選ばれなかった令嬢は、均衡で世界を削り直す

しおしお

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第十一話 失われた肩書きと、残された誇り

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第十一話 失われた肩書きと、残された誇り

 王宮の発表は、簡潔だった。

「中枢炉責任者、配置転換」

 更迭という言葉は使われなかった。だが意味は同じだ。

 王宮魔術団の中枢炉管理責任者――その席から、アルフレッドは外された。

 公式理由は「分散型結界移行に伴う体制再編」。だが誰もが知っている。北の一件が引き金だった。

 彼は団長室に呼ばれ、淡々と通達を受けた。

「君の能力を疑っているわけではない」

 団長は言う。

「だが今は、象徴が必要だ。改革の」

 象徴。

 つまり、過去の象徴は退くべきだということだ。

「北の件について、責任を問うつもりはない」

「ですが、私が理論を推してきた」

「それも事実だ」

 団長は視線を逸らさない。

「王都は変わる。君も、変わらねばならん」

 言葉は正しい。だが胸に重くのしかかる。

 王宮を出たとき、空は晴れていた。

 魔導灯が昼間でも淡く光る。

 かつてはその光が、自分の誇りだった。

 今は、どこか遠い。

 社交界は素早い。

「北の公爵夫人候補に敗れた嫡男」

「魔力なしの令嬢に、理論で負けたとか」

 噂は歪む。

 事実よりも面白い形に。

 アルフレッドは夜会を欠席した。

 代わりに研究室へ向かう。

 机に積まれた資料。

 北で記録した波形。

 リリアーナの無効化特性。

 破壊ではない。

 抑制でもない。

 均衡。

「……私が、狭かったのか」

 呟きは静かな部屋に吸い込まれる。

 彼は、魔力の量こそが価値だと信じていた。

 多い者が強く、正しい。

 光らない水晶は、価値がない。

 だが今、光らない存在が、王都を変えた。

 北。

 私は中庭で兵の訓練を眺めていた。

 剣の音、掛け声、雪を踏む足音。

 魔術は使われていない。

 それでも秩序は保たれている。

「王都から正式な書状だ」

 レオンハルトが差し出す。

 開封する。

「分散型結界、第一段階完了」

 揺らぎはほぼ消失。

 中枢炉依存率は五割へ。

 成功と書かれている。

「良かった」

 本心だった。

 王都が崩れる未来は望まない。

 ただ、正しくあってほしかった。

「嫡男は」

「配置転換」

 レオンハルトは簡潔に告げる。

 胸の奥が、わずかに揺れる。

「……当然ですね」

 感情は複雑だ。

 恨みはない。

 だが、因果は巡る。

 彼は私を“無”と断じた。

 今、王都は彼の理論を“過去”とした。

 均されたのは、魔力だけではない。

 序列もだ。

 夜。

 暖炉の前で、私は一人考える。

 もしあの夜、水晶が光っていたら。

 もし婚約破棄がなかったら。

 私は今も王都で、彼の隣にいたのだろうか。

「後悔は?」

 背後からレオンハルト。

「ありません」

 振り向く。

「私は、選ばれた場所にいます」

 彼は頷く。

「王都は、いずれ彼を呼び戻すだろう」

「え?」

「改革の後には、再評価がある」

 確かに。

 変革期に退いた者が、安定期に戻ることは珍しくない。

「だが今は、孤立している」

 北の空は静かだ。

 王都の嫡男は、初めて肩書きを失った。

 だがそれは終わりではない。

 肩書きがなくなったとき、何が残るか。

 誇りか、空虚か。

 王都は揺らぎを越え、形を変え始めた。

 私は、ただそこにいる。

 触れなくても、影響する。

 そして遠く離れた王都で、一人の青年が初めて、自分自身と向き合い始めていた。
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