選ばれなかった令嬢は、均衡で世界を削り直す

しおしお

文字の大きさ
23 / 40

第二十三話 王家の視線と、選ばれない未来

しおりを挟む
第二十三話 王家の視線と、選ばれない未来

 南港区の高出力炉が分散網に組み込まれてから、王都は再び安定を取り戻した。

 商人層の不満は収まり、貿易量も持ち直している。分散型は爆発力では劣るが、長期的な信頼を生む。それを王都は実感として理解し始めていた。

 だが、王都が完全に均衡を内面化したわけではない。

 今度は、別の形で揺らぎが生まれる。

 ――王家直属顧問団への参加要請。

 それは名誉顧問とは比べものにならない、政治的な位置づけだった。

 王家の内側。

 意思決定の中枢。

 事実上、王族と同格の立場。

 勅書は簡潔だった。

 均衡特性の理論を王家の意思決定に組み込みたい。

 北の令嬢を、王家の顧問として迎えたい。

 王都は、理論だけでは満足しなかった。

 今度は“存在”を欲した。

 北。

 私は勅書を読み終え、ゆっくりと机に置いた。

「ついに、ここまで来ましたか」

 レオンハルトは腕を組んだまま沈黙している。

「断れば、王家の面子を損なう可能性がある」

「受ければ、北の独立性が揺らぐ」

 私は立ち上がり、窓辺へ歩いた。

 春の風が庭を揺らす。

 かつて私は王都に選ばれなかった。

 価値なしと切り捨てられた。

 だが今は違う。

 王家が直接、私を求めている。

 それは甘い逆転だ。

 だが――。

「お断りします」

 迷いはなかった。

「理由は」

「王家に入れば、均衡は“王家の理論”になります」

 それは理念の歪みだ。

 均衡は特定の血筋に属さない。

 特定の権威に従属しない。

「均衡は、どこにも属さないから意味がある」

 私は筆を取り、返書を書く。

 ――王家の信頼に感謝する。だが北は北として在り続ける。

 王都。

 王は返書を読み、長く沈黙した。

「拒否、か」

 怒りはない。

 だが重い。

 側近が言う。

「無礼では」

「違う」

 王は首を振る。

「彼女は一貫している」

 王家に入らない。

 王都に常駐しない。

 権威を拒む。

 それでも理論は提供する。

「均衡とは、そういうものか」

 王は小さく笑う。

「王家よりも強いな」

 アルフレッドは報告を受け、静かに目を閉じた。

 やはり、そう来る。

 彼女は王都に入らない。

 彼女は誰のものにもならない。

 ざまぁ。

 それは王家への挑戦ではない。

 だが事実として。

 王家の誘いさえも、彼女は選ばない。

 王都はそれを強制できない。

 なぜなら、均衡は王都を支えているから。

 北。

 通信が入る。

「断ったのだな」

「ええ」

「王は怒っていない」

「でしょうね」

 私は淡く笑う。

「均衡を怒りで否定すれば、王都が揺らぎます」

 彼は静かに頷く。

 夜。

 私は庭に立つ。

 星が澄んでいる。

 王家の視線。

 王都の期待。

 名誉も権威も、今は私を動かせない。

 選ばれなかった令嬢は、今や王家さえも選ばない。

 それが最大の逆転。

 均衡は中心に立たない。

 だからこそ、揺らがない。

 北の空気は冷たいが、澄んでいる。

 私はここに立ち続ける。

 王都は遠くで輝いている。

 だがその光は、もはや私を縛る鎖ではなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

処理中です...