白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお

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第26話 「私は今、とても幸せです」——その言葉に、彼は微笑む

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ラディスの静かな怒りに圧され、侯爵家の空気が揺らいだ。

しかし父は、まだ諦めていなかった。

「……ふん。
夫婦の問題だと言われてもな。
白い結婚だと聞いている」

言葉には露骨な嘲笑が滲んでいる。

母も同調し、冷たく笑った。

「そうよ。
どうせあなたたち、形だけでしょう?
いまさら“妻だ”なんて、格好をつけたところで無駄よ」

弟のひとりが言い放った。

「公爵様だって、本気で姉さんを必要としてるわけじゃないだろ?
白い結婚なんだから、家に戻したって問題ないはずだ」

屋敷の空気が、ぎゅっと凍る。

ラディスは瞳に冷たい光を宿しながらも、
あえて何も言わなかった。

代わりに——
リオラへ視線を向けた。

(……私が言うべき、なのかな)

リオラはゆっくりと深呼吸する。

震えている。
けれどその震えは怖さではなく、覚悟のせいだった。

「……確かに、白い結婚から始まりました」

家族の視線がピクリと動く。

リオラはまっすぐ父母を見据えた。

「でも、私は——ここでの生活が幸せです」

一瞬、時間が止まった。

「幸せ……だと?」

父が信じられないものを見るような顔になる。

「ええ。
旦那様も、エミも、屋敷の人たちも、村の皆さんも……
とても優しくしてくれます」

言葉を積み重ねるごとに、胸の中の温かさが広がる。

「毎日が、穏やかで。
初めてなんです……“ここにいていい”って思える場所ができたのは」

母が鼻で笑った。

「こんな辺境で? 公爵家とはいえ、こんな田舎の——」

「場所じゃないんです!」

リオラは初めて、声を張り上げた。

自分でも驚くほど強い声だった。

「大事なのは“誰と暮らすか”です。
私は……ラディス様と過ごすこの日々が——すごく、大切なんです」

その瞬間。

リオラの横で、ラディスが小さく息を呑んだ気配がした。

「あなたたちの言う“便利”になるために戻るつもりはありません。
私は……今の生活を、守りたい」

言い切った。

沈黙。
侯爵家の面々は、まるで理解できないという顔をしていた。

父が苦々しくつぶやく。

「……白い結婚のくせに」

「だから違うと言っている」

静かに、しかし鋭い声。

ラディスがついに口を開いた。

「君が幸せだと言った。それがすべてだ」

その短い一言が、胸を震わせるほど力強い。

リオラは気づいてしまった。

ラディスの横顔が——
今まで見た中で、一番柔らかく微笑んでいることに。

(ラディス……)

その笑みは“確信”の笑みだった。

リオラが自分のもとにいたいと言ってくれた。
それ以上の幸せはない——そう語っていた。


---

父は舌打ちし、

「……帰るぞ」

と吐き捨てた。

母も弟たちも、悔しげにリオラを睨みつけながら踵を返す。

だがリオラは、もう揺るがなかった。

ラディスがそっと寄り添い、言葉を落とす。

「よく言ったな、リオラ」

「わ、私……大丈夫でしたか?」

「大丈夫どころか……誇らしかった」

ラディスは少し恥ずかしそうに笑う。

その笑みを見て、
リオラの心臓はまた一つ、大きく跳ねた。


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