選ばれなかった令嬢は、均衡で世界を削り直す

しおしお

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第十五話 静かな反撃と、崩れる仮面

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第十五話 静かな反撃と、崩れる仮面

 王都の西区補助炉が安定したという報告が広がると同時に、社交界の空気は微妙に変わった。

 均衡特性は“危険な異端”から“必要な理論”へと位置づけが変わりつつある。

 だが、その変化を良しとしない者たちも確実に存在していた。

「分散型は北の思想だ」

「王都の誇りを削ぐ」

「均衡などという曖昧な概念に、理論を委ねるのか」

 魔術貴族の一角で交わされる低い声。

 彼らは表立って反対できない。

 王命が下っている以上、改革そのものを否定することはできない。

 ならば、狙うべきは“象徴”。

 均衡特性の中心にいる存在。

 北の令嬢。

 王都最適化局。

 アルフレッドは新たな資料を読み込んでいた。

 西区補助炉の位相修正は成功した。だが記録の中に、わずかな違和感がある。

「……波形の揺らぎが意図的だ」

 自然発生ではない。

 誰かが位相調整を意図的にずらした痕跡。

 団長に報告する。

「内部操作の可能性」

「証拠は」

「補助炉の調整記録が改竄されている」

 団長の顔が険しくなる。

「保守派か」

「断定はできません」

 だが疑いは濃い。

 もし“均衡特性が原因”という誤解が広まれば、改革は後退する。

 彼はすぐに北へ通信を送った。

 北の書斎。

 私は通信装置の前に座る。

「意図的な位相ずれ?」

「そうだ」

 アルフレッドの声は冷静だが、緊張が滲む。

「均衡特性に責任を押し付ける狙いか」

「可能性は高い」

 私は少し考える。

「ならば逆に、証明しましょう」

「どうやって」

「王都で、公開実証を」

 会議室が静まる。

「公開?」

「均衡特性が破壊ではないと、目の前で示せばいいのです」

 団長が唸る。

「貴族の前でか」

「はい。理論ではなく、現象で」

 アルフレッドが私を見る。

「王都へ来るのか」

「いいえ」

 私は首を振る。

「北から遠隔で行います」

 分散型通信装置を利用し、王宮中庭に設置された魔石群を遠隔接触装置で同期させる。

 危険はない。

 だが、効果は大きい。

 王都の中庭。

 貴族たちが集められる。

 均衡特性の公開実証。

「破壊体質ではないことを証明する」

 団長が宣言する。

 装置が起動する。

 北の書斎で、私は専用魔石に触れる。

 王都中庭の魔石が、一瞬だけ光を弱める。

 そして、揺らぎは吸収され、波形は滑らかになる。

「安定化している……」

 ざわめきが広がる。

 さらに第二段階。

 意図的に位相をずらした補助炉に、均衡特性を模倣した装置を適用する。

 乱れた波形が、ゆっくりと整う。

 破壊ではない。

 修正だ。

 王都の貴族たちは、目の前の現象に言葉を失う。

「均衡は敵ではない」

 団長が静かに告げる。

「王都を強くする因子だ」

 その瞬間、保守派の一角で顔色が変わる者がいた。

 計画は崩れた。

 罪を押し付けるはずだった“揺らぎ”が、逆に均衡の正当性を証明してしまったのだ。

 北。

 通信が切れる。

 私は深く息を吐く。

「これで終わりますか」

「いいや」

 レオンハルトが静かに言う。

「追い詰められた者は、次の手を考える」

 王都では、内部調査が始まった。

 補助炉記録改竄の責任者が割り出される。

 保守派の若手魔術師だった。

 表向きは技術的過失。

 だが裏で動いていた名は、いくつか浮かび上がる。

 アルフレッドは報告書を閉じる。

 ざまぁ、というほどの劇的な断罪はない。

 だが確実に。

 均衡を否定しようとした者たちの立場は弱まった。

 彼は窓の外を見る。

 王都の光は安定している。

 北の雪原の向こうにいる彼女を思う。

 かつて軽んじた存在が、今や王都を守っている。

 北の庭。

 春の気配が濃くなる。

 私は花壇に芽吹く若草を見つめる。

「破壊ではなく、修正」

 小さく呟く。

 均されたのは、理論。

 そして仮面。

 王都の仮面は、少しずつ剥がれている。

 私は北にいる。

 戻らない。

 だが遠くから、王都の均衡を支えている。

 静かな反撃は、終わっていない。

 次の揺らぎは、より大きな波を呼ぶ予感を孕んでいた。
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