選ばれなかった令嬢は、均衡で世界を削り直す

しおしお

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第二十二話 揺り戻しの気配と、北の答え

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第二十二話 揺り戻しの気配と、北の答え

 王命の修正から数週間。

 王都は再び落ち着きを取り戻していた。

 分散管理体制は維持され、均衡特性研究局は“調整役”として機能している。中央に権限は集約されず、各地区補助炉は自律的に連動し、必要に応じて局が補正する。

 理念は守られた。

 だが――。

「均衡は万能ではない」

 そんな声が、静かに広がり始めていた。

 今度は保守派ではない。

 商人層だ。

「分散型は安定しているが、急激な出力増強には弱い」

「中枢型の方が瞬間的な爆発力がある」

 事実としては、半分正しい。

 分散型は安定重視。

 爆発的な出力は苦手だ。

 だが王都は今、“経済拡張”を目指している。

 南方貿易の拡大。

 魔導炉出力の増強。

 より強く、より速く。

 その欲望が、均衡の理念と微妙に衝突していた。

 王宮会議。

「南港区に高出力炉を新設する」

「分散型の制限を一時的に解除」

 アルフレッドは眉を寄せる。

「一時的でも偏りは偏りです」

「だが経済効果は大きい」

 議論は平行線。

 最終的に決定された。

 試験的に一基、高出力炉を設置する。

 分散網の外で。

 北。

 私はその報告を受け、静かに目を閉じた。

「来ましたね」

「欲望は削りきれない」

 レオンハルトが言う。

 王都は崩れない。

 だが揺り戻しは必ず来る。

 数日後。

 南港区の高出力炉が稼働を開始。

 確かに出力は高い。

 貿易量は増加。

 商人たちは歓喜する。

 だが波形記録は正直だった。

 周辺補助炉の微細な歪み。

 負荷の偏在。

 まだ許容範囲。

 だが長期的には、蓄積する。

 アルフレッドは通信を開く。

「どう思う」

「均衡を崩しています」

「止めるべきか」

 私は少し考える。

「いいえ」

「止めない?」

「経験させるべきです」

 王都は今、理解の段階にある。

 理論でなく、実感で。

「ただし」

「ただし?」

「記録を残してください」

 彼は頷く。

 数週間後。

 南港区で小規模な魔力逆流が発生する。

 爆発ではない。

 だが貿易倉庫の魔導灯が一斉に消える。

 物流は半日停止。

 経済損失は軽微。

 だが衝撃は大きい。

 調査結果。

 高出力炉の偏在が原因。

 分散網と非同期。

 商人たちは青ざめる。

「安定の方が重要だ」

「短期利益で揺らぐのは困る」

 声が反転する。

 王宮会議。

「高出力炉を分散網に組み込む」

「偏在を解消」

 アルフレッドは静かに報告する。

「均衡特性による調整を適用」

 承認される。

 ざまぁ。

 今回は破滅ではない。

 だが欲望は自らの揺らぎで矯正された。

 北。

 通信が入る。

「予想通りだ」

「ええ」

「王都は学んだ」

 私は小さく笑う。

「均衡は、強制ではありません」

 削る。

 整える。

 だが最終的に選ぶのは王都。

 夜。

 庭に立つ。

 風がやわらかい。

 王都はまだ完全ではない。

 だが揺り戻しは、自ら修正されるようになった。

 それが最大の変化。

 私は北にいる。

 直接止めない。

 だが遠くから記録を支える。

 選ばれなかった令嬢は、今や“止めなくても崩れない世界”を作っている。

 それこそが、本当の逆転だった。
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