
その言葉に、部屋の空気が凍りつく。
父でさえ、さすがに顔をしかめた。
だがフィオレッタは驚かなかった。
ああ、とうとうそこまで言うのね、と思っただけだった。
「妬んでいる」
ゆっくり繰り返す。
「ええ」
義母は息を荒くしながら言った。
「あなたは完璧であろうとしてきた。でも女として愛されるのは、必ずしもそういう子ではないのです。カトリーヌのように、やわらかく、か弱く、守ってあげたくなる子を男は選ぶものなのよ」
なるほど、とフィオレッタは思った。
それがこの人の本音だったのだ。
正しい長女より、可憐な娘。
耐える姉より、泣く妹。
そして男に選ばれるのは後者。だから奪われても仕方がない、と。
フィオレッタはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「でしたら、お義母様のお望み通りになさいませ」
三人が一斉に彼女を見た。
父の目には警戒が、義母の目には一瞬の勝利の色が、カトリーヌの目には涙と不安が入り混じっている。
フィオレッタは背筋を崩さないまま続けた。
「婚約者交換を、侯爵家として望むのでしょう? ならばそのように進めればよろしいではありませんか」
「フィオレッタ」
父が低く名を呼ぶ。
「……承諾するというのか」
「承諾も何も、最初から私に拒否権はありませんでしたでしょう」
「そんなことは」
「ございます」
父の言葉をきっぱりと断ち切る。
「私が嫌だと言って、この話が止まりますか? カトリーヌが泣き、ロシュフォール家が望み、侯爵家が穏便な形を求めている。そこに私の意思を通す余地があるなら、最初からここまで進んでいませんわ」
父は黙る。
その沈黙こそが答えだった。
フィオレッタはそのまま、まっすぐカトリーヌを見た。
義妹は怯えたように目を揺らしている。
「ただし、勘違いしないでちょうだい」
静かな声だった。
「私はあなたのために譲るのではありません。家が、そうせよと決めたから従うだけです」
「お姉様……」
「感謝もいりませんわ。あなたはただ、自分で望んだものを受け取りなさい。そしてその先に何があっても、それはあなたが選んだ結果です」
カトリーヌの唇が震える。
たぶん、こういう言葉を想像していなかったのだろう。泣いて謝れば、曖昧に許されると思っていたのかもしれない。
義母が不満そうに言う。
「ずいぶん冷たいこと」
「冷たいのではなく、線引きです」
フィオレッタは立ち上がった。
「この件について、私から申し上げることは以上です」
「待ちなさい」
父が呼び止める。
「まだアルディシア公国側への正式な返答も、ロシュフォール家との細部も残っている」
「承知しております」
フィオレッタは父を見た。
「ですが、お父様。どうかお忘れなく。これは侯爵家が選んだことです。私が望んだことではありません」
父の顔に、苦い影が差す。
フィオレッタはそれ以上何も言わず、一礼して部屋を出た。
廊下に出た瞬間、張りつめていたものが少しだけ揺らいだ。
奪われた。
とうとう、はっきりと。
まだ正式な手続きは残っているとしても、侯爵家の中では決まったのだ。自分の婚約者は義妹へ渡り、自分はその代わりとして異国へ嫁ぐ。
代わり。
その言葉が、ひどく胸に刺さった。
「お嬢様!」
廊下の先で待っていたエマが駆け寄る。
「いかがでしたか」
フィオレッタは少しだけ目を閉じ、それから小さく笑った。
「決まったわ」
エマの顔が青ざめる。
「……そんな」
「ええ。侯爵家としては、婚約者交換が最善なのですって」
エマが唇を噛む。
「ご無礼を承知で申し上げます。皆様、あまりに勝手でございます」
「本当にそうね」
フィオレッタは窓辺まで歩き、夜の庭を見た。もう日が落ちて、薔薇の若い葉も暗がりに沈んでいる。
「でも、決まったのなら仕方がないわ」
「お嬢様……」
「ただ」
彼女は夜の窓に映る自分の顔を見た。
泣いていない。崩れてもいない。驚くほど静かな顔だった。
「私は、この家の都合でそうなるのだということを、忘れない」
エマは何も言わなかった。ただ、そっと頭を下げる。
フィオレッタはゆっくり息を吐いた。
ギルベルトを失うことよりも、家にこうして扱われたことのほうが、今はよほど痛かった。
けれどその痛みの奥で、別の感情も芽生えていた。
もう、この家に期待してはいけない。
もう、誰かが自分のために立ってくれると考えてはいけない。
ならばせめて、自分だけは自分を見捨てないことだ。
「エマ」
「はい」
「アルディシア公国の資料、明日からさらに増やしてちょうだい。言葉だけでなく、社交界の派閥も、宮廷の慣習も、全部」
エマは目を潤ませながらも、しっかりとうなずいた。
「かしこまりました」
フィオレッタは夜空を見上げた。
遠い異国。
義妹が嫌がった場所。
自分の意志とは無関係に差し出される未来。
それでも――ただ捨てられるために行くのではない。
そう思った瞬間、胸の奥で何かが静かに固まった。
奪われたままで終わるつもりはない。
たとえすべての始まりが、他人の身勝手だったとしても。
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