選ばれなかった令嬢は、均衡で世界を削り直す

しおしお

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第十二話 均された栄光と、差し出された手

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第十二話 均された栄光と、差し出された手

 王都の冬は、例年よりも静かだった。

 分散型結界への移行は順調に進み、中枢炉の負荷は半減。補助炉の増設により、局所的な揺らぎは吸収されるようになった。

 報告書は成功を告げる。

 王は改革を評価し、団長は体制再編を完了させた。

 そしてその裏で、魔術貴族の序列は静かに書き換えられていく。

 アルフレッドは新たに設けられた「構造最適化局」に配属された。

 中枢を司る立場ではない。

 補助炉の配置、負荷分散計算、過去理論の再検証。

 華やかさはない。

 だが、核心に近い仕事だった。

「これが、分散型の強みか」

 彼は記録を見つめる。

 小さな揺らぎは生じる。だが連鎖しない。

 過去なら中枢へ集中し、波となって広がった変動が、今は局所で消える。

「均衡……」

 あの言葉が、また浮かぶ。

 北の雪の中で、彼女が静かに立っていた姿。

 責めもせず、誇示もせず。

 ただ、存在していた。

 彼は初めて、自分が見落としていたものを理解し始める。

 王都の夜会。

 話題はすでに次へ移っていた。

「改革は成功ですって」

「王の判断は正しかった」

「北の令嬢はどうなるのかしら」

 もはや彼女を“無能”と呼ぶ者はいない。

 代わりに、「均衡の令嬢」「王都を変えた存在」と囁かれる。

 北。

 私は書斎で報告書を読んでいた。

 王都の結界安定化。

 揺らぎ減少。

 影響範囲縮小。

「終わりですね」

 私は小さく呟く。

「終わりではない」

 レオンハルトが訂正する。

「始まりだ」

 私は顔を上げる。

「王都は変わった。だが魔術貴族は変わりきっていない」

 確かに。

 構造は変わる。

 だが心は、ゆっくりとしか動かない。

「彼は」

 言いかけて止まる。

「嫡男か」

 レオンハルトが察する。

「構造最適化局へ」

「それは……」

「中枢ではないが、重要だ」

 私は静かに頷く。

 均されたのは、序列。

 だが完全に排除されたわけではない。

 彼はまだ王都にいる。

 肩書きは軽くなったが、消えてはいない。

 夜。

 私は一人、庭へ出た。

 雪は薄く、月が白く照らす。

 遠く離れた王都を思う。

 もしあの夜、婚約破棄がなかったら。

 私は今、王都で彼の隣に立ち、分散型への移行を共に議論していただろうか。

 想像はできる。

 だが心は動かない。

「迷いがあるか」

 レオンハルトが静かに問う。

「いいえ」

 即答する。

「私は選ばれました」

 北に。

 それが全てだ。

 数日後、王都から新たな書状が届く。

「構造最適化局より、理論協議の打診」

 差出人は――アルフレッド。

 私は手紙を開く。

 簡潔な文面。

「均衡特性の理論化に協力願いたい」

 謝罪も弁明もない。

 ただ、研究者としての申し出。

 私はしばらく黙る。

「返事は」

 レオンハルトが問う。

「受けます」

「理由は」

「王都の安定のためです」

 そして。

「彼のためではありません」

 自分でも驚くほど、心は静かだった。

 私は復讐を望まない。

 ざまぁを望まない。

 ただ、正しい形を望む。

 王都が均衡を理解するなら、私は協力する。

 それが私の選択だ。

 夜の風が雪を揺らす。

 王都は揺らぎを越え、変わり始めた。

 かつて私を“無”と断じた青年は、今、私に手を差し出している。

 均された栄光の先で。

 その手を取るかどうかは、もう私が決める。

 私は北の公爵邸に立ち、静かに封を閉じた。

 王都は変わる。

 そして私は、変わらずここにいる。

 選ばれた側として。
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